【現代表記】 福沢諭吉 「ライフル操法」 (教師の職掌)

底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第二巻(再版)所収の「雷銃操法」を使用した。


雷銃ライフル操法 巻之一

福沢諭吉 訳

第1編

教師の職掌しょくしょう

第1章

 小銃ライフル業前わざまえも他諸術の如く一大隊バタリヨン毎に指揮官コムマンジング・オフィシルありてその稽古を為す。ただし指揮官は兵卒の職掌しょくしょうを心得、他教師の上にたっみずから其指図セルゼアントを為し、又銃術鑑察司インスペクトル・オフ・モスケットリが時々其場所へ見廻るとき、鑑察司インスペクトルの説を聞き、一人にて小銃業前のおしえ引受ひきうけるものなり。

 指揮官コムマンジング・オフィシルは、小銃ライフル業前のことに付き、一切その挙動をしたためて、諸向もろむきへ報告し、又銃術大鑑察インスペクトル・ゼネラルもとめに応じて逐一ちくいち其事を弁解せざるべからず。

第2章

 マジョールも銃術の論説及び業前を心得、指揮官コムマンジング・オフィシルの命を受けて、日々稽古所へ出席し、教授のゆき届くや否を吟味す。ただし指揮官のほか、マジョール一人にて同役なければ、筆頭の甲比丹カピタンと順番にその職を勤むし。

第3章

 甲比丹カピタン及び甲比丹並ソブアルテルンは、中隊コムパニ大隊バタリヨンの教練及び小銃ライフルとり扱いの法を心得、小銃稽古の場所へ出席して、兵卒の放発し又は遠近を測るの術に達するや否を吟味す。

第4章

 雷銃ライフルを持つ歩兵には、一大隊バタリヨン毎に銃術師範役オフィシル・インストリュクトル一人ありて、少年の士官、生兵に小銃ライフルとり扱いを教え、その他の士官、兵卒にも、年中大隊調練のた稽古を習わしむ。

 この師範役オフィシル・インストリュクトルは、指揮官コムマンジング・オフィシルの委任を受け、諸中隊コムパニの兵卒をして、正しく規則にしたがって的打ちを為し、遠近の見はからいを心得しめ、あるいは兵卒の間に不和をおこすときはこれ取捌とりさばく等、一切の事務をひき受くべし。

 師範役オフィシル・インストリュクトルは、大隊バタリヨンの中にて別段の役人として、大隊屯所とんしょ職掌しょくしょうを勤めずこれ定式じょうしきつとめに用ゆるときは、その趣を場所の総督コムマンドル・イン・チーフに告げ、又毎月銃術大鑑察インスペクトル・ゼネラルへ報告する書面の中にも其次第をるすし。

第5章

 大隊バタリヨンの稽古場にて教授する士官は、すべ定式じょうしきつとめを為さず。かつ総都督コムマンドル・イン・チーフより別段の命あらざれば、その勤役中に転役することなし。ただこの役を勤むるに、甲比丹カピタンの教授方は3年をかぎりとし、教授方手伝てつだいは2年を限とす。故に指揮官は其後役と為すべき人物の出来しゅったいするよう、平生へいぜいより心掛けざるべからず。

第6章

 少年のときより銃術初段の免許を得たるものにらざれば教授方と為すべからず。ただし1863年第9月より教授を受けたる士官は、初段の免許をとっ大隊バタリヨン屯所とんしょの教授方と為るけのことを心得ざる可らず。(原書は1864年第12月の出版なるが故に、本文にう士官は、16ヶ月の間、教授を受けたるものなり。)

第7章

 一大隊バタリヨン毎に甲比丹並ソブアルテルン1人をえらび師範役オフィシル・インストリュクトルたすけとなして大隊屯所とんしょの常職を免ず。この師範役助も大鑑察インスペクトル・ゼネラルにて人撰じんせんする所の者なり。

第8章

 定式じょうしきの調練をなし、又は生兵の多きときは、師範役オフィシル・インストリュクトル及び師範役たすけとも急用にあらざれば同時に不在なるを許さず。師範役、し14日以上不在なれば、その間、師範役助には別段の手当を与うべし。

 この規則は大隊バタリヨン屯所とんしょおいても同様なり。大隊屯所にて教授するものは、師範役オフィシル・インストリュクトルたすけその下役とにて、平生へいぜい下役の給料は少なけれども、し師範役助、14日以上不在なれば、其間は下役の給料を増すべし。

 又師範役オフィシル・インストリュクトルの休息するときは、指揮官コムマンジング・オフィシルよりその趣を総都督コムマンドル・イン・チーフへ告げて、代任の者をえらび、総都督の鑑定にてこれを命ずべし。

第9章

 師範役オフィシル・インストリュクトルアジュータント(コロネルの次席)及びコールトル・マーストル(陣中の俗役)は、総て指揮官コムマンジング・オフィシルを助くるの職掌しょくしょうなれども、雷銃ライフル操法のゆき届くや否に付き、総都督コムマンドル・イン・チーフよりせめを受くるものは指揮官にて、その職掌は士官、兵卒を共に教導するものなり。故に指揮官たるものは、以下の士官を鑑察して、教授の職掌をおこたるものあるを知れば、其趣を総都督に建白すべし。

第10章

 陣中ならび屯所とんしょにて休息の間、銃術の学校に行かんことを願うものあれば、指揮官コムマンジング・オフィシルよりこれを許すべし。

第11章

 雷銃ライフルを持つ歩兵騎兵の大隊バタリヨンには指図役セルゼアント・インストリュクトルなるものあり。指図役は銃術の学校にて免許を受けたるものにて、その職掌しょくしょうみずから手をだし、的打ちを教え、遠近見はからいの法を授くる等、すべ師範役オフィシル・インストリュクトル手伝てつだいを為して兵卒を教導する者なり。指図役も大隊定式じょうしきつとめを為さず。かつこの士官は無級なれども、尋常無級士官とは其とり扱い一様ならず。

 指図役セルゼアント・インストリュクトルの階級は三等にわかつ。

第12章

 一中隊コムパニ毎に教授するものは等二等の指図役セルゼアント・インストリュクトルなり。その職掌しょくしょうは、師範役オフィシル・インストリュクトル及び第一等の指図役を助け、又小銃ライフルを解き小道具の掃除を為し銃包を製することを教ゆ。

第13章

 無級士官は中隊コムパニの中にて兵卒の教授を助くるものなり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?