④アラフォーは現代の魔法使いになった ~人生に疲れてしまったアラフォーがAIイラストでもういちど夢を見る話~
3:眼鏡、メイド、銃。あと三つ編み。
呪文を打ち込んで、エンターキーを押す。
オレがしたことは、たったそれだけだった。
画面の中に現れた女の子に、声を失った。
その女の子が、ドストライクだったからでは、たぶん、ない。
あまりにも簡単だったからだ。
「cute gilr」このたった一言。
それを入れただけで、可愛い女の子の映像が出てくる。
なんなら、自分が描く女の子より可愛い。
手と脳が震えている。
息継ぎをするように、顔をあげた。
春風ちゃんと目があった。
くすっと、ひまわりみたいな笑顔で、彼女は言った。
「ねぇ。もう一度だけ。夢を、見てみません?」
□◆□◆□◆□◆□◆□
昼過ぎのサイゼ。
オレは春風ちゃんから、AI生成のやり方を教えてもらっていた。
呪文と呼ばれる英単語を入れてエンター。
それだけでかわいい女の子の絵が出てきてしまう。
それに、絵は女の子に限らなかった。
もう、なんでもござれ、だ。
「これは、すごいね」
「でしょ」
「なんでも出るの?」
「なんでも出るよ!」
「メガネ、メイド、銃、でロベルタが出てくるかな?」
「三つ編みも入れた方がいいですね!」
「いや~、これ楽しいね」
「でしょ。作るだけでも楽しいですし。甘宮さんなら、キャラのイメージを呪文にして生成すれば、もっと輪郭のあるキャラクター絵になりますよ」
春風ちゃんの話に、オレは曖昧な返事しかできなかった。
「う~ん。……そうか。そうかもね」
「なにかありました?」
誇りとか、矜持とか、そんなものなのかもしれない。
本当は、ただの意地なのかもしれない。
AIを使う。
そのことが、喉にささった小骨のように。
気になって、なにも飲み込めなくなっていた。
そんなオレの様子を察してか、春風ちゃんが口を開いた。
「もしかして、AIに抵抗があります?」
「う~ん。そうなんだと思う。春風ちゃんはラッダイト運動って知ってる?」
「存じ上げませぬ」
「産業革命時代に起こった、機械打ち壊し運動なんだけどさ。中学校の時、社会の教科書に絵が載っていて。なんでこの人たちは、こんなに便利な機械をわざわざ壊そうなんてするんだろうって。全然理解できなかった。でも、今ならわかる気がするんだ。あんまりにも急速に置き換わっていくからなんだ。急に知っているものが無くなっていくと、時間や思い出も消えてしまう感じがするんだ」
「う~ん。難しいですね、まったく分かりません!」
「そうだよね。とにかく、気持ちの問題だってこと」
春風ちゃんは頭の上に「?」を浮かべている。
理解されないことは、理解している。
春風ちゃんはAIのある世界に生まれてきた。
オレはAIがない世界に生まれてきた。
その差は、あんまりにも大きい。
日本海溝よりも、深いふかい溝だ。
その証拠に、春風ちゃんはオレを説得しようとする。
「今の時代は、AIをうまく使うのも技術、だと思うのですが」
「それはわかるよ。イラストに限らず、AIは利用されている。将棋の世界
だって、トッププロはAIを使って、強くなっている。わかってはいるんだよ」
「でも、自分は使う気が起きない、と」
「うん。そうなんだ」
春風ちゃんは口を「へ」に曲げた。
「甘宮さんって、そういう人ですよね。わかってるのに、やらないなんて。私には分かりません!」
オレは苦笑いを浮かべる。
わかって貰えるとは思っていない。
わかって貰ったことなんて、ないんだから。
……さぁ。あとは波風が立たないように、話を終わらせよう。
「AI生成自体は、すごく面白かったからやってみるよ」
ーーじゃあ、そろそろ。
そう切り出そうとしたところに、春風ちゃんは言った。
「わかりました。甘宮さん、このあと時間あります? 私、行くところがあるんですけど、一緒に行きません?」
「ん? 良いけど、どこにいくの」
「秘密です。でも…」
春風ちゃんは、ニヤりと笑って言った。
「甘宮さんの、目と脳と、心に。感動をぶちこみます!」
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