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今週のディスカバー

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Spotifyの自動生成プレイリストDiscover Weeklyから「これはディスカバー!」と思った曲をピックアップしていきます。肝心の音楽の話はあまりしないかもしれません。
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親愛なる弱いAI - Spotify Discover Weeklyのデザイン

Spotifyには、Discover Weeklyという個人の聴取履歴によってカスタマイズされ週1回更新される自動生成プレイリストがあります。 このプレイリストについてのSpotify側からの説明文は至ってシンプルで、 「フレッシュな音楽を盛り込んだ今週のMixテープをお届けします。新しい音楽の発見と出会いをお楽しみください。」 ですって。 一昨年Spotifyを使い始めた時点ではまだこのプレイリストはなく、いつの間にか聴くようになったなぁと思っていましたが、改めて確認し

しかめっ面のダンス LEENALCHI / Tiger is Coming

ドラマ『最高の離婚』を観直したくなって、折角なんで未視聴だった韓国リメイク版の方を観てみようと思い先週末から観始めたら、こっちも最高だった! 分かりあえないから、傷つけあってしまうから別れたのに、別れてみたら分かりあえないのに一緒に居ることの愛おしさが分かってきて、愛おしいんだけど分かり合えないからやっぱり一緒には居られなくて…っていう(なんか言ってる内に言語が崩壊するほど)引き裂かれる感情を、二組の夫婦を軸に複雑に矢印の方向を組み替えることで見せつけてくる脚本の妙は、舞台

スイカ人間の恐怖 Poppy Ajudha / Watermelon Man (Under The Sun)

小学校に上がるか上がらないかくらいの年齢の頃、僕の怖いもの二大巨頭は、キョンシーとスイカ人間だった。 『幽玄道士』と『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』 多分どちらも土曜の夜とかに放送してたはず。 種も実もかまわずスイカを食べまくった志村けんは、スイカに侵されて夜な夜なスイカ人間と化し、人間を襲いはじめる。 これがとにかくめちゃくちゃ怖かったことだけは記憶していて、子供の頃はスイカを食べている時に誤って種を飲み込んでしまったりすると「夜スイカ人間になっちゃったらどうしよう

記憶の底に埋もれてた人 Jeb Loy Nichols / Trouble Comes

先々週、カナダ人の友達からFacebookで 10 album covers in 10 days, of singers/bands who shaped my taste in music. というのが回ってきました。 「自分の音楽の趣向をかたちづくったアルバムのジャケ10枚を10日間投稿してね」とな。そうか、世界中が一斉に引きこもって、世界同時内省モードに入ってるんだなぁ。 Facebookのタイムラインを見ると「7日間ブックカバーチャレンジ」という同様のパターン

逆流するディスカバー The Avalanches / We Will Always Love You

"Since I Left You" という山脈ある大きなカテゴリー、例えば映画とか音楽とかアニメとか美術とか鉄道とかについて、一人の人間が網羅的に知ることはほとんど不可能なので、「彼/彼女は、映画に/音楽に/アニメに/美術に/鉄道に詳しい。」みたいな言い方が割とカジュアルに使われますが、これは至って相対的なものです。 だから「フィンランドのヘビメタについて詳しい」とか「明治期の西洋画について詳しい」みたいにサブジャンルまで分解するか、ある閉じた関係性の中で「この中ではあいつ

少年から老女に変身する書家 Connie Constance / English Rose

先々週『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観てから1969年前後の音楽ばかり聴いてる。より具体的に示すと、1967年から1970年。 十代後半から二十歳くらいの時期にこの辺りの年代のアメリカとイギリスの音楽を聴きまくっていて、その中には随分長い間聴き返すこともなかったものもあるので、自分が生まれるより十数年前の時代ではあるけど、古い記憶を掘り起こすように聴いています。 なぜそんなことに取り憑かれているかというと、この映画の舞台が1969年の2月8日と9日、

で、どこ出身? Mereba / Black Truck

Spotifyの自動生成プレイリストDiscover Weeklyから「これはディスカバー!」と思った曲をピックアップしていきます。肝心の音楽の話はあまりしないかもしれません。 前回の「今週のディスカバー」書いてから気が付けば3ヵ月も経っちゃってるけど、まぁそんなこともあります。 ところで今週は久々にディカバーでうれしー! Discover Weekly が毎週の選曲の主な参照点にしているのがその前の一週間なのか、それとももうちょっと長いスパンなのか分かりませんが(まぁ相

