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家で聴くための音楽、その4:Andy Goldmark『Andy Goldmark』

私的で、シアトリカルで

 家にいることが増えてきた人に、家で聴くとよい感じではないかしら、と感じる音楽を紹介していく連載。

 第4回はAndy Goldmarkの『Andy Goldmark』(1973)。

 家で聴く音楽など、その人の好みで、なんでもよいではないか、という意見もあるだろう。雰囲気がよい、静かで聴きやすい、というのも、おしつけがましいのであって、ハードな音楽、アップテンポな音楽でも、いいのではないかしら。それはそうだとも思うし、否定するつもりはない。

 とはいっても、雰囲気がよい(と感じる)音楽というのはあって、「音楽を雰囲気で聴くのか?」といった問いに関しては、雰囲気が悪い音楽をわざわざ紹介するのは無粋ではないか、そんな思いもある。美学の問題といえば、そうなのかもしれないけれど。

 この連載は「家で聴くとよい感じではないかしら、と感じる音楽を紹介していく」、きわめて私的な連載なので、とくにそのあたりに気を使わずにいく。なにか言われたときのロジックは用意しているけれど、それは、振りかざすものではない。

 前置きが長くなってしまった。今回は短めに。

 Andy Goldmarkは、1980年代以降に職業作家として活躍した面が、クローズアップされやすい作曲家だ。しかし、1973年に発表された本作は、化粧(タブー)の広告を参考にしたセピア色のジャケットも相まって、高い人気をほこっている。

 ピアノの弾き語りがメインで、そこに濃厚なストリングスや、ホーン隊が重ねられていく。プロデュースはGary Usherで、彼の貢献は大きいだろう。ちなみに、本作はロサンゼルスでレコーディングされたそうだけれど、このアルバムを収録したあとに、同じスタジオに入ったのがTom Waitsだったという。『Closing Time』の頃でしょうね。

 ピアノを主体にする、というと、静かでストイックなイメージを持たれるかもしれないけれど、そうでもないのがおもしろい。1曲目「Hours Have Passed」から、管楽器やストリングスの入れ方に、ミュージカルナンバー的な雰囲気も漂わせている。

 ボーカルはテクニカルではなくて、ちょっと朴訥で(それがまた、アメリカのSSWらしい)、一本調子に聴こえることもあるけれど、悪いとまでは思えない。過度に演劇的でなく、親しみやすいとプラスに受け止めることもできよう。

 なんといっても、この作品をリリースした当時、彼は21歳だったというのだから恐れ入る。

 後年、彼はこの作品を「自分の感情を私的な面で表現した物の寄せ集め」と語っている。その名の通り、私的な、語りかけてくるような内容でありながら、シアトリカルというか、ちょっと芝居がかったところがあるのも、不思議だ。Randy Newman、Harry Nilsonといった先達の影響はもちろんのこと、アメリカの古きよきスタンダードを、受け継いでいこうという意識もあったのだろうか。

 ちなみに、参加メンツは、ギターに後にグループを結成するJim Ryan、コーラスにCurt Boetcher、ドラムにJim KeltnerやAndy Newmarkなど、なかなか豪華な顔ぶれ。

 全編にわたり、彼のメロディ・メーカーぶりが存分に発揮されているが、野暮ったさはあまり感じられず、むしろスッキリとした“プレAOR”的な趣もあって、いま聴いても、あまり古くさくない。

 「雰囲気がよい音楽」とは、こういう作品のことをいうのだろう。家事や作業が一段落したときのリラックスタイムに、いかがだろうか。

 

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