20/02/25 日記 心の中に湿度を持った獣がいて

 日曜日の話。すばらしい1日だった。友人とスタジオで遊んだあと、小さくて静かな場所のライブへ行った。あとは帰って寝るだけだ。

 ところがどうして、楽しいことがあった日、よく話した日、動き回った日には、めんどうなものと一人で向き合うことになる。

 帰りの電車の中で、心の中に、あの湿度を持った獣がいることに気づいた。

 ずいぶんと幻想的な表現をしてしまったけれど、だいたいの人は、というよりも、一般的には、これを「うつ」とか「憂鬱」とか表現する。別にポエティックに書きたいわけではなく、自分が経験してきたそれは、獣に似ていると思っている。

 ご機嫌を取っていないと、急に噛み付いてくる。どこか野性的で、夜行性なところもある。それでいてカラッとした性格ではない。じめっとしている。すこし婉曲的だけれども、これを、湿度、と表現しても、まあ外れてはいないだろう。たまに朝にベッドに入り込んでくるときなど、犬や猫を飼っている人は、こんな瞬間があるのだろうと考えたりする。問題は、これには、まったく可愛げがないことだ。

 人によっては、イラストレーターのMatthew Johnstoneの絵本『I Had a Black Dog』を原案に、うつ病の患者に向けてWHOが作成した動画を思い出すかもしれない。

 自分にとっては、Black Dogといえばテクノなのだけれど。そういえば、Ken Downieも、ユニット名の由来を、うつ病に関するものであるとインタビューで話していたと記憶している(ソースを思い出せなくて申し訳ない)。

 Twitterのフォロワーさんに、自分のうつ状態のことを「憲兵」と表現している方がいた。無気力になり、動けないときに「そんなこともできないのか!」と自分を叱りつけてくるから、だそうだ。それと比べると、自分の場合は、もうすこし動物に近いものだろうか。

 この黒い犬は、何度も何度も、喉笛に噛み付いてきては、自分のすべてを奪ってこようとする。向こう側にその気はないかもしれないけれど、こちらはそれに翻弄されて、いろいろなものをご破産にされてきた。趣味、仕事、恋愛、まとめていえば、人生か。自分は何度、噛み殺されかけるのだろう?

 しかし、飼いならさないといけない。誰かに頼るのではなく。もちろん、専門家に相談するのは必要だけれど。その専門家だって、24時間365日、こちらの話を聴いてくれるわけではないのだし。

 ねえ、と、頭の中で語りかけた。もちろん、この獣は、誰の目にも見えないし、ほんとうに声に出すこともしない。静かにしておいてもらえると、うれしいのだけれど。せめて、こんな日ぐらいは。

 返事があるはずもないので、犬を散歩するような気分で、家までの道を歩いていった。遠くで本物の犬の鳴き声がして、こんなにわかりやすく声を出してくれればいいのにと、すこし考えてみた。

 こんなリリカルな内容になったのも、熱を出して寝込んでいるからだ。最新のウイルスであるかどうかは、経過を見てみないことには……。

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