【米国市場】ダウ平均は続伸、期待で上昇も背後に忍び寄る新型コロナと地政学リスク

米国株式市場は主要3株価指数が3日続伸した。5月の米小売売上高が大きく回復したことに加え、新たな景気刺激策が導入されるとの観測が出ていることで、米経済は予想よりも早く回復するとの期待が高まっている。

米政府、FRBの追加政策を好感

ダウ工業株30種とS&P総合500種は2月の終値ベースの最高値をそれぞれ約11%、8%下回っている。一方、ナスダック総合は6月10日の過去最高値を約1%下回る水準。
米商務省が16日発表した5月の小売売上高は前月比17.7%増と、市場予想の8%増を上回り、1992年の統計開始以降で最大の伸びを記録した。
またトランプ米政権が景気てこ入れ策の一環として1兆ドル近いインフラ計画の提案を準備しているとの報道を受け、投資家のリスク選好度が高まった。
LPLフィナンシャルのシニア市場ストラテジスト、ライアン・デトリック氏は「小売売上高が株価上昇につながった」と指摘。「刺激策の匂いが漂っていることも今日の株高に確実に寄与した」と述べた。
米中での新型コロナウイルス感染第2波や中南米などでの感染拡大が見られる中、英国の研究チームは16日、ステロイド系抗炎症薬「デキサメタゾン」について、新型コロナウイルス感染症が重症化して呼吸補助が必要になっている患者の回復に大きな効果が確認されたと発表した。
デトリック氏は「新型コロナ関連でもポジティブなニュースがあった。株式市場では経済再開が全てだが、堅調な経済指標は経済が予想よりも早く回復していることを示唆している」と語った。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は16日、半期に一度の議会証言で、「この疫病が収まったと確信されるまでは、完全に回復する公算は低い」と述べた。
S&P11セクター全てが上昇。エネルギー(.SPNY)とヘルスケア(.SPXHC)が上昇をけん引した。
小売売上高の堅調な回復を受け、S&P小売指数(.SPXRT)が2.3%上昇。ノードストローム(JWN.N)が12.9%高、コールズ(KSS.N)が9.0%高となった。

6月のNAHB/ウエルズ・ファーゴ住宅建設業者指数が58と予想の45を大きく上回ったことを受け、米ホームセンター大手ホーム・デポ(HD.N)が3.6%高。ダウの上昇寄与度上位となった。
米製薬大手イーライリリー(LLY.N)は15.7%高。乳がん治療薬の後期臨床試験で早期乳がんの再発リスクを低減する効果が見られたと発表した。
米ソフトウエア大手オラクル(ORCL.N)は2.5%高。ウェルズ・ファーゴが目標株価を引き上げた。
米動画配信機器のロク(Roku)(ROKU.O)は商いを伴って12.4%上昇。特に材料は見られなかった。会社側はコメントを控えた。
ニューヨーク証券取引所では、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を4.42対1の比率で上回った。ナスダックでも3.05対1で値上がり銘柄数が多かった。
米取引所の合算出来高は128億7000万株。直近20営業日の平均は129億5000万株。

新型コロナ:米複数州で感染者数増加

米国の複数州で新型コロナウイルス感染者数や入院者数が2週連続で増加している。アリゾナ、フロリダ、オクラホマ、ネバダ各州は16日、1日の新規感染者の増加数がこれまでの最高を記録した。

アリゾナ、フロリダ、オクラホマの3州は先週1週間の感染者数の増加がこれまでの最高に達していた。また、オレゴン州では教会の集会で集団感染が発生している。
ノースカロライナ州ではこの日、新型コロナ感染症による入院者数が最高に達した。州のウェブサイトによると、州内の病院と集中治療室(ICU)の病床は約74%埋まっている。

オクラホマ州では、今月第2週に感染者が68%増加。検査の陽性率も前週の2%から4%に上昇した。同州ではトランプ大統領が20日に屋内での選挙集会開催を予定している。ペンス副大統領は同日、参加者への健康リスクを踏まえ、会場の変更を検討していると明らかにした。

多くの州の保健当局が、5月終盤の経済活動再開が感染者数の増加につながっているとの見方を示している。ロイターの分析によると、先週は17州で新規感染者数が増加した。

新型コロナ:北京市内の感染者数増加

中国北京市は16日、市内で発生した新型コロナウイルスの感染が他の地域に拡大するのを防ぐため、新たな制限措置を導入した。リスクの高い人の市外への移動を禁止したほか、市外に向かう一部の交通サービスを停止した。

同市はさらに、警戒レベルを3級から2級に引き上げた。
北京市で15日に確認された新規感染者は27人。ここ数日に確認された感染者は計106人となった。感染源は市内の食品卸売市場とみられている。
同市での集団感染を受け、感染第2波が懸念される中、上海市は16日、国内で中高程度の感染リスクがある地域からの訪問者全員に14日間の隔離義務付けを開始した。
上海市は自動車レースF1の今季のレース2つの開催をオファーされているほか、米航空会社が運航を再開する予定で、感染拡大を防ぐことが極めて重要となっている。
北京市当局はこれまでに、24時間の検問所を市内に複数設け、学校を閉鎖したほか、市民に対人距離確保の徹底を呼び掛けるなど、「非常時」の態勢に入っている。
15日遅くには、中程度リスクに指定する地域を22に増やした。中程度リスクの地域は、感染が持ち込まれないよう厳格な措置を取ることが求められる。

