会議ではなぜか定位置

 昔から書記のポジションが定位置である。自分から手を挙げたことはないが、上司命令でもなくジャンケンで負けてもいないのに、会社員時代、なぜかいつも書記役が振ってきた。「こいつは仕事ができるとはお世辞にも言えないが、書記ならできるから書かせておけ」という存在だったのかもしれない。

ささっと議事録を仕上げるには

 会議の議事録を書くのは、慣れるまでは面倒な仕事だ。誰が何を言ったのか、その場で発言をざっとメモしておかねばならない。「あの人のあの発言で流れが変わった」ことが、後になってからわかるので。
 会議の場にノートPCを持ち込めれば楽だが、わたしのいた会社はすべて個人PCはデスクトップ、個人PCを会社に持ち込むことすらNGという会社もあったので、アナログで書くしかなかった。
 とりあえず、会議が終わったらすぐに自席に戻ってメモを見直し、要点だけはPCに打ち込んでおく。その場でこれをやっておくと後が断然ラクである。
 とはいっても、会議後すぐに次の予定が入っていることは少なくない。そのときは、終了直後にメモに蛍光ペンでメモに色をつけておく。どれが大事なポイントで、そこからどう展開したか。後から議事録に書く内容をピックアップだけでもしておく。
 その後は、なるべく早目のタイミングで書く。当日中がベストだ。記憶が残っているうちに書くほうが自分も楽だし、書き終わったらすぐに回覧されるので、出席者にとってもよいだろう。
 回覧が終わったら所定の場所にファイリングされる。たまに、後から「あのとき何を決めたっけ」とファイルを取り出している人もいるが、とくにクレームが来たことはないので、とりあえずの役は果たしていたのだろう。
 書記というとこんな感じで、大抵は会議の議事録作成である。要領をつかんでしまえば、さほど難しい役割ではない。

9時間半ノンストップの書記とは

 だが、きつかった書記役もある。
 ある本を作っているとき、出版社の担当者、著者、わたし(フリーランス)の3人チームで打ち合わせをしていた。昼の12:00から夜21:30までドリンク休憩、トイレ休憩なしでノンストップの打ち合わせだった。
 ノートPCはあったので、2人の話を取りこぼさないようにどんどん書いていくのがわたしの役割。そして、2人とも話すテンポが尋常じゃなく速いのだ。
 このときは、文字通り「全集中」し、ただただマシンに文字を打ち込んでいった。ふつうの会議ならば、重要な箇所だけは落とさないようにすればよいが、ゲラ打ち合わせというのは、話す内容すべてが「重要」なのである。
 版元担当と著者はマシンガントークでどんどんゲラを進めていく。それを落とさずメモしていくのだが、5時間がすぎた頃から朦朧としてくる。
 ところが、2人の「マシンガン」ぶりはまったく衰えない。「どれだけ体力あるんだこの2人……」と本当におそろしくなった。いったいどうやって乗り切ったのか、何を考えていたのか、肝腎の記録はきちんととれていたのか。いま思い出そうとしても思い出せない。ほんとうに大変だったことは記憶から飛んでしまうというが、その通りである。

「書記」という名のライターをボランティアで

 もうひとつ、別の意味できつかった書記役というのもある。セミナーのレポート作成という名の原稿ライティングだ。
 4人が90分間登壇するセッションを、音声起こししながら2000字ほどの原稿にまとめる。その後、4人のスピーカー全員の承認をもらって、完全原稿を事務局(編集部)に送るという工程である。
 セミナー終了後、締め切りまでは2週間もない。もちろんこの間、フリーランスとしての仕事はふつうにしているのである。セッション原稿は睡眠時間を削って書くしかない。ふつうの仕事をしながら、2週間で2000字✕2本の原稿を仕上げるのは、書くのが遅いわたしにとってはかなり厳しかった。
 とくにひとつのセッションがきつかった。言葉、文章にこだわりの強い人たちばかりで、登壇者OKがもらえず何度も何度も書きなおした。
 締め切りぎりぎりになんとか送ったときは、嬉しさや安心よりも、つら買った、厳しかったという思いが先に立ち、「二度とやらない」と決めた。
 これはボランティアで、指名があったから受けたアンペイドワークだったが、信じられない搾取に思えた(その後、引き受け手がいなくなり「登壇者本人が原稿を書く」ようになったのは、やはり「誰にとってもきつすぎる」仕事だったのだろうと思っている)。

フリーランスには「書記」はなくなったが

 こんな感じで、どこに行っても黙っていると書記ポジションが降ってくる仕事人生だった、数年前までは。
 いまは自宅から出ずに校正・校閲と執筆に専念しているのでそんなことはない。Zoomで打ち合わせがあっても、議事録を要求されることはなく、自分のためにメモしておくだけだ。原稿書きは、もちろん原稿料が発生する案件のみ受けている。
 けれども、自分が書きたい原稿があれば無料でも書くんだけどなぁ。たとえば校正者・校閲者インタビュー原稿を書いて、ここnoteに載せる活動はやっていきたい。誰かインタビューに応じてくれる校正者はいないかなぁ。

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