『腥血と遠吠え』あかつき雨垂~壮大な剣と魔法の世界観、そして牙剥くLOVE~

BL小説なんかないかな~図書館にないしな~紙で買うのもかさばるしな~

と思い、アマゾンで検索に検索を重ねているとふと見つけたのがこちらの本。表紙が気になりつつ、「人外BLかあ…」と未踏の地でもあったのでぽちっとダウンロードしてみました。

『今夜ここで何が起ころうと、それは満月のせいだ』
ある人狼に追われる年経た吸血鬼ヴェルギル。傲慢で不遜ではあったけれど、人外の〈協定〉の守護者である、人狼達の〈クラン〉に追われるほどの罪は犯していないはずだった。
ついに追い詰められたヴェルギルは、自分を殺そうとする人狼クヴァルドの美しさに見とれる。だが、彼の望みは想い人の復讐だった。
「人違いだ」と説明するも耳を貸さないクヴァルドに捉えられ、人狼の本拠地へと連行されるヴェルギル。そして天敵同士である人狼と吸血鬼は、手を組んで同じ敵を追うことになるが──。
それぞれの思惑を抱えつつ、激しく惹かれてゆくふたり。だが、ヴェルギルにはどうしてもクヴァルドを裏切らねばならない理由があった。やがてふたりの道行きに、国中を戦禍に巻き込みかねない陰謀の暗雲が立ちこめ──!?
人外たちが人間と共存する異世界の島国・ダイラを舞台にした、吸血鬼×人狼の中世ヨーロッパ風ファンタジーBL。
(アマゾンさんの商品紹介ページより)

ちなみに、kindle Unlimitedでも読めます。
(なお、アマゾンさんは「BL小説」で検索したときに執拗に漫画を出してくるの、どうにかしてほしいんですよね…小説って言ってるのに…!)

偶然出会って、なんともなしに読み始めて見たのですが、読み進める間にどんどんどんどん世界観に引き込まれ、二人のキャラクターの深みに引き込まれ、最後は一気に読み終えてしまいました。

この作品でまず一番に引き込まれていったのは世界観でした。
<月の女神>の子である人外を「ナドカ」と呼び、魔法が生きていながらも人間たちとのいさかいは絶えず……主人公たちが吸血鬼と人狼という長命の人外というのもあるけれど、神々がいた神話時代ははるか昔ながら、その時代から地続きになっているのを感じさせる絶妙な奥行き。魔法の世界観のあらゆる小細工が記号ではなくて、しっかりと歴史と土地を織りなしていて、それぞれが命を帯びているような…

言い方が失礼かもしれませんが、「あれ、翻訳小説読んでいたっけ?」と何度か作者のお名前を確認しました(笑)
イングランドをモデルにした世界観とのことで、本当に現地の人が書いたような異国の文化や風を感じることができて、それもどっぷりと世界観につかれた要因です。

個人的に好きなのは、途中に出てくる宿屋のバイロン。デーモンとのことで、ヤギのような角と目を持っているのですが、吸血鬼ヴェルギルに弱みを握られているよう…登場は一瞬ですが、ヴェルギルを雑に扱う様子とその容貌に忘れられないキャラになりました。
デーモンが詩歌音曲や芸術に秀でているという意外な(?)設定も素敵です。
そしてもちろん、ゴドフリーの魔女!詳しくいうとネタバレになってしまうのですが、登場した瞬間は思わずお茶を拭き出しそうになりました。

そして何より二人の関係……!
前半は、飄々としたヴェルギルが、堅物クヴァルドを玩具のようにもてあそんでからかっているようなふうなのですが、旅を一緒に続け、その姿や魂に惹かれていくのが堪らない…!

「ひとつ嘘をついてもいいかな、クロン。君には是非とも騙されて欲しい」

クロンというのはクヴァルドのこと。立派な成人で、逞しい体躯のクヴァルドですが、1000歳を超えるヴェルギルにとっては子どもも同然ですから、からかうように、可愛がるように、仔犬(クロン)と呼ぶのです。
でも、そんな子どもに、ずっと浮薄を装っていたヴェルギルがふと、そんなふうに尋ねかけて──満月の夜の人狼の衝動で誤魔化すのでもなく、「君を今すぐに抱きたい」というのです。1000歳を超えた男が!!!!
見た目こそガチムチ受けではありますが(おそらく)、年の差を考えるとじじショタ(?)のような風情もあり……どちらかというとギリシャ的の少年愛のような節もあるかもしれません。

ベッドシーンも、クヴァルドの逞しく美しい体の描写や、皮膚の下の鼓動を感じる情感あふれる描写で、そのシーンになるとついついニヤニヤとため息をこぼしてしまいました。
誰かに見られたらヤバいですね。

切ないのが、思いが通じ合った甘い夜からの怒濤の展開。そうこのヴェルギル、ただの1000歳のオッサンではないのです。
どんなふうに彼らが裏切りの渦に巻き込まれるのか……それはぜひ読んで確認してください……

そしてもう一組、忘れてはいけない番いが、人狼の頭領の後継者のヒルダと、彼女の番いでクヴァルドの憧れの人であったエギル。

「愛しいひと、わたしの血の匂いを覚えている?」

ヒルダの台詞と、たった一人を番いと認める狼としての二人のクライマックス…登場シーンこそ少ないものの、強烈な愛を見せつけられて、悶えました。

何気なく探し当てて、こんなに面白いBLファンタジーだったとは嬉しい偶然です。
欲をいうなれば、エダルトを倒したあとの二人が、どうやって長い戦いと愛しい人の喪失の傷を慰めたのか、恋人としての互いをしっかり認められるようになったのか、エイルの島に行く前の二人が読みたかったな…!というのがひとつ。
二つ目は、主人公たち以外だと、性行為も番いも男女の組み合わせばかりだったので、世界観的に男同士が恋人・伴侶の関係になることに対して、どういった扱いになるのか、そのあたりの文化や価値観がもっと知りたかったな…ということです。あまりに贅沢の極みですが……

紙の本は残念ながらアマゾンさんからは出品しておらず、作者さんのBOOTHで購入できるようです。そう、なんと、噂に聞いていた出版社を通さないタイプの作家さん…!海外でいらっしゃるとは聞いていましたが、まさか日本でお目にかかれるとは…

思いがけずとても面白い異世界ダークファンタジー&BL小説に出会えてしまって感謝です。作者さんの別の本も読んでみたい!今後のご活躍を嗅げながら応援しています。

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