幸せを司る貴方

愛しい人を見る度、痛みと共にパパラチアといわれる宝石が目からこぼれ落ちる。
そういう病にかかっている私の恋人。
神聖なような、藤の花が良く似合うようなそんな人。
朝、彼より後に起きると必ず枕元に宝石の屑だけが落ちている。私が知らない間に、痛い痛いと泣いているのだろう。
完全に治すことの出来ない病で、2ヶ月に1回症状を和らげるためだけの目薬と飲み薬を貰いに今日も通院する。目薬を差しても宝石は止まることがなく、ただ痛みが無くなるだけである。
私はもう彼が流す宝石の煌めきを見たくない。
 「別れよう もう貴方の辛い姿は見たくないから 」と言った。なのに彼はただ、 大丈夫だ これでいいんだ ってこの恋と関係を終わらせることをしないまま診察室へと足を運んで行った。
ただ悲しむことしか出来ない、一番愛している人の辛さを和らげることの出来ない私とは一体なんなのか ずっと悩み続けていた。
辛いのに私のことを見続ける理由が分からないまま、今まで一緒に生きてきた。

薬を貰い、嬉しそうに私の元へ走ってくる彼は心の底から楽しそうな笑顔を浮かべていた。
ずっとこの笑顔だけ見れたらいいのに。
そんな心配を汲み取ったのだろう
大丈夫だよ 安心して と言い、彼は離れようとしない理由をそのまま話し始めた

パパラチアの宝石言葉は 一途な愛 運命的な恋っていうのがあるんだ。 僕は君以外の人を見てこの宝石が落ちたことなんてなかった。こんな事で君と離れたくないんだよ。 君と僕はそういう関係なんだよ。

真剣な目でこちらを見ている彼が言ったその言葉で、私も同じこと思っていたことに気付かされた。涙が止まらないまま帰路につき、明日も仕事がある と 早めに食事を済ませ眠る。

朝 暖かい太陽の陽射しが2人のベッドへ入る
いつも通り起きた時、彼はまだ寝ていた。
宝石の落ちていない朝はいつぶりだろうか。
久しぶりに朝食を2人分、朝らしいパンとベーコンエッグを作っていた時に彼が飛び起きてきた。なんの騒ぎだろうか。
「目薬はさしたの?」聞きながら振り返ると、そこにはただの透明な涙を流した彼が今までに見た事ないくらいの笑顔で立っていた。
治ったんだ と嬉しそうにはしゃいでいる。これでずっと幸せそうな彼を見ることが出来るんだと私も嬉しくなった。

幸せを 司る君 美しく 一つの香り 古めきしずか

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