焼いたパンとお気に入りのジャム

私の実家の朝食は和食だった。毎日毎日目が覚めれば白米が待っていた。ドラマや漫画でトーストを齧っている姿に衝撃を受けた学生時代。パンはおやつではなかったらしいのだ。それまでパンというと、学校から帰って来て小腹が空いたときの非常食のようなものだった。丸いパンの中にマーガリンやチョコレートが詰まっているようないわゆる菓子パンが、私にとってのパンだった。だからパンが食事になると知って以降、私はいつか朝食にほかほかに焼いたパンが食べたいと切望していた。




高校を卒業して一人暮らしをし始めてから、初めて自分で食パンを買って、それを朝食にした。電子レンジにトースト機能が付いていたので、それを使い7分もの時間を掛けてパンを焼いた。焼いたというのか、加熱した。焦げ目がいい具合に付き、マーガリンを塗って食べた気がする。味は何だかおかしかった。電子レンジの中の匂いの味、というのか。プラスチックみたいな味がして、そして思った程サクサクでないのだ。私はがっかりしながら、イマイチな食パンを胃に詰め、学校に行ったのだった。しかしお昼前に、驚く程お腹がすく。パンって腹持ちが悪いのだ。味もそれ程でなかったし何だか損した気分。結局6枚切りのパンは全部食べきれずに消費期限を迎えてしまい、廃棄した。それからあまりパンを食べなくなった。こんなものか、と勝手に裏切られた気持ちになった。



産後里帰りをして、ふとジャムが気になるようになった。きっかけが何だったか覚えていないのだが、きっと「美味しいジャム」とか「オススメのジャム」とか、そういうものを目にしたんだと思う。すぐさま、通販で珍しそうなジャムを3つ購入。ジャムってまず見た目が可愛い。透明な瓶に入っていて中身の色が見えるのだ。いちごの赤やブルーベリーの青、りんごの黄色など様々、澄んだ色が綺麗だ。蓋もチェック柄だったりなかなか乙女心を擽るデザインになっている。貼ってあるラベルも凝っているものが多く、その姿全てに心を揺れ動かされる。


実家にはトースターがあるので、食パンを焼いてつやつやのジャムを塗る。確かイチジクのジャム。まだ開封したばかりなのに、残量が減るのが名残惜しくなる。大事に大事に食べたい。さて一口。「んん!んまあい!」。果実の風味と甘味料の甘さ。イチジクの種のつぶつぶの感触。唇がべとべとになるのも構わず、一気に食べ終えた。そういえば先程昼食をたんまり食べたのは忘れることにする。それからは来る日も来る日も、里帰り中は食パンを焼いてジャムを塗って食べた。昼食に、おやつに。パンのサクサクふわふわと、ジャムの優しい甘さは私を随分癒してくれたのだった。



自宅に帰還後、トースターを買った。実は自宅にはトースターが無かったのだった。夫も私もパンはあまり食べなかったし必要ないと思っていたのだが、これが今とても役に立っている。私の昼食に調度いいのだ。一人分の昼食を作る気にもならない時、パンをトースターで焼くだけで美味しいパンが出来、またお気に入りのジャムがあれば最強タッグ。そういえば切迫早産の入院中に先輩ママさんが、「子どものおやつとかにパンはよく食べるから、トースターあった方がいいよ~」と言っていたのも購入の後押しになったのだ。ママさんありがとう。とても役立ってます。美味しいパンを求めてパン屋のリサーチも始まっていたりする。わりと凝り性なので、一旦はまるとめんどくさい性質だ。パンもジャムもお気に入りが欲しい。ジャムはイチジクがお気に入りだけど、パンはベストなものが決まっていないので、まだ冒険中だ。それもまた楽しい。トーストしたパン、お気に入りのイチジクのジャム、ついでにブラックコーヒーで私のお昼時間は満たされている。



その内、ジャム自作したいなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?