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平田オリザ氏の発言について


平田オリザさん「悪意のある切り取り方をされ、非常に迷惑をしています」とブログを更新 その後のツイートで炎上が拡大中


 新型コロナウイルスは、世界中のすべての人を過酷な状況に陥れた。ウイルスは貧富の差や有名・無名の差を無視して、一様に人々を襲っている。その中で劇団を運営している平田オリザさんが、NHK「おはようニッポン」のインタビューで語った言葉が「炎上」している。

「製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。客席には数が限られてますから。製造業の場合は、景気が良くなったらたくさんものを作って売ればある程度損失は回復できる」。

 平田さんは、ネットでの取り上げ方が恣意的であり、説明する発言の中で、「漫画家には印税がある」「日本中の科学研究費の申請書は、すべて上から目線の選民思想ということになってしまう」などと、語り、ますます火に油を注いでいるように見える。

 大半の社会的活動が停止した時に、エンタメ、観光、外食などの、いわゆる「コト消費」が大きなダメージを受けているのは間違いない。

 演劇の人たちは、早くから文化の維持に政府の支援をアピールしていた。しかし、そういう態度に、私は、何か不純な気配を感じていた。

 それは「コト消費」というものが、豊かな「モノ消費」の上に成立していたことを忘れているのではないか。日本戦後社会の物質的豊かさが成立したからこそ、人々に余裕が生まれ、それが、現代日本の文化状況やエンタメ状況を生み出したのである。

 新型コロナウイルスは全ての産業構造を停滞させ、弱いところから破壊していく。そして、これが収束して、新しい日本社会を作る時に、最初に取り組まなければならないのは、残念ながら「コト消費」ではなく「モノ消費」だろう。すなわち生活必需品を中心とした製造業である。

 平田さんの説明は、豊かな時代の文化庁に対するプレゼンであれば、説得出来たかもしれない。しかし、そういう状況ではなくなったということを認識すべきではないか。国の補助金は税金であり、多くはモノづくりの人たちの税金が原資となっている。80年代バブル以降から、それまで悲惨な状況で芝居をしていたグループにも、文化的助成が行われてきた。それは、日本の豊かさであり、歓迎すべきことだったと思う。しかし、アフターコロナ状況は、そういう時代に、すんなりと戻れるという幻想は持ってはならないと思う。

 国はさまざまな給付金政策を行っているが、それらの原資も税金である。国に要求すればするほど、それは、やがて大増税として国民全体にのしかかることになる。エンタメ業界でも、アフターコロナ状況においては、チケットの高額化がささやかれている。

 私も音楽や出版という、付加価値産業で生きてきた者であり、仲間たちの苦境は辛い。しかし、本来、文化というものは経済のために取り組んだのではないはずだ。新型コロナウイルスによる過酷な状況は、表現者としてはむしろ、表現の本質を追求する契機ではないか。

 この時代に懸命に表現を追求した者だけが、やがて評価され、社会が復興した時に、人々に迎えられるのだと信じる。

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