チリチリノイズの批判力 Orion Sun / Mango (Freestyle / Process)

アナログレコードのチリチリノイズ パーカッション 笑い声…からの緩いフロウ 一小節に一度コードを鳴らすだけのギター よく動き回るベース 会話 ときどき3拍だけ鳴るハイハット ブレイク 2コードでループし続ける曲に複雑に積み重なっていくスキャット… 今週のDiscover Weeklyに流れてきたこの曲。 浮遊するようなボーカルと隙間が多くてメロウな曲調が心地よくてリピートしてたんですが、段々上に被さっているレコードのチリチリノイズが気になってきました。 プレイリストから飛ん

たゆたう歌声と躁なリズム 大貫妙子 / タンタンの冒険

「ゲートリバーブ」という80年代に一世を風靡したドラムサウンドの音響処理があります。 ヒュー・パジャムというエンジニアが発明して、1980年、XTCの"Black Sea"とかピーター・ガブリエルの"3"あたりから使われはじめたとか。 ドラムの、特にスネアの音に思いっきりリバーブを掛けた上で、ばさっと残響をカットすること(ノイズゲート)で、めっちゃ奥行きがあるようで全然奥行きのない独特の音色が出来上がります。 こんな異様な音響処理が10年近くもの間世界中のポップミュージック

月曜日が待ち遠しい/金曜日が待ち遠しい

観察対象として面白いのでDiscover Weeklyについて書いてきていますが、Spotifyの自動生成プレイリストはこればかりではありません。 まず、視聴履歴とフォローしたりライブラリに入れたりしているアーティストの傾向を基に、よく聴く曲+レコメンドで構成されるDaily Mix。ジャンルやテイスト別に分類されて1から6まで生成されます。 これらは常にアプリのトップ画面最上段に並んでいますが、中身は聴くたびに微妙に変化しています。 それから、毎週金曜更新のRelea

音符的でない音楽に惹かれる 元ちとせ 民謡クルセイダーズ / 豊年節

Spotifyの自動生成プレイリストDiscover Weeklyから「これはディスカバー!」と思った曲をピックアップしていきます。肝心の音楽の話はあまりしないかもしれません。 久々にディスカバー! 元ちとせ 民謡クルセイダーズ / 豊年節 更新していない週もDiscover Weeklyは毎週欠かさず聴いてるんですが、ここんとこ「お!」というのがありませんでした。 久々にこれは新鮮な驚きがありました。 ところで、「今週のディスカバー」というお題でまだ5曲分しか投稿し

100円コーナーの謎CDにギャップ萌え Cody Chesnutt / Boylife in America

大学生の頃、個人経営の中古CDショップでアルバイトをしていました。 そのお店では、国内盤は全て品番登録で買取価格と販売価格が管理されていて、管理外のインディー盤とか輸入盤は店長と音楽に詳しいバイトスタッフが値付けするという形でやっていました。そして一定以上の価格の付いた商品にはレコメンドコメントを書く。 アルバイトは僕の他に2人。 全然音楽に興味なさそうなおじさんと、ヒップホップ・R&Bに詳しいお兄さん。 基本的に店番は店長と二人かバイト一人で行うので、他のバイト

未来の楽器リズムボックス Carrie Cleveland / Love Will Set You Free

ジョージ・オーウェルの『動物農場』はロシア革命の顛末を戯画化した物語です。 人間にこき使われるばかりの生活に不満を抱いた動物たちが、豚が中心となって立ち上がり、農場主を農場から追い出し自らの自治を獲得し、理想の動物社会を作り上げようとする。ところが、指導者的なポジションにあった豚の中の一部勢力が徐々に他の動物たちを支配しようとし始め、追いだしたはずの人間の似姿になっていく…そんなお話です。 日常的に使っているアプリがアップデートされて、UIが微妙にリニューアルされた時

今週のディスカバー Jamila Woods / HEAVN

それ程流れの速くない川で、浅瀬に入り、形の気に入ったいくつかの流木を川底に突き刺す。流木は川の流れを切り裂いて水面に模様を描く。そこに何か予想外の現象や不思議な模様が現れてこないかと期待しながら川面を眺める。 毎週のDiscover Weeklyの変化を楽しむ心持ちを比喩的に表現するとそんな感じです。 Spotifyの特化型AIのレコメンドをある種の自然現象と見做して、その中に理解を超えた混沌が描き出されることを期待してしまっています。 この期待が的外れなものなのかは、今の