【現代表記】 福沢諭吉 「英国 議事院談」 (議事院会議手続)

底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第二巻(再版)所収の「英國議事院談」を使用した。


議事院会議手続てつづき

 議事院の会は、議員の選挙を復命したるの当日に設くべき法なれども、前度の集会を止むるときに、この次の会は議事の公報をまちて設くしとのむねを布知して、あらかじめ再会の日を期するときは、ぼく期日にいたりて始めて会するを例とす。ごとく議員会同の上、一箇条の国法を議定すれば、これを議事院の一会と名づく。集会の初日には国王みずからその席に臨み、躬から口上をもちて議事の集会を設けたる所以ゆえんの次第を述ぶ。しからざれば王の名代みょうだいをして出席せしめ、王にかわりて此礼式を行わしむるを常典とす。ただし近世の例にて、下院の議長を選定せざるの内は国王出御しゅつぎょの礼を行わず。

 下院の議長とは、衆議人の入札をもちて、議員の内より一人物をえらびて下院の長官に立て、王の允許いんきょうけたる者なり。その職掌しょくしょうは、院内の体裁を修め、定式じょうしきの旧例を質問する者あればこれに応接し、之を弁説する等、諸件に関係すること、あたかも一院中の周旋しゅうせん人たるがごとし。また衆議人にかわりて其決議を他局へ報じ、其心願を述べ、其謝詞しゃしつぐるが如きは、あたかも之を一院の代舌と称すべし。一歳の給料6000ポント、役宅に住居す。かつ其職掌をおえれば、勤功を賞するがめ、貴族の列にくわわるを例とす。

 下院の議長は、議員の数40人にみちるをまちて初めてその席に付くべし。すでに其席に付けば、ただ他人の論議を聞くのみにて、自己の説を述べあるいは他説の可否を評するを許さず。ただし衆議員の内にて両説をおこし、其説を主張するもの正しく相半あいなかばして決しがたきときは、議長の一議をもちて東西を決すべし。これを決議と名づく。また衆議にり、暫時ざんじ議長の席を廃して事を評論することあり。しかるときは其評論稍々やや私に属し、之を議院(ハウス)と唱えずして議会(コムミッチース)とう。この時には議長も既に其席をさりて衆議員の列に加わるがゆえに、事を評論すること尋常じんじょうの議員に異なることなし。(議案再読の時のごとこれなり)

 下院附属ふぞく官吏かんりは、議長のほか、書記官、教師、番士等、合して22名あり。(教師とは法教にかかわる僧なり。西洋諸国にては兵隊軍艦等にも必ず教師ありて、日曜日には法をときて人を教化するを常典とす。議院の教師もこのたぐいなるし。番士の事は下につまびらかなり。)

 両院の議員、はじめて会同すれば、誓詞せいしの法を行い、しかる後に事を議するを例とす。すでに誓詞をおわり、国王の上意を聞き、れに対して礼謝を述べ、之れより国法の会議に従事すべし。国法会議の法は、上下両院共に大略相同じ。ただ私評公評の事に付きいささか区別あり。その次第ごとし。

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