スイカ人間の恐怖 Poppy Ajudha / Watermelon Man (Under The Sun)
小学校に上がるか上がらないかくらいの年齢の頃、僕の怖いもの二大巨頭は、キョンシーとスイカ人間だった。
『幽玄道士』と『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』
多分どちらも土曜の夜とかに放送してたはず。
種も実もかまわずスイカを食べまくった志村けんは、スイカに侵されて夜な夜なスイカ人間と化し、人間を襲いはじめる。
これがとにかくめちゃくちゃ怖かったことだけは記憶していて、子供の頃はスイカを食べている時に誤って種を飲み込んでしまったりすると「夜スイカ人間になっちゃったらどうしよう」と怯えたものだった。
Poppy Ajudha / Watermelon Man (Under The Sun)
今週のDiscover Weeklyプレイリストを聴いていて、この曲のタイトルが画面に表示された瞬間に、もはやスイカ人間のビジュアルすら覚えていないのに、すーっと当時の恐怖の感情が蘇ったのでした。
スキャットなのか管楽器の音色なのか判然としない音が重なる、コード感が希薄で不穏な雰囲気のイントロに耳を傾けつつ「Under The Sunってのが逆に怖いな」などと、あくまであのスイカ人間を念頭に勝手な解釈をしていると、スネアがひとつ鳴ったところで、イントロの印象は覆されてこの曲がファンクチューンであることが明らかになります。
タメの効いたジャズファンクなヴァース、ビートが鳴り止んで浮遊するプレコーラス、短いフレーズを重ねるギターがもたらす呪術的な高揚感と隙間の多いベースラインがもたらす抑制のコントラストが絶妙な緊張感を生むコーラス、その緊張感を一気に解放しつつ和音がぶつかって不穏さを残すコーラス最後の "♪ Under The Sun~"
これらのパートを行き来して、曲は熱を帯びたり冷めたりしながら最後はギターソロと共にイントロのスキャットに戻りフェードアウト。
曲を聴き終えた時点で、スイカ人間のことなどすっかり忘れてこの曲の魅力にやられちゃっているのでした。
このPoppy Ajudha (ポピー・アジューダ)という人。
サウスロンドン出身のシンガー・ソングライター/モデルで、UKジャズシーン中心に客演も多いらしい。
全然知らんかった…と思ったら、トム・ミッシュ『Geography』、モーゼス・ボイド『Dark Matter』などで客演してる。
どっちも聴いてるはずなのに…全く覚えてない。
そして、この "Watermelon Man"という曲のクレジットを見ると、作曲者ハービー・ハンコックとあって、どういうことかと思ったら、これカバーでした。
ハービー・ハンコック1973年のアルバム『ヘッド・ハンターズ』
所持こそしていなかったものの、20歳頃にバイトしてた中古CD屋で店番してる時に何度か掛けて聴いてるはずなんだけど…全く覚えてない。
なんだか生きているとこんなことばっかだなと思います。
聴いたつもりで全く記憶していない音楽、
読んだつもりで全く記憶していない本、
観たつもりで全く記憶していない映画、
見た目も思い出せないくせに未だに怖いスイカ人間。
Blue Note Re:imagined
この曲は、現代UKジャズシーンのミュージシャンがブルーノートの往年のクラシックを再演する『Blue Note Re:imagined』という企画盤に収められる一曲のようです。
"Re:imagined"というだけあって、どの曲も原曲をアレンジしたというよりは原曲の持っているエッセンスに着想を得て新たに構築したという感じ。
現にこの "Watermelon Man"もイントロのスキャットにその片鱗を残すものの、原曲とは似ても似つかないものになっています。
ちなみに、上のプレイリストには "Watermelon Man" は3バージョン収められていて、73年のハービー・ハンコック版、2020年のポピー・アジューダ版の前に62年にハービー・ハンコック自身が演奏しているそもそものオリジナル版が置かれています。
聴くと、62年版と73年版はこれもまたまるで別物。
ということは、73年版を下敷きにしたポピー・アジューダ版 "Watermelon Man" は、62年版のリ・イマジンのリ・イマジンということか。
ところで、志村けんのスイカ人間ですが、ビジュアルを確認したくなって画像検索したんですけど、これだけ見ると何がそこまで怖かったのか分からない…
あ!
!
まさか、志村けんのスイカ人間もハービー・ハンコックの "Watermelon Man"のリ・イマジンだった!!
…
と、"Watermelon Man"というひとつの曲を肴にいいかげんなことを書き連ねたこのnoteも、リ・イマジンのリ・イマジンのリ・イマジンのリ・イマジンてことで、Watermelon Man Re:imagined の末席に加えていただければ…ということで今日は筆を納めます。
それでは。
※そもそも「スイカ人間」という呼称が合っているのかすら怪しいのですが、僕の中に残っている恐怖は「スイカ人間」という名前とともにあるので、追求しないでおきます。これもひとつのリ・イマジンってことで。
どうもありがとうございます。 また寄ってってください。 ごきげんよう。