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横川〜軽井沢を越える碓氷峠を再訪 〜 2024年・夏 青春18きっぷの旅 その2

鉄ちゃんにはたまらない碓氷峠の思い出

前回の「青春18きっぷの旅 その1」では、1997年まで使われていた中央線の大日影トンネルを訪ねた。

今回は、同じく1997年まで使われていた信越本線の横川〜軽井沢の間、急勾配の難所である碓氷峠を、やはり小学生のころに列車で通過した線路を徒歩で辿った。
この区間は、元々は鉄道を通すことが難しい山あり谷ありの急勾配区間であったところに、まずはアプト式(歯車を噛み合わせるレール)で、ついで粘着式(通常の車輪) で、そして現在の新幹線で列車が通った鉄道の歴史の積み重なっている場所だ。
アプト式の線路跡を整備した「アプトの道」が自由に歩けるようになっており、往時を偲ばせるレンガ造りのトンネルや線路を歩くことができる。一方で97年に廃止された信越本線の線路は整備されておらず廃止された当時の状態を保っており、普段は立ち入り禁止になっている。

信越本線の横川〜軽井沢の間は66.7パーミル、すなわち1kmの間に標高差が66.7mあるという急勾配区間だ。信越本線が走っていたころは、登るのには力が必要で、降るのにはブレーキ力が必要で、通常の車両だけでは安全に通れない。
そこで、下り列車は横川駅で、上り列車は軽井沢駅でEF63という電気機関車を2両連結し急勾配区間を補助し、一方に到着してから切り離す、という運用をされていた。

EF63は碓氷峠用に開発された電気機関車で、車輪ではなくレールに吸着する電磁吸着ブレーキを装備したり、電車に連結する自動連結器と貨車に連結する密着連結器に両対応する連結器を装備したりとユニークな形式だ。

小学生当時の18きっぷ旅では、115系電車で横川駅に到着すると、連結器の回転や連結作業を眺めるのが楽しかった。何度も見ていると流石に飽きるので、繰り返し乗るうちに連結作業よりも釜飯の方がいいや、となって荻野屋さんの売店を優先するようになっていた。

碓氷峠越えはトンネルと鉄橋の連続で、山や川を見ながらゆるゆると進む。
地図上での距離の割に、パワーやブレーキの関係で速度を出さない安全優先の運行で時間がかかる。時間がかかるというのは、移動を目的とせずに「乗車」を目的としていた乗り鉄としては幸せな時間だったように思う。

北陸新幹線の開通を機に横川〜軽井沢の在来線は廃止された。
軽井沢から先はしなの鉄道となり、現在18きっぷで行かれるのは横川までとなっている。

アプト式によって峠越えを実現したのが1893年、在来線が廃止されたのが1997年。
鉄道の開通で栄え、100年以上を峠越えの鉄道と歩んだ横川駅周辺や安中市は、鉄道遺構を観光資源にする取り組みをしている。町おこしというよりも、文化の継承や、何かコミュニティ的なエネルギーの強い取り組みのように感じられた。

その取り組みの一つに「廃線ウォーク」があり、今回はこの廃線ウォークに参加して「あの時の線路」を辿った。

廃線ウォークは上り線(軽井沢から横川に勾配を降りる)と下り線(横川から軽井沢に勾配を登る)とがあり、今回は横川から軽井沢に向かう下り線のツアーに参加した。

横川駅から鉄道文化むらまで残る線路

朝8時台に横川駅に到着し、麻苧の滝に向かうも、スズメバチが群れていて断念。
ツアー開始は11時、だいぶ時間がある。

碓氷川と吊り橋。この左手に滝があったのに…

何でもあるぞ碓氷峠鉄道文化むら

9時に開園する「碓氷峠鉄道文化むら」を見学することにした。
ここには国鉄時代の車両が多数展示されているほか、EF63の動態保存機を使った運転体験もできる。(運転体験は免許制になっていてなかなか講習が予約できない)

歴代の電気機関車
SLもラッセル車も
そうそう、こういうシートで旅したな…

こういう車両の現役当時は移動できることこそが価値で、その間の体験は気にしていなかった。
今では人間工学だとか行動経済学だとかで、シートの配置や手すりの位置やスペースの作り方や広告枠の工夫に満ちた空間になっている車内も、この時代は座れればよし、少し柔らかければ素敵、という感じでそれはそれで趣があった。
グループ旅行が多かったり、人との距離が近かった時代だったかもしれない。

