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 「ご自由にお持ちください」と書かれた段ボール箱に、文具や事務用品などが入っている。写真の現像やフォトアルバムを扱う近所のショップが閉店するにあたり、不用品を処分しようというのだろう。
 「何か使えるものあるかな?」何の気なしに目を走らせると、お店で時々見る、POPを吊り下げて使うスタンドがあった。
 「これだ!」と、1本を小脇に抱えて家に戻った。
 「いい! ちょうどいい!」まさにビンゴであった。デスクの上、PC画面の前に置いて、上部のクリップにA4の紙を吊り下げてみると、視界の端にぴったり収まる。2台のモニタと同時に紙も見られる。
 「これだったか……」ずっと探していた、画面の横において資料を表示させ続けておくツールをついに見つけた!
  翻訳エージェントに勤務していたとき、書見台を使っていた。クライアントから翻訳原稿がFaxで来た時代には、モニタの横に紙原稿を置ける場所が必要だったのだ。
 数年後、原稿はメールで届くようになったが、それでもまだ書見台は使っていた。モニタが1台なら、画面は作業用に使いたい。だから原稿は書見台に載せて画面の左側に置いておくスタイルが楽だった。
 いまは、フリーランスとして100%自宅で仕事をしている。モニタは2台。翻訳校閲をする際には左側のモニタに原稿を、右側には翻訳文を表示させる。校正紙はモニタの手前において、データを見ながら紙の上に赤字を入れたり鉛筆でコメントを記すというスタイルである。
 校閲のときはこれでよいが、わたしは英語教材の仕事もしている。原稿を書いたり、添削する仕事のときには、左のモニタに問題文、右には原稿や答案を表示して書いていくが、ほとんどは資料を参照しながら作業する。そんなときは左側のモニタをさらに2分割して使い、左に資料、右に原稿を表示してこれまでやってきた。だが資料は紙に印刷してざぁーっと読んだり、必要箇所に蛍光ペンを引いたりしたい。いや原稿自体も、pdf原稿を印刷して、紙をぺらっとめくっていきながら作業したいときもある。
 そうなると、書見台がほしい。けれども、書見台そのものが邪魔になるのは避けたい。机の上に置きっぱなしで、必要なときだけ紙をセッティングできるものがないかなぁ……と虫のいいことをずうっと思っていた。しかし具体的にどんなツールがいいのかイメージが湧かない。ここ数か月、頭の隅にずうっと引っかかったままだった。
 それが、閉店するショップの段ボール箱でPOPスタンドを見た瞬間、「これだっ!」と閃いた。脳内を検索してみると、たしかにこれは、書店や量販店によく置いてある。
 書見台ばかり探していて、POPスタンドのことはまったく思いつかなかった。ためしに、A4を10枚ばかりステープラーで綴じた資料をクリップに挟んだ。めくってみても、快適そのもの。PCをスクロールするより楽だし、当該箇所の前後が自然に目に入るので、参照したい箇所もすぐに見つかる。何より、PC画面よりも紙の方が目に優しい。疲れ方が全然違うのだ。
 ふつうの書見台では場所をとるし、使っていないときには台が邪魔してPC画面が見づらくなるから、いちいちずらす手間が必要である。だが、これは「スタンド」なので、置き場所には10cm四方の正方形のスペースがあれば充分だ。資料を吊るしていない、つまり使っていないときには「ステンレスの横棒と縦棒」にすぎないので、使っていないときに画面の端にすこし飛び出して目に入る程度。邪魔になるほどではない。
まさに灯台もと暗し。「こういうものがほしい」と具体的に描くこともできなかったものが、自宅から徒歩5分の店で、無料で手に入るとは。今後、毎日活躍してくれることは間違いない。
 こういうのをシンクロニシティというのかな。とてもラッキーな日であった。

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