2020年7月21日楽天生命パーク宮城で発生した濃霧についての考察

2020年7月21日、宮城県仙台市にある楽天生命パークで、東北楽天ゴールデンイーグルス対オリックス・バファローズの4回戦が開催されました。

この試合では同球場で発生した濃霧の影響により25分間の中断。

21:34に8回表途中コールドゲームとなり、試合は10-3でオリックス・バファローズが勝利しました。

濃霧によるコールドゲームは2000年5月9日に米子市民球場で開催されたオリックスー近鉄以来なんと20年ぶり。

日本シリーズを含めると、2005年に行われたロッテ対阪神の第1戦にまでさかのぼります。

参考(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200721/k10012527211000.html

私は大学時代に「仙台における霧発生のメカニズム」について、自身で先行研究を行っています。

当時の研究では、霧が発生する原因は主に移流霧であり、南東の風が吹くと霧が発生しやすく、北よりの風が吹くと霧は消散すると結論付けました。

今回の研究の目的は、自身の先行研究のアップデートと、今後、シーズン終了までに濃霧が発生する可能性について言及することです。

1 データ

今回の研究で使用したデータは以下のとおりです。
・アメダス、過去の気象データ、海洋の情報(気象庁HP)
・仙台空港METAR(NOAA National Weather Service HP)

2 地理的位置


楽天生命パーク宮城、アメダス(仙台)及び仙台空港の位置は図1の通りです。

楽天生命パークとアメダス(仙台)の距離は約800m。

そのため、今回の研究では楽天生命パーク宮城の観測値はアメダス(仙台)のものと同じであると仮定します。

なお、仙台空港はアメダス(仙台)の170°13kmに位置する。

地理的位置

   図1:各地点の地理的位置

3 事例解析

(1)天気図
図2に7月21日21時の、図3に7月22日3時の実況天気図を示します。

この日、北海道の西部には低気圧があり、低気圧から寒冷前線が東北の日本海沿いに伸びていることがわかります。

仙台は温暖前線と寒冷前線の間に囲まれた暖域にあることがこの天気図から読み取ることができます。

22日3時になると、この寒冷前線が東に移動しており、概ね仙台の位置に到達していることが読み取れます。

画像2

    図2:7月21日21時の実況天気図

画像3

    図3:7月22日3時の実況天気図

(2)風向・風速
図4は7月21日21時の、図5は22日1時の風向風速図です。

21日21時の時点では仙台湾から南寄りの風が仙台平野に吹いていることが分かります。

一方、22日1時になると、仙台周辺は概ね北寄りの風に変わっていることが確認できます。

(1)で寒冷前線が仙台周辺に到達していたことに言及しましたが、地上の風向を見る限り、1時の時点で前線が到達していたことが、図4、5から推測ができます。

画像4

   図4:7月21日21時の風向風速

画像5

       図5:7月22日1時の風向風速

(3)視程
図6は仙台空港のMETARです。

これを見ると、21日17:23(以下、日本時間で表示)に視程が1km未満の霧となり、20:38には1km以上に視程が回復し、霧からもやの観測に切り替わっていることがわかります。 

図7は仙台における1時間ごとの観測データ及び記事です。

記事には21日19時には霧が発生し、22:30には視程が1km以上になっていることが分かります。

以上から、霧の発生は仙台空港で観測してから1時間37分後、霧の消散は仙台空港の1時間52分後ということになります。

仙台空港では、霧が発生していた1時間57分の間、130~140°6~7ktの風が吹いていた。ある程度の風速があることから、放射霧の可能性は低く、約25kmのフォグバンクが海上から侵入してきた移流霧であると推測することができます。

画像6

   図6:仙台空港のMETAR

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   図7:仙台における1時間ごとの観測データおよび記事

(4)海水温度

図8は7月21日の海面水温実況図です。

仙台湾周辺は概ね20度であるが、南東には25℃以上の海面水温が確認できます。

海上の風向は観測値がないため推測になりますが、霧発生当時は南東からの風であったことから、太平洋からの湿った空気が仙台湾周辺の海面水温が低いエリアで冷やされ凝結。

これにより発生した霧が仙台平野に流れ込んだ可能性があります。

図9は海面水温の平年差ですが、三陸沖から関東海域北部にかけて海水温度が1~2℃ほど低くなっています。

これは平年より日射量が少ないために発生しているものとみられますが、このことが霧発生に影響を与えている可能性が考えられます。

画像8

   図8:7月21日海面水温実況図

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   図9:7月21日海面水温平年差

4 結論

これまでの議論に基づき、今回発生した霧は三陸沖で発生したものであり、これが仙台平野に流入した移流霧であると推測できます。

また、移流霧であれば、仙台空港の観測をもとに楽天生命パークの霧が滞留する時間もある程度予測することができることもわかりました。

ただし、1事例のみの解析であるため、この結論をより確実なものにするためには、やはり統計解析が必要だと考えます。

しかしながら、仙台空港の観測を参考にすることは非常に有用であることが今回の研究で明らかになったので、楽天生命パーク宮城での霧発生予測の参考にしてほしいです。

5 今後の霧発生の有無について

平年の7月における仙台の平均霧発生日数は7.0日であり、7月を境に発生日数は減少していきます。

梅雨明け後は日照時間も多くなり、仙台湾含む三陸沖の海面水温が高くなることが期待できることから、8月以降は霧の発生が減少するものと思われます。

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