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父にはじめて手紙を書いた

4月15日。
今日で、結婚式を挙げてからちょうど1年を迎えた。
あの日のことは、まだ夢か何かだったのではないか‥‥と日々いつも思い返していて、そのくらい素晴らしい光景だった。
煌々と光るライトの下で、大好きな人たちがみな笑っている。それがとてもとても嬉しかったのだ。

そんな催しの中で、わたしが「父へ」と読んだ手紙の下書きが出てきたので、せっかくだからここに残しておこうと思う。



お父さんへ

今日は、はるばる奈良からバスに乗って来てくれてありがとう。
昨日も仕事だったのに、雨の中ひとり、慣れない東京は疲れるでしょう、ありがとう。無事にたどり着いてくれたことに、まずは安心しました。

わたしは、お父さんほど口うるさい人を知りません。
小さい頃から、「食べ物はこぼしたらあかん」「机の上はきれいにせなあかん」「床に物を置いたらあかん」、それはそれは細かなことで、ずぼらなわたしはいつも叱られてきました。
少しマセてくると、「おとうさんは結婚式に呼ばへんねん」というのが、叱られたときのわたしの決まり文句で、度々拗ねて衝突することもありました。

本当は、公園のタイヤで遊んでもらったこと、市民プールで飽きるまで一緒に潜ってくれたこと、お父さんのことが大好きだった頃のことも全部覚えています。それでも、わたしは小言のうるさいお父さんに対して、成長するほど素直になれなくなっていきました。

そんなわたしたちですが、9年前、お母さんが亡くなったことで、ふたりきりの家族になりました。そのときから、お父さんが精一杯変わろうと頑張ってくれていること、ちゃんと気づいています。
誕生日には図書カード、クリスマスにはチョコレートを、泊まりに行けばきれいなパジャマを用意してくれ、慣れない役割まで努めてくれてありがとう。なのにわたしは、もうないお母さんの存在にずっと甘えて、あまり帰らず、東京で仕事ばかりの日々を送って、ずいぶん心配させたと思います。ごめんなさい。「お母さんがいないなら、帰る理由がない」なんて言ったこと、後悔しています。ごめんなさい。

けれども、東京で頑張ってきたからこそ、わたしはマコトさんと出会うことができました。こんなわたしを受け止めてくれる、すごくすごく大事な人です。
結婚を決めたとき、特に結婚式をすることは考えていなかったけど、ふとお父さんのことを想いました。ドレス姿を見てほしい、というのもあったけれど、何よりも。東京でこれだけのあたたかい人たちに囲まれ、支えられ、過ごしているよ、という様子を見せたかった。みんなと会ってほしかったんです。マコトさんをはじめ、わたしは日々こんなに素敵なみんなと一緒に生きています。だから頼りない娘ですが、どうか安心してね。

それに、マコトさんもちょっと口うるさいところがあるんです。わたしはそれを、どこか安心するなあと思っていつも聞いています。

30代を迎え、家庭を持ち、今ようやくわかってきたのは、お父さんって、意外といいやつなんじゃないか、ということです。
腰が痛いと言えば翌日には湿布を送ってくれるところ、一度伝えた話は絶対に忘れないでいてくれるところ、どんな些細なこともノートにメモをしてくれるところ、わたしの手紙は全て残しておいてくれるところ。
こんなにマメで信用できる人もなかなかいません。お母さんはきっと、お父さんのそういうところが好きだったんだろうなあと思います。

お父さん、いつも助けてくれてありがとう。育ててくれてありがとう。そして、お母さんと出会ってくれて本当にありがとう。
名前は「小木」に変わりましたが、ずっとずっと娘です。これからもどうぞよろしくね。

2023年4月15日 中前結花

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