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チェロ弾きのためのエッセイ〜トンネル〜

許容範囲の話で、それに付随したお話をもう一つ思い出しました。

さて、機械音と楽器の音って、性質が全く違いますよね。たとえそれが”チェロ”と設定されている機械音だったとしても。
何が違いをもたらしているかはたくさんありますが、その一つとして「倍音」があります。

たとえば、チェロで開放のGを弾いてみます。なるべく弦の振幅が大きくなるように。
すると、本来鳴るはずの高さであるGが聞こえます。でもよく耳を澄ませてみると、なんとなくではありますが、実際のGよりも高いGが聞こえると思うんです。開放で弾き切って弓を離し、チェロの体を響かせるとより顕著に、ふぉーんって聞こえます。

つまり、楽器で一つの音を弾いた時または吹いた時、そこでなっている音には一番大きく聞こえる音”以外”の音も含まれているんです。その、”以外”の音が「倍音」です。機械の音では、楽器が出せる倍音を再現することが非常に難しく、そこが大きな差になってきます。

長いトンネルの中