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あやうく博士課程に進学するところだった(歴史学)

余談:逆張りについて

私は逆張りが好きです。そのほうが少ない労力でより多くのものを得られる場合が結構多いので。
雨の日にスーパーに買い物に行くとか(値引きされる)、平日の昼間にファミレスに一人でいくとか(空いてるのでゆったりできる)…

逆張りという行為を分解してみると、①人がやっていないこと、あるいは、②やらないことについて、あえてやることです。

①と②の区別はあまりないようでとても重要です。
というのも①の場合はその旨味に多くの人が気づいていないから「やっていない」かもしれませんが、②の場合は旨味がないどころかデメリットが巨大すぎて「やらない」場合があるからです。

逆張りが成功するのは基本的に①の場合です。心に留めておきましょう。

博士課程とは?

大学には基本的には学士課程、修士課程、博士課程の3つの過程があります。
一般的に大学生というと4年制の学士課程の人を指し、卒業すると大卒=学士号を取得できます。
学士号をゲットすると大学院に進学することができます。大学院は修士(博士前期)課程と博士(博士後期)課程の2つに分かれており、前者は2年、後者は3年以上在籍した上で修士論文または博士論文を執筆、受理されることで修士号あるいは博士号を取得することができます。
(注:学士→修士→博士の順番で進む必要があり、身分が変わるタイミングで入学試験があります。)

博士号をゲットすることで大学の教員になる資格を得ることができます。ですので大学教員になりたい!という人は最短でも学士4年、修士2年、博士3年の合計9年間大学に在籍する必要があります。大学に18歳で入学しても出る頃には27歳になります。入学したばかりの大学1年生を見るとその若々しさに驚愕できるようになります。

さて問題は、

でも博士号をとったら大学の教員になれるんでしょ???

過去の私の発言より

しかし残念ながら、そんなに現実は甘くありません。

(一応大学院に在籍しなくても素晴らしい論文を提出すれば博士号がとれる論文博士という制度もありますが、例外的な措置です)

博士課程の学生をとりまく問題

問題①:お金問題

そもそも9年も大学に在籍することになるので生活費に加えて学費を払わなければなりません。学費の比較的安い国立大学でも1年あたり55万ほどかかります。お金の問題は文字通り死活問題なので、勉強する傍らアルバイトしたり奨学金や研究費を獲得するために奔走することになります。

問題②:博士号を取れるか問題

ここからはデータを見ていきましょう。文部科学省が日本の学校のいろいろなデータを集めて公表している「学校基本調査」2021年版を使います。

2021年3月に博士課程を卒業(=博士論文を執筆し、受理されることに成功)した人は15968人いて、3492人が満期退学しています。
(出典:学校基本調査 / 令和3年度 高等教育機関《報告書掲載集計》 卒業後の状況調査 総括)
満期退学とは博士課程で最低在籍年数である3年以上頑張ったものの博士論文を提出することができなかったため、博士号を取らずに退学した人のことを指します。退学した人は学位取得を目指して研究を続ける人もいればすっぱり諦めてしまう人もいます。

つまり、博士課程に入ったところで博士号をゲットできる保障はありません。

ここからは私の専攻である所の歴史学を例にとってデータを見ていきましょう。
史学専攻で博士課程を修了した人は2021年の3月に60名いましたが、最短年数の3年で卒業できた人は16人だけでした。

「学校基本調査 / 令和3年度 高等教育機関《報告書掲載集計》 卒業後の状況調査 大学院 博士課程の専攻分野別 入学年度別 卒業者数 」より筆者作成

博士課程は最短3年といいながらも3年で卒業できる人は3割にも満たず、長期戦を強いられることが多そうです。とはいえ博士号を取得できずに退学する人もいますから少数精鋭の方々です。

問題③:博士号とっても就職できない問題

史学で博士課程を修了した60名はどのような進路をとっているのでしょうか。

学校基本調査 / 令和3年度 高等教育機関《報告書掲載集計》 卒業後の状況調査 大学院 博士課程の状況別 卒業者数  」より筆者作成

なんらかの仕事につけた人は4割ほどしかいません。26人の「左記以外の者」は就職や進学の準備などをしている人です。せっかく博士号をとっても速やかに仕事があるわけではなく、大学教員などのポストが空くのを待つなりしなければなりません。さらに「不祥・死亡の者」が10人もいます。闇を感じます…

大学教員でなくても一般企業に就職すれば良いのでは?と思っても、新卒採用の枠に応募できるのは基本修士課程卒の人までです。したがって中途採用枠に応募するか正社員ではなくアルバイトとして働くか、という選択肢になります。中途採用枠は職歴がある人(=転職希望者)が応募する枠ですので、職歴がない博士課程卒業者は採用にあたって大きなハンデがあることになります。

アラサー職なしが当然の世界、それが史学の博士課程修了者の現実でした。

結論:博士課程に進学するのやーめた

史学で博士号をとれるのは1年にたった60人しかいないので、博士課程に入学することは確かに逆張りです。

ですがこの逆張りはうまみがあるどころか地獄の予感しかしません。
博士論文を書けるかそもそも自信がありませんし、仮に書けて博士号をとれたとしてもその先があまりに真っ暗のように感じます。

私はこの茨の道を進むのは無理そうです。研究よりも普通の幸せを望んでいきたいと思います。

最後に、博士課程に在籍中の人、そしてこれから進学する人たちがうまくいくことを願っています。





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