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耳鼻科にアミューズメントを見出した話

去年の冬頃,娘の耳垢を取ってもらうべく耳鼻科へ行った。


まだ大人しく耳掃除させてくれる年齢ではないようだし,耳の穴がまだ小さいのでなかなか自宅ではうまくできない。ちょうどかかりつけの耳鼻科が無かったし,知り合いのお母さんも世話になっているらしいので,診察券作りがてら,その耳鼻科へ行ってみることにした。

私は耳かきされるのもするのも大大大大大大大大大大大大大大大大大大~~~~~~~~~~好きだ。娘の耳も掃除したいけどうまくやらせてくれないので,さぞかし沢山採れるだろうと思うと期待で胸が膨らんだ。下手なアミューズメントパークへ行く時より興奮していたと思う。

家族3人,明るい待合室で待っていると名前が呼ばれ,診察室に通された。娘は不穏な空気を察知して既に顔がバツ印になっている。白髪の先生に促され,私は回転イスに座り,号泣する娘の胴体をがっちりつかんで固定した。

先生と娘が向き合うような形となった。耳掃除で耳鼻科に来た事なかったので,「こんな事で来るな」と言われるかと思ったけど先生は手慣れた様子だった。

「耳掃除ね!じゃあお母さんこっち向いて下さい。」

「はぁい」

私は娘ごと左を向き,娘の右耳を差し出して先生は処置を始めた。おそらくだが,私の好きな,耳鼻科がやってるYoutubeの耳垢除去動画(後述)で使われているのと同じような,カメラと鉗子が使われたと思う。設置されたモニターに娘の耳の内部映像がリアルタイムで映し出される。

大きな耳垢がスルリスルリと回収されて行き,「おおお…」と思わす声が漏れた。妊娠中の4Dエコー映像より感動した。

「うええええん」

娘は泣いていた。


耳の中を映していたカメラは外耳道を通ってするすると外へ出ていく様子を映した。カメラと鉗子が耳の外へ出たのだ。先生の手元を見ると,鉗子で掴んだ実物の耳垢が見えた。紳士淑女なら分かって頂けると思うが,耳掃除で発掘した耳垢のデカさをじっくり眺め堪能するのは至高の喜びである。

しかし先生は取り出した耳垢を惜しげもなく即座にゴミ箱へ捨ててしまった。一瞬の出来事だった。

声をかけることもできず,私は娘をあやしながら耳垢の残像を見つめた。自分でも知らないうちに,「もしかして採れた耳垢をじっくり見せてもらえるんじゃないか」と淡い期待を抱いていた事に気づいた。

仕方がない。先生も私を楽しませるために耳掃除してるんじゃないんだから。ここは耳鼻科であってアミューズメントパークではない。


右耳が終わると今度は左耳だ。先生は私に,回転イスで右にくるりと回るよう促した。しかしモニターは左側に設置されていた。右を向いたら耳掃除が見られないじゃないか。

しょうがないので右を向いて,号泣する娘の左耳を差し出した。私はなんとか見れないかと思い,首がツりそうなほど左を向こうとしたが無駄だった。今だけフクロウかミミズクになりたかった。

一緒に来ていた夫は我々の横に立って,嬉しそうに耳垢除去LIVE映像を堪能している。娘が余計泣くと思って私が抱っこしたけど,こんなことなら夫に抱っこしてもらえばよかった。私は暴れる娘を抱きしめながら,悔しさを噛み締めた。

先生はあれよと言う間もなく左耳も掃除し,再度私の目の端に鉗子で掴んだ大きな耳垢が映った。私は心の中で叫んだ。

(え,それ捨てちゃうんですか!!?よく見せて下さい!!)

言えなかった。私の祈りは誰にも届く事なく宇宙へ消えて行き,娘の耳垢は沈黙を保ったままゴミ箱へ吸い込まれていった。


お会計をして新しい診察券を貰い,夫とべそべそになった娘と一緒に駐車場へと歩いた。娘と手をつないで車通りの無い裏道を歩いていると,彼女はすぐご機嫌になった。夫が娘に言った。

「お耳,キレイキレイしてもらってよかったねえ。」

その通りだと思った。それ以上何を望むと言うんだ。

夫に,耳垢掃除の映像について聞くと,彼は両耳分じっくり見られたという。次来るときは交代しようと約束して,その日は帰った。


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