また16日朝までに、「胡同」と呼ばれる古い街並みが残る地域など北京の一部ではフェンスが設置され、出入りは数カ所に設けられた24時間体制の検問所のみに制限された。
国営メディアが当局者の話として16日に報じたところによると、感染が確認された人の濃厚接触者などリスクの高い人は全員、市外への移動が禁止された。
このほか、市外に向かうタクシーや配車サービスも停止となった。北京と河北省および山東省を結ぶ長距離バスの一部ルートも停止された。
北京市政府の報道官は16日の記者会見で、北京は感染拡大封じ込めに向け、断固とした厳しい措置を取ると述べた。
北京市のある住民は「北京が武漢のようになるという懸念はない。今回の対策は非常に速やかに導入され、かなり厳しい。市民の予防意識も高い」と話した。

国内の多くの省や都市は、北京からの訪問者に隔離措置を取っている。保健当局が16日明らかにしたところによると、北京から四川省に航空便で移動し、感染が疑われていた人が陽性と確認され、地元当局が濃厚接触者111人を追跡している。

地政学:中印が国境で衝突し印兵士が20人死亡

インド軍は16日、越境を巡り数週間前から中国軍とにらみ合いが続いていた国境付近で衝突が起き、兵士20人が死亡したと発表した。

インド軍によると、衝突が起きたのは15日夜、両国の係争地域であるラダック地方のガルワン渓谷。中国外務省もインド側と衝突があったことを認めたが、中国軍側の被害は明らかにしていない。一方、インド外務省は双方に犠牲者が出たとしている。両国の軍幹部が事態収拾のため協議しているという。
インド政府筋は、交戦では鉄の棒や石が使われ、銃は使用されなかったと明かした。
中国外務省は、インドに対して問題につながる一方的行動を取らないよう警告。報道官によると、インド軍が両国の合意に違反して中国側を挑発、攻撃したため深刻な事態に至ったという。

インドと中国は国境を巡り1962年に軍事衝突。それ以降も協議を続けたが国境を巡り紛争解決には至っていない。国境防衛隊の間で小競り合いが起こることはあったが、犠牲者は30年以上出ていなかった。
インド軍当局は、中国軍兵士が5月初めに複数の場所で実効支配線(LAC)を越境したとし、それ以降両国側で協議が持たれたが進展はなかった。

地政学:北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破

北朝鮮は16日、開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破したと発表した。北朝鮮は、韓国の脱北者団体による体制批判のビラ散布に強く反発し、対抗措置を取ると警告していた。対北朝鮮融和政策を進める韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとっては痛手となる。

北朝鮮の朝鮮中央通信社(KCNA)は、南北共同連絡事務所が「激しい爆発で破壊された」と伝えた。

北朝鮮は、韓国の脱北者団体のビラ散布を受け態度を硬化。16日もKCNAを通じて、ビラ散布を続ければ、北朝鮮軍には行動を取る用意があると表明していた。
KCNAは、連絡事務所の爆破は「人間のくずと、それらをかくまっている者たちに罪の償いを」させるための措置とした。「人間のくず」は脱北者を指す。

韓国国防省は爆破の模様をとらえたビデオを公開。4階建ての事務所が破壊され、隣接する韓国当局者用の15階建ての居住施設も部分的に崩れる様子が確認できる。
韓国は国家安全保障会議を緊急開催、北朝鮮が緊張を引き続き高めるようなら厳粛に対応することを確認。金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長は、「両国関係の発展と朝鮮半島での永続的平和を願う全ての人々の期待を砕いた。これによる全ての帰結を北朝鮮は完全に負うことを明確にする」と非難した。

南北共同連絡事務所は、北朝鮮と韓国の緊張緩和に向けた事業の一環で2018年に設置された。事務所はもともと、南北共同事業の開城工業団地関連の業務を行う事務所だった。しかし同工業団地は2016年、北朝鮮が核実験とミサイル発射実験を実施したことを受けて閉鎖された。2018年に韓国が少なくとも97億8000万ウォン(860万ドル)かけて改装した。
連絡事務所では、北朝鮮、韓国双方から数十人が勤務していたが、今年1月以降は、新型コロナウイルス流行を受けて閉鎖されていた。

今日の私見

市場は好調だが、地政学リスクに関するニュースが飛び込んできた。

一つは中印関係で、国境で衝突し、お互い被害が出た。
中印の国境のにらみ合いは50年以上続いているが、被害が出たのは30年ぶりとのことで、緊張が一気に高まった印象。

もう一つは朝鮮半島情勢で、北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破した。
こちらも緊張が高まった。

また、新型コロナウィルスの感染拡大も忍び寄ってきている。
米国の複数州、中国の北京で感染者数が増加。
ロシア、南米も感染拡大の終息は見えていない。

以上から、また恐怖指数(VIX)は上昇していくと予想する。
現在の市場は、経済指標よりVIXに連動しているように見えるため、最も注目すべき指標とみている。
VIXを上昇させる事件は突然起こるものなので注意したい。

出典

ロイター 6/17 米株3日続伸、早期景気回復期待高まる

ロイター 6/17 フロリダなど米複数州でコロナ感染再加速、教会の集団感染も

ロイター 6/17 北京、警戒レベル引き上げ コロナ感染の市外拡大阻止へ追加措置

ロイター 6/17 中印国境の係争地で軍衝突、インド兵士20人が死亡

ロイター 6/17 北朝鮮、南北連絡事務所を爆破 脱北者の批判ビラに対抗措置