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ばっきん十万円さしあげます

                                                   むかしむかし6

 魔法使いのおばあさんと魔法使いの助手のネズミくんは森に住んでいます。ふたりは、小春日和のある日、ひさしぶりに森をぬけて、町に行ってみることにしました。
 まだ二月のはじめだというのに、あちこちにふきのとうが顔をみせています。
「おばあさん、今年は春が早いようですね」と、ネズミくんが、キーキー声をはりあげていいました。
「年をとると、季節がくるのが早くかんじるんだよ」
 魔法使いのおばあさんは、黒いマントのすそをひるがえして、スタスタ歩いていきます。このごろ、足が弱るからとあまり魔法のホーキは使わないのです。
 森のはずれの1本道をぬけると丘にでます。その丘をおりたら、もう町です。青空公園とかかれた所でおじいさんがひとりでゲートボールの練習をしていました。
 青空公園のとなりにある なかよし公園のそばを通った時です。子どもたちがケンカをしている声がしてきました。

「おばあさん、いってみましょうよ」
 ネズミくんがいいました。
 おばあさんは、公園の入り口にかかれてある大きな看板をみていました。
「公園に犬をいれないでください。心のかよう町づくり委員会」と、あります。
「ネズミく、おまえのことは書いてないけど入ってもいいのかね」
と、おばあさんは怒ったような顔でいいました。
 公園の中では、犬をつれた男の子とキャッチボールをしていた男の子たちがいいあらそいをしていました。
「おまえ、字がよめないのか、犬は公園の中にいれちゃいけないんだぞ」
「しってるよ。でも、この前 ぼくが次郎を公園の外につないでたら、こんな所につなぐなってしかられたんだぞ」
「それは、入り口の所につないだからだろ。あんな所につないだら、小さい子は こわがってはいってこれないじゃないか」
「次郎は中にはいりたくてあばれるんだよ。それに、この前なんて道の所の木につないでたら、車にひかれそうになったんだぞ」
 次郎とよばれる犬をつれた男の子が、なきそうな顔でいいました。
「しかたないだろ。犬をつれてくるのが悪いんだから」
「だって、ここはぼくと次郎の散歩コースだったんだよ。あの看板がたつ前はずうっーとここで遊んでたんだ。次郎には看板の字なんか読めないし、こっちにきたがるんだよ」
 男の子は、いっしょうけんめいにいっています。次郎は、こまったような顔で男の子をみあげています。
「どうして犬がはいれなくなったんだい」
  魔法使いのおばあさんは、男の子たちのあいだにはいって ききました。
 森の中にすんでいる魔法使いのおばあさんのことは、みんなもしっています。みんなは、ほっとしたようにおばあさんをみつめました。
「ある日、遊びにきたら この看板がでてたんだ。ここらへんの公園 全部だよ。『心のかよう町づくりなんて、反対みたいね』って、うちの母さん、くびをかしげてたよ。でも、大人はそう思うだけで何もしてくれないんだ」
 男の子は、かなしそうに次郎の頭をなでました。
 次郎がペロリと男の子の手をなめました。
「犬をいれると、オシッコするだろ。花だんやなんか あらすじゃないか」
 野球のボールをにぎりしめていた男の子が、くちをとがらせていいました。
「次郎は、花だんには はいらないよ。オシッコするところもきまってるんだ」
 次郎をつれた男の子の顔は、かなしげでした。
 男の子たちと別れた魔法使いのおばあさんは、だまったまま歩いていきます。

 しばらくいくと、大きな門がまえの家の前にでました。
 この家は、町いちばんのお金持ちの家でした。
 ネズミくんが、おばあさんのマントのすそをひっぱりました。門の前に、「心をかよわす委員会事務所」と、大きな看板がでていました。そして、『敷地内にゴミをすてた者には、罰金十万円をもうしつけます』と、公園にあった看板とおなじくらいのものに大きく書いて立てかけてありました。
 おばあさんの目がキラリと光りました。
 ネズミくんが、バッキンとシキチナイの字がよめなくて、「なんて書いてあるんですか」と、たずねました。
「家の前にゴミをすてたらばっきんをとるってかいてあるんだよ。おまえは、漢字をぬかして本を読むクセをやめないといけないよ」
 ネズミくんにくぎをさすと、
「さあ、いそがしくなるよ。何が心がかようだね」
 魔法使いのおばあさんは、ブツブツいいながらおやしきの門の中にたてかけてあった庭ボーキをもってきました。
「庭ボーキくん、もやされされたくなかったら、私のいうとおりにするんだよ。さ、いいかい。しずかにして、ダイカツーホ、マハシワ!トベトベトベ!!」
 魔法使いのおばあさんが またがったとたん、ホーキはくるったように空中にまいあがりました。
 おばあさんが、さっとネズミくんのしっぽをつかまなかったら、ネズミくんはおいていかれるところでした。


 その夜。
 おばあさんは、ネズミくんにいいつけていろんな薬草を用意させました。
 煮たり焼いたりけずったり、家中が湯気とけむりでモウモウとしています。
 夜が明けはじめたころ、やっと魔法使いのおばあさんは、なべいっぱいにできあがった白いこなを前に「よし、できた」と、つぶやきました。
 けむりと寝不足で目を赤くしたネズミくんをふりかえると、
「さてさて、朝になる前にひと仕事しますか。この粉を空から町中にばらまくんだよ」
と、うれしそうにいいました。


 さあ、たいへんです。
 夜があけたとたん、町中の犬という犬が町いちばんのお金もちの家の庭にやってきました。ワンワンキャンキャンものすごいさわぎです。
 びっくりしてとびおきた おやしきのおじさんは、口をポカンとあけて立ちつくしています。 
 犬ばかりか、公園においてあった看板までが家の前にズラリとならべられていました。おまけにそこには
『敷地内に犬をいれてください。いれたくない人には、ばっきん十万円さしあげます。……心のかよう町づくり委員会』と、かかれていました。
 

 その日以来、公園の看板はなくなり、犬も人も公園で遊べるようになりました。

                          おわり

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