【現代表記】 「西洋事情」(フランス 政治) 福沢諭吉
底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第一巻(再版)所収の「西洋事情󠄁」を使用した。
西洋事情二編 巻之四
仏蘭西
政治
1830年仏蘭西の政体一度び改まり、立君定律の法に基づき、血統の男子、位を継ぎ、上下両局の議事院を設て政を為せり。1848年第2月の騒乱に及で此政体、又一新して合衆政と為り、国民一般の入札を以て750人の議員を選挙して政を為せしが、1851年以後、屡々体裁変じて、国政の権柄遂にナポレオン一人の手に帰せり。1852年第1月14日の法令に従えば、政府の体裁左の如し。
第1 行政の権、国帝に在り。
第2 事務執政、国帝これを命ず。
第3 国議の員、執政の命に従て国法の議を案ず。
第4 議政の員、国民一般の入札を以て選挙し政を議す。
第5 二等会議の員、国中有名の人物を集めて政体を保護し、人民の自由を助け権威折衷の趣旨を論ぜしむるもの。
国帝は過失あるも罪其身に及ぶ可らず。執政官を黜陟するの権あり。罪人を赦すの権あり。吏人を命ずるの権あり。爵位を与うるの権あり。海陸軍に号令し、和を議し、師を起し、外国と条約を結で貿易を行い、或は外国に応援して攻防を共にする等、皆帝の権なり。又国帝は議政に関るとき急に議を発して急にこれを決するの権あり。何等の法令にても帝の然諾を得ざればこれを施す可らず。何等の官員にても帝に対しては誓わざる者は行うを許さず。
皇帝一歳の自用費2500万フランクを以て分限とす。此外帝室の地面より税を収め、別に1200万フランクあり。欧羅巴諸帝王の内にて歳給の最も多きものなり。
事務執政は国帝の命ずる者にて、帝の意に適せざれば則ち其官を免ず可し。各局の執政、各々其一局の事務を治めて互に相関係なし。但し当局の事務に付き過失あるときは其責に任ぜざる可らず。事務執政の罪を白す可きものは唯二等会議の員のみ。
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