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桑田佳祐「鬼灯」【歌詞を読む】

桑田佳祐さんのEPアルバム『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』収録の6曲はどれもとても良い。

↓公式サイト。
Spotify等サブスクの案内あり。

6曲目の「鬼灯ほおずき」についてCD発売前、
「お盆の曲もあるじゃない」と渋谷陽一さんにインタビューで言われたと桑田さんがラジオで話されていた。

…なるほど。暗めの曲なのか…と思った。
桑田さんはメリハリを重視する。

「波乗りジョニー」「白い恋人達」とヒットを飛ばした後、
「東京」という、ものすご〜〜くヘビィな歌を出したりする。

ファンにはたまらない一曲だったりするんだけどね。

シングル、アルバムの中でも明るい曲の次は落ち着いた曲だったり、バランス感覚が絶妙。

今回のごはんEPは
「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]」がとても明るいので、最後にクセのある曲で締めるのだな…と予測した。

それだけに、桑田さんのラジオ「やさしい夜遊び」のオンエアで初めて「鬼灯」を聴いた時は、予想が覆される心地良い感覚を味わった。

ポロンポロンと奏でられるギターの音が優しい静かな曲だ。


♪お祭りの鬼灯が並ぶ社で

この一文で、夏の浅草寺、ほおずき市の鮮やかな色彩が情緒をもって目に浮かぶ…のだろう。東京の人は。

夏の風物詩としてほおずき市が小説やエッセイに出てくることが割とある。が、関西在住だとそれがどういうものなのか、あまりピンとこなかった。
大阪では、ほおずき市はないし、ニュース映像で見る機会もなかった。
今はスマホで簡単に調べられるからありがたい。

ほおずきを「鬼灯」と漢字表記し、タイトルにしている。

濃い橙色の実がお盆に帰ってくる魂の目印となり、その実の中に魂が宿ると言われていることを踏まえての曲なのだ。

♪あの夏 日に焼けた 君と出会い

“君”は特攻隊員となった青年。
では、出会ったのは誰か。
主語は特定されない。そこが日本語の妙味。

1.曲中に「私」も出てくる。
後述するが、この「私」であるかつて少女だったおばあさんが鬼灯を見て、特攻隊員だった彼を思い出した…との解釈。

「君」と特定の対象を指す言葉が使われているが、ほおずき市にはたくさんの鉢が並び、橙色の実が鈴なりに吊るされる。
一人一人、確かに生きた青年たちが特攻隊員として次々と命を散らした。
彼らの魂が今、お盆に帰り、ほおずきの実の中に宿り、たくさんの橙が風に揺れているのだ。

2.歌い出しの部分であり、主語を歌い手、或いは聞き手と捉えるほうが自然。

曲世界への導入として、ほおずき市の鮮やかな情景を見せ、そこに眩しい光を放つ日焼けした青年の姿を立たせる。
映像として見えてくる。

3.お祭りで君と出会った…というのは、やはりロマンティックなシチュエーション。
戦争に出征する以前、青年は恋もしていたはず。
もう一度会いたい“桜”は彼女か。
最後の最後に彼の心に浮かび、名を呼んだのは…「天皇陛下万歳」か?彼女の名か、或いは母か…。

♪夜鳴く鳥がいて

夏祭りの情緒ある風景から一転、不穏な空気をはらむ。

「夜鳴く鳥」とギターの音色でザ・ビートルズの「black bird」を想起した。
深読みしすぎか…と思ったが、先週のラジオ「やさしい夜遊び」で原由子さんが語ってくれていた。
桑田さんは、この鳥をナイチンゲールやビートルズ「black bird」のイメージと話していたそうだ。
…やはり!


♪私の頭を「妹みたい」って撫で

この曲を作るきっかけは、桑田さんがご夫婦でNHKのドキュメント番組を見たことだそう。
戦争中、基地から飛び立つ特攻隊員を見送ったという沖縄のおばあさんの話に着想を得た、と。

だから、この部分の「私」は当時、幼い少女だったおばあさんなのだ。
撫でたのは、命令が下り明日、基地を飛び立ち、そのまま帰らない10代の若い兵隊。
どんな思いで彼は女の子の頭を撫でただろう。
温もり、柔らかな髪の手触りは彼の心をどんなに慰めただろう…。


♪紅燃ゆる海の彼方へ

南方は激戦地。
特攻隊員の乗る零戦は極限まで機体を軽くし俊敏さに特化している為、防御機能がない。
元より特攻機は片道分の燃料しか積んでいない。
そんなふうに、まだ若い青年の命を次々と散らすような戦い方で敵に勝てるわけもないだろうに…。
こんな悲しいことはもう二度としてはいけないよね…。
戦争は悲しい。

♪内地の桜を もう一度見たかった

それが彼のささやかな「小さな願い」
手紙は検閲されるので、故郷へ帰りたい、家族に会いたいなどとは書けない。
書ける言葉を選んだのだ。


♪美しいあの島へ
♪夜鳴く鳥のように


青い海に囲まれた南方の島々は今は人気の観光地。
本来とても美しい島で、こんなに悲しいことが実際に起きていたのだ。

曲中に反戦の言葉はひとつもないが、
この曲は聴く人の心に自然と訴えかける。
そして心の深い所で自発的に、
戦争なんてしたらダメだなぁ…という気持ちが湧いてくる。

声高にではなく、こんなにさりげないような歌声で、桑田佳祐さんは多くの人の心を動かすのだ。

ごはんEPは全部、名曲!
こんな調子で語っています。読んでみてね。

↓「金目鯛の煮付け」

他にもサザン中心に歌詞についてしつこく書いています。
お時間のある時に読んでみてくださいね。

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