廃線ウォーク 〜信越本線下り線踏破〜

廃線ウォークの下りツアーでは、12時ごろ温泉施設「峠の湯」でランチをとることになっており、自分はそこで合流することにした。
ランチはもちろん荻野屋さんの「峠の釜飯」。ただし釜はツアー限定色。

廃線ウォーク限定色の釜

ランチが足りなくて、山ぶどうスカッシュとカレーパンを頂く。
カレーパンが揚げたてで美味しい。

山ぶどうスカッシュとカレーパン

ランチ後、13時にトロッコ乗り場に集まり、イヤホンガイド、ヘルメット、懐中電灯の装備を確認したりレンタルしたりした。
安全についての説明を受けてから立ち入り禁止区間に入っていく。

線路に入り出発
さっそく一つ目のトンネル

廃線跡は荒れ放題になりがちなところ、サポーター制度のメンバーの方々が草刈りなどメンテナンスをしてくれているそうだ。
刈りすぎると趣が損なわれるという声もあるそうで、適度に残して廃線の雰囲気を保っている工夫があるということだった。すごい。

66.7パーミル

最大勾配の66.7パーミルは上り線にあり、勾配標が設置されていた。
このあたりでは上下線が隣接していて、階段で行き来できるのでどちらのツアーでも見られる。

照明のないトンネル

下り線のツアーでは18本のトンネルを越える。
照明はないので懐中電灯で照らしながら歩く。
トンネルの中はバラスト(砂利)に枕木というところもあれば、左右が保線用にコンクリートで固められているところもある。
山をくり抜いていることから湧水が豊富な箇所もあり、前回の大日影トンネル同様に線路を水が流れ川のようになっていたり、線路中央に排水路が設置されている区間もある。

トンネルの中は気温が低くひんやり感がある。
ただ、湿度もかなり高いので、歩き続けていると蒸し暑さも出てくる。

コウモリのコロニー

トンネルの出入り口には多少の虫がいて、懐中電灯に蛾が寄ってくることがあった。
トンネルの奥へ進むと、コウモリのコロニーがあり、線路上に糞が堆積していたり、天井に密集していたりする。
割と前半で暗闇の生き物に出会うので、苦手な人にはチャレンジングかもしれない。(18本もトンネルがあると後半は慣れるのでは)

そしてかなり早くに最大の見どころ(?)、碓氷川を越えるトンネルに挟まれた鉄橋に差し掛かる。
とても幸運なことに、カモシカが線路上にいて、こちらを向いて静止していた。好奇心が強く人間を見ていたり、目が悪く人間を認識できていなかったりするらしい。

2号トンネル出口、カモシカに出会う
お互いに距離をはかりつつ

2頭いて、この後別々の方向に去っていった。

2号トンネルを出てのこの鉄橋からは、左手にアプトの道の「めがね橋」が、右手に上り線の鉄橋が見える。

アプトの道 めがね橋

夏の緑の濃い山の中に3本の橋が並んでいる。
手を振ったり、振られたり。
5月にめがね橋を歩いたけれど、歩いていると見えないから、こうして視点を変えると自然と人工物の組み合わせを俯瞰できておもしろい。

ツアーは休憩を挟みながら、県境の峠に向け登り続ける。
途中、カーブしているトンネル内で懐中電灯を消し、真っ暗闇を体験したりも。
トンネルが多くても、暗闇体験や鉄道設備の説明、動画鑑賞などなど、単調にならない工夫で充実していた。

カーブしていると外の光が届かない

途中、バッテリーを使って照明や信号を点灯する箇所もあった。
乗務員が見ていたトンネルの内の様子を見ているようで面白い。

運転士が見ていたトンネル内部
進行

熊野平信号場で上下線が出会い、ここで休憩。

「転轍機」好きだ

休憩が多めで写真を撮りやすい。
(が、この休憩はヤマビル対策次第な一面も…)

線路はトンネルだけでなく、小さな川を越えることも多い。
大雨で線路が流されたり、土砂が流入したりと、維持管理に苦労が多い路線だったようだ。

線路が跨ぐ沢
トンネルに次ぐトンネル

トンネルを撮っていて遠くに動物がいることに気付いた。

座り込む数頭のニホンジカ

拡大すると3頭のニホンジカのシルエットが見える…
トンネルを抜けると多数のシカの群れが走り去っていった。

カモシカ、ニホンジカの他にも、地域としてはサルとクマもいる。

さらにトンネル

くねくねとした線形、トンネルと森のコントラスト、とても綺麗な場所だ。

ツアーの全行程はおよそ11km。
バラストや枯葉、コンクリート、泥や苔の上を終始上り坂ということで、距離以上に全身の筋肉を使う感じがある。

そして終盤にようやく県境を越える。トンネルの中で。

群馬県・長野県の県境

ここまでくるともう一息。

中継信号と出口の湿気

最後のトンネルでは中継信号が灯っていた。
この表示も「進行」、前進していく。

外気の湿気や気温の関係で出口は霧が立ち込めたように白い。

トンネルを抜けたらゴール。
ここで道路に戻る。

トンネルを抜けて軽井沢に

すぐ左を新幹線が通っていて、トンネル内でも音が聞こえる。
出口から軽井沢駅は10分〜15分といったところ。

ツアーに参加して思ったのは、ガイドの方の熱意・思いの強さ。
それに、地域や参加者の話に対する傾聴力…リーダーシップを感じた。

解散後は軽井沢駅に急ぐ。
新幹線の切符を買い、ツアーで紹介された荻野屋さんの蕎麦屋へ。

荻野屋の山菜蕎麦

蕎麦も山菜も信州らしさがあり、出汁が美味しい。
高級リゾート地化した軽井沢で、新幹線の駅の中で食べる蕎麦が500円でお釣りがくる。素晴らしい…

新幹線は自由席で高崎まで行き、往路で使った18きっぷで高崎からは在来線へ。
グリーン車で疲れを癒す。

ビールと地酒と

ほぼ始発で横浜を出て、21時ごろに戻ってきた。
歩いたのは20kmほど。
滝や鉄道文化むらでそこそこ歩いたようだ。

高崎からは在来線と徒歩で半日、軽井沢からは新幹線で一瞬

季節を変えてまた行きたい。
上り線も歩きたい。

服装とヤマビル対策

廃線ウォークのサイトには服装や装備についての説明があり、トレッキング程度の登山風の服装が望ましいとされている。
一方でガイドの方の写真を見るととても軽装のようだ…

自分はトレッキングの服装で行き、ヤマビルが出ると明記されていたので対策をしていった。

まず、歩くのはバラストや枕木、落ち葉が積もった地面だ。
鉄道会社の保線の人の雰囲気を想像してみると、くるぶし以上の長めのブーツや長袖長ズボンではないだろうか。
11kmの大半は整備されていない砂利の上、山で言うとガレ場のようなところだし、保線されなくなって時間が経っているので崩れていたり崩れやすい部分もある。
慣れていない人にとっては、歩きにくいはずだ。
なので、トレッキングシューズにするのが無難で、履き慣れておくと良さそうだ。

服装は、気温よりも虫対策で肌を露出しないほうが良さそうだ。
蚊や蛾がいるし、毛虫もいたので、うっかり刺されてしまわないようにしたい。

そしてヤマビル対策。

ヤマビル

ヤマビルは枯葉の下にいて、暖かく湿気が多いと活発に動き回る。
シャクトリムシのように前後の吸盤で器用に動き回り、移動速度はかなり速い。

このヤマビル、ディート配合の忌避剤を使うと避けられる。
特に「ヤマビルファイター」はウレタンで膜を作るようになっていて、前日や朝一でスプレーして乾かすことで効果が長持ちするそうだ。
靴、服、鞄にスプレーしておくと良さそう。

それから、休憩の時に枯葉の近くに座らないほうが無難だ。

ヤマビルは二酸化炭素や体温で動物を見つけて近付くと言われている。
地面やレールに座ると、その近くにいたヤマビルが集まってきて登ってくる。

ヤマビルに噛まれても、痛みや痒みはほとんどなく、止まりにくい出血を見て気付くことがある。
今回のツアーでは、要所要所でヤマビルの確認をしていたものの、ゴール地点でヤマビルの存在に気付いたり出血したりという参加者もいた。
肌を露出しない、忌避剤を事前にスプレーしておく、というのは重要だなと感じた。

万が一のときのために、消毒薬と大きめの絆創膏や貼るタイプの包帯を持っていくといいかもしれない。
こういうキットも含め、トレッキングの服装と装備があると安心だろうと思う。

使ったカメラ

  • Nikon Z f + CONTAX Carl Zeiss Planar T* 85mm F1.4 AEG

  • Nikon Z 6 II + Nikon NIKKOR Z 24-120mm f/4 S

もうずっとこの組み合わせだ

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