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即興系ピアノYouTuberライブin勝浦 その2

オープニングはチック・コリア「スペイン」

 いよいよ演奏が始まる。オープニングの音が鳴った瞬間「やったー」。何度もストリートピアノで2人の連弾を聴いてきた「スペイン」だ。演奏家の相性の良さに仰天した曲である。
 今日はその曲を2台ピアノで聴ける。ホールからはリアルな音と振動、波動が身体のすみずみまで行き渡る。そう、これがコンサートというものだ。
 プロのピアノリサイタルやコンサートに最後に行ったのはいったいいつだろう……何十年も昔かもしれない。もう行くことはないかもしれないと思っていた。それなのに、なぜ今日ここに来たのだろうか。よりによって大の苦手の真夏に、だ。2人が連れてきてくれたとしか考えられない。
 「スペイン」の後、菊池氏が「連弾と二台ピアノは呼吸の合わせ方が違う。アイコンタクトでやるのが二台ピアノ」とトークを展開。
 言われてみれば当たり前だが、連弾なら相手の指や、わずかな首の動作、何より呼吸で合わせることができる。だがフルコンサートグランドピアノ2台を隔てると、アイコンタクトといってもそこそこ距離がある。首を振る動作ひとつもかなり大きめにしないと、相手から見えない。最初のタイミングは、曲によっては足も使えるだろうけど。などなど「合わせ方」も興味深く、今日「見」たかった点のひとつである。

配信者同士、考えることは同じ。それぞれソロの「夏メドレー」

 2台ピアノで始まったコンサートはソロパートに移る。2人とも偶然「夏メドレー」をプログラムに入れてきたのは「お互い配信者なので考えることが似ている」と菊池氏が笑っていた。
 ここで彼は、先に演奏したござ氏のセットリストを脳内で作り、「今、ござさんが演奏した曲は除いて『(自分の)夏メドレー』を演奏します」という。さすがは即興系YouTuber。その場でプログラムを組み立てるのには慣れている。本番でもそれができるのが絶対的な強み。
 菊池ソロでは、ファリャ「火祭りの踊り」のあと、会場に「チルい曲とエグい曲どちらがいいか」をたずねる。挙手が圧倒的多数だったのは予想どおり「エグい曲」である。

「エグい曲」とはデンツァ「フニクリ・フニクラ」

 ここで弾き始めたのは、デンツァ「フニクリ・フニクラ」だった。YouTubeライブで何度か聴いたことはあったが、生の迫力を(しかも別のアレンジで)体験。小学校の遠足で歌った曲がこんなにアグレッシヴになるなんて。改めて、全身で受ける振動、波動に驚き。

リクエスト・コーナーはじゃんけんで

 観客とじゃんけんをしてリクエストを募った結果、「ムーンリバー」「Everything」「パイレーツ・オブ・カリビアン」のを即興で2台で弾いていく。どちらも即興系YouTuberなので、その場でリクエストに応え、アンサンブルを(アイコンタクトだけで)合わせられるのは当然なのだろうか。

第二部の始まり

 二部はすべて二台ピアノ。菅野よう子「Tank!」から久石譲ジブリメドレー。オープニングの「人生のメリーゴーランド」から、「海の見える街」「ナウシカのレクイエム」、「風の通り道」に「君をのせて」、「カントリーロード」がエンディングだった。その他数曲入っていたが、わたしはジブリに詳しくない。わかったのはこれだけだ。

変奏曲コーナーでブルース風「乙女の祈り」

 ここからは変奏曲コーナーとトークが入るが、二人とも、いつもどんな曲であっても独自アレンジで弾いている。つまり「いつもどおり」やるのね、と思ったがバダジェフスカ「乙女の祈り」が流れてくる。あの誰でも聞き慣れたピアノ小品がどのように変奏されるのだろうか。
 「タタ タタタ ターン タ」のおなじみの旋律を「タッタ タッタ タッタ タッタ ターンタ」とブルースのリズムに乗せて自由に変奏していく。菊池トークによると「22時間くらい前に『乙女の祈り』をブルースでやったら面白いんじゃない?」と思いついたのだそうだ。
 次は菊池ファンにはおなじみ、ブラームス「パガニーニの主題による変奏曲」。2台ピアノでの演奏は、いつものソロに比べて不協和音が多いが、それが不穏なく、というか逆に脳内のネガティブさを破壊して、浮遊の世界へ連れていってくれるのが不思議なくらい。ござトークでは「この曲は一番長く編曲に付き合った」と言っていた。
 たしかにいつもの感じとは全然違う。そして譜面どおりに弾くわけは
ないので、さらにアレンジが加わっていたのだろう。

アンコール 小犬のワルツ

 スタンディングオベーションからアンコール。撮影およびSNS投稿OKということで、観客全員がスマホを取り出しカメラを向け始める。曲名もアナウンスされ「小犬のワルツ」だという。たしかにTwitterで再生できる長さの曲だしね、と納得。だが、この2人がどんな「小犬」が踊っている様子を描き出すのだろう。
 まずはござ氏のトリルから始まり、菊池氏が3拍子の伴奏。最初はふつうの「小犬のワルツ」だが、ござ氏が仕掛けてジャズっぽくしていく。伴奏はメロディーに和音で合わせたかと思うと、さらにメロディーを追いかけてカノンかと思えばフーガに、そして変奏曲になっていく。
 こうやって2人はいつも、お互いに仕掛けては反応を探り合い、暴れたり合わせたりして予測不可能、スリリングな世界を作り出してきたし、これからもそうしていくのだろう。

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