AIで英語講座や翻訳講座とのマッチングを実現してほしい

 今年は4回も人前で話をする機会があった。Zoomだと受講者の空気を感じることはできないが、質疑応答というのがある。これを見ていると、翻訳者たちはいま、これまでにない迷いのなかにいるとしみじみ感じる。
 プロの翻訳者にとってはまだまだ使えるものではないというのに世間はAIをもてはやし、「もう翻訳者など要らない」「AI翻訳を直す人だけがほしい」風潮が広がっている。
 インボイス制度が始まり事務手続きの手間が増え、登録を選んだ人は収入減、そうでない人は取引先から切られるかもしれないと怯えながら日々の生活を送る。
 どう見ても明るい要素はない。
 それでも翻訳をしたい、し続けたい、し続けるしかない……そういう人たちは情報を集めたり学んだりするのに必死だ。
 翻訳者はいつだって勉強しているが、特にいまは生き残りをかけて「自分の脳とお金というリソースをどこに投下して学ぶか」を探すのに必死なのだ。
 とくに多いニーズが「英語(とくに文法)を学び直したい」である。
 翻訳力アップに英文法は不可欠だとは誰でも知っている。だが、市販の教材や講座はあまりにも多すぎて、どれを選んでよいかわからない。そういう声がわたしのセミナーでも何度も聞かれた。
 質問されるたびに、自分がやってみた結果「万人に勧められる」教材をいくつか挙げてはみた。自分はこれをやってこういう効果があった、とは言えるが、「そのひと個人」に合っているかどうかはわからない。
 英語コーチという職業も存在するが、どの人を選んでよいかわからないくらい多く、学習者を食い物にしようと手ぐすね引いている、詐欺まがいの「自称コーチ」も存在する。
 そこで思い出したことがある。むかしアルクのフライヤーだったかEnglish Journalだったかで、「あなたにはどの講座が適切?」みたいなフローチャートがあった。「英語圏に留学経験がある」「Time誌が読めるようになりたい」「中学まで英語は得意だった」「英語で簡単な買い物くらいならできる」などにYes, Noで答えていくと、最後に「あなたに合った講座はこれ」みたいに、お勧めの講座を答えてくれるというものだった。
 もちろんアルクの講座限定だったのだが、同じ仕組みでいろんな社の教材、講座が回答として出てくるようにしたらどうだろう。AIを使えばできるのではないだろうか。

●英語スキル(英検の級やTOEICスコア、単語レベル等)
●年齢(ある程度の年齢になったら、教材は「内容がよい」だけでは選べない。とくにレイアウトが重要で、文字サイズやフォント、行間の空き、見やすい配色も大切になってくる)
●ビジュアルの好み(図が多い方がいいのか、テキスト主体がいいのか、コラムはどうか。イラストについても、嫌いなタッチのものでは没頭して学習するのは難しい)
●性格(進歩が早いタイプか、それとも進歩は遅いが確実に定着させるタイプか)
●期間(とりあえず1か月、学習を最優先にして頑張るか、それとも数年計画で毎日こつこつスケジュールをこなしていくか)
●予算(これが最重要かもしれない)

 こうした条件を入れれば、「ハイ、あなたにぴったりの講座はこれとこれとこれです」と出てくるとしよう。すると、ああなるほど、そんな講座あったのね。お勧めのなかから選んでもよいし、自力で「お勧めされた講座に近いもの(もっと安価な講座等)」を探しにいってもよい。
 昔のフローチャートだってそうだったはず。ズバリその講座というのではなくて、「そんな感じのやつね」というのがわかって、そこから自分で探していけばよい。
 市販の英語講座や教材の数は増え続ける一方だが、AIであればいちいち人間を介してアップデートする必要もないだろう。
 そして、英語学習マッチングアプリが成功したら、「翻訳講座マッチングアプリ」も作ってほしい。こちらは上記の条件に
●翻訳分野(めざす分野)
を足すだけでよいのではないか。講座でもよいし、スクールでもよい。 翻訳スクールは山のようにある。その中から「あなたにあった翻訳講座はこれ」と「目安」を示してもらえれば、あとは自分で調べていけばよいのだ。
 巷に英語講座はあまりにも数が多すぎて、どの程度AIが網羅できるかわからない。だが「翻訳」講座ならばどうだろう。実用に耐えうるものができるのではないだろうか。
 そういう指針があれば、情報商材に手を出す人も減ると思う。
 どうだろう、こういう「講座選び」のプロンプトテンプレートを書ける人がいないだろうか。ぜひ英語・翻訳業界に広めてもらえると嬉しいのだが。
 

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