「折角だから」と、必要以上に作る是非。【冷凍について】
焼き菓子でもパウンドケーキでもゼリーやプリンでも、レシピには「○個分」「○本分」などと仕上がる量が書いてある。
型が余分にあったり、材料に余裕があれば「せっかく作るなら、多めに作ろうかな」という気持ちがわくかもしれない。
今回は多めに作ったときに必要な保存方法のひとつ「冷凍」の心得について、触れてみたいと思う。
パティシエは「冷凍」している
食料品や日用品の買い物がレジャー感覚で楽しめると人気の「コストコ」。どの商品も大量で販売されている。ここで定番人気のティラミスやチーズタルトなどは、SNSなどで「冷凍保存できる!」と評判だ。そして、このように(モノによって)ケーキは冷凍保存することができる。
一旦話は逸れるが、パティシエが一度に作るお菓子は大量だ。もちろん販売するための商品を作るので当たり前の話だが、一度に作る量=1日の販売量というわけではない。
規模にもよるが、毎日すべてのケーキを作って売り切る、というのはまず不可能だ。
ケーキはパーツを組み合わせてできている。1日で完成する商品もあれば、いくつもの工程があり、その工程の事情で冷凍の段階を踏んで作られていることは少なくない。なので、ケーキは一度に何日分をも作り、冷凍でストックしてある。
冷凍は、鮮度を保つための最高の保存方法
先に言っておくが「冷凍=悪」では決してない。
むしろ、鮮度を保つためには最高の保存方法だと言えるし、先ほども触れたように、保存目的のほかに、製造の作業段階で必要なことがある。
例えば、ムースなどのセンター(中に組み込むジュレなどの別のパーツ)は、凍らせないと入れることができないし、ムースをフレキシパンやセルクル(いずれも型)で仕込んだ場合は、冷凍で固めなければ型から外すことすらできない。
冷凍は必要な技術だ。
そして、大抵のものは冷凍できる。
焼いたスポンジケーキやパウンドケーキ、ガトーショコラにシフォンケーキ、アーモンドクリームを入れて焼いたタルトの土台も可能。焼く前の、成型まで終えたクッキー生地や、絞ったままのシュー皮も冷凍できる。モノによってはロールケーキやチーズケーキなんかも大丈夫。
これによって、一度で数日分の仕込みができ、開店前の準備は格段に楽になる(それでも朝の店出しの準備は本当に大変だが)。
ケーキ屋と家庭の冷凍庫の差
ケーキ屋では、ウォークインの冷凍庫、冷蔵庫のほかに、瞬間冷凍庫のブラストチラーやショックフリーザーなどを使い、鮮度をキープして冷凍させている。
瞬間冷凍は実に強力で、固まっていないムースが30分以内にガチガチに凍るほど。
氷の粒ができやすい温度帯を一瞬で通り抜けられるため、冷凍することによっておこるデメリットを避け、品質をキープできるのだ。
そのようにして凍らせた商品を冷凍庫にうつし、保存する。
一方の家庭ではどうだろうか。
家庭用の冷凍庫では設定温度こそ-18℃になっているが、瞬間的にその温度まで食品を持って行くことは難しい。
ポッキンと折る棒の氷菓は、一晩経っても中心にある棒は液体のまま、ということが多々ある。
また、家庭ではにおいが移る可能性も高い。冷蔵庫、冷凍庫には肉や魚のほかに、残ったカレーや漬物なども入るからだ。
お菓子は非常ににおいを吸収しやすいから、もし冷凍することがあるなら、しっかりラップしたうえでさらにチャック付きの袋に入れる、くらいのことは必須だ。
それから、頻繁に開け閉めしすぎることも問題だ。
庫内の温度が頻繁に上がり、また、急冷させる力も弱ければ、霜が付いたり、乾燥して冷凍焼けの原因にもなる。
最初から最後まで冷凍されているアイスだって、保存状態や劣化により、食感に違和感が出てしまう。
それに、感覚的にパワーの差はものすごい。
ゴオオオオオオオオという音と共に、ものすごい冷風(というか氷風?)が吹き抜ける業務用のウオークインの冷凍庫には家庭用で太刀打ちできない高い壁がある。また、業務用の冷凍庫から出した水分多めのムースや鉄の天板は、冷たさで手が痛いと感じるほどだ。
ウォークインの冷凍庫からのストックの出し入れは、ちょっとした試練だ。
自宅で「冷凍前提で多めに作る」という考え方は?
上記のコストコのように、買ったものを無駄なく食べきるという意味では冷凍することはとても便利だし良いことだと思うが
わざわざリスクを背負って、冷凍前提で多めに作る必要はないと思う。
冷凍は万能ではない。冷凍できないケーキもあるし長期間保存すると劣化もする。解凍した際に、生クリームやフルーツから水が出る、カスタードクリームのコシがなくなる、分離してボソボソに、などということが起こる。
また、多めに作るというのは、ちょっとした手間がかかってくる。
倍量作れば、卵が泡立つのも時間がかかる。こねるのも時間がかかる。必要なボウルの大きさも2倍だ。成型も2倍量。焼き菓子なら、オーブン1回転のところを2回転、焼く必要が出てくるかもしれない。
考えたくないが、「失敗」と感じる出来にならないとも言い切れない。
おうちおやつはどうあるべき?
少し作って大事に食べる。「おいしかった、もうちょっと食べたいな」と言う気持ちが、次のお菓子を作ってみたいという気持ちを呼ぶ。
食べ過ぎや、冷凍庫にも詰まっていて、げんなりするよりもずっといい。体重を気にするほど食べる必要だって何もない。
ミニマムだけど、心を込めて。フットワークは軽く、愛しい、楽しい、と思える時につながればと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?