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うっかりさん達「おしりたんてい」を目指す

夫がやってくれた。

家の鍵を落としたのだ。この間私も財布を落としたばかりなのに。夫婦ともにうっかりさんすぎやしないか。

朝、夫は自転車で自宅を出て100mくらい進んだ先で、ポケットに入れたはずのキーケースがないことに気づいた。
すぐに自宅付近まで引き返したが、なぜか見当たらない。
オロオロしながら自宅にいた私のところへ戻ってきたのだ。

やってしまわれたな。
私は紛失仲間がこんなすぐそばにいたことにほくそ笑む。

「オレとしたことが。めちこみたいなことをしてしまった!鍵のことが気になって今日はもう仕事できない」

鍵を落としたことよりも、私と同じようなことをしてしまったことにショックを受けているようだった。

とにかくたったさっき落としたばかりなのだから、なくなるはずがない。今すぐ探そうと、私たちは自宅付近を隈なく探す。
100mの距離を何度も行ったり来たりする。
が、一向に見つからない。

おかしい。

自宅前でポケットに入れたキーケース。それが、目と鼻の間でなぜか消えてしまった。
夫が自宅を出て戻ってくるまでの時間、わずか5分。その間にいったい何が起きたというのだ。

私たちはあらゆる仮説を立てて鍵の捜索を行なった。気分はすっかり子どもらが大好きな「おしりたんてい」である。

おしりたんていのお決まりのセリフ「フーム、においますね。」を連発しながら自宅付近を探す。


「フーム、側溝あたりがにおいますね。」

ポケットから落下したキーケースは、綺麗な放物線を描いて側溝に落ちたのではないか。側溝にスマホのライトを当てる。
だが、まったく見えやしない。
側溝の中は茶色く濁っていて何も見えない。しかもキーケースも焦げ茶色だった。

見えない。
が、まだ諦めない。

「フーム、反対側の歩道が匂いますね。」

ポケットから落下したキーケースは、車道に転がると走ってきた車に撥ねられて反対側の歩道に飛んでいったのではないか。反対側の歩道も探す。草むらも足でぺしぺしやりながら探す。
が、焦げ茶色の物体を見つけることはできなかった。

私たちは諦めた。
あとで交番へ行ってみよう。最近お世話になったばかりで気が引けるが、仕方なし。

そんなこんなで夕方になり、交番に行く前にもう一度探してみることにした。今度は娘も捜索に加わってくれるという。心強い。うっかり脳の両親から生まれた娘だが、うっかり脳が遺伝しているとは限らない。私たちは意気揚々と鍵の捜索へと向かった。

自宅を出てすぐのところで、「あった!」娘の甲高い声が聞こえた。

え、

娘の手には焦げ茶色の物体。
それは正真正銘、夫のキーケースだった。
「どこにあったの?」「このフェンスの上に置いてあった」
私たちは抱き合って喜んだ。
自宅の隣のフェンスの上に、鍵はそっと置かれていた。
鍵からしたら「そこじゃないんだよなぁ」ずっとそんな感じで私たちを見ていたかもしれない。

夫が鍵を落としたとき、目の前にはバスが停まっていてバスから降車した人たちがいた。おそらくそのうちのどなたかが、拾ってフェンスの上に置いてくれたんじゃなかろうか。

側溝でも反対側の歩道でもなかった。
鍵はずっとフェンスの上に置かれていた。
たぶん朝からずっと。


おしりたんていの主題歌「ププッとフムッとかいけつダンス」が脳内を流れていく。

おしりたんてい ププッと〜♪
推理 スイスイ ご解決〜♪

うっかり脳のふたりだけでは到底解決できなかった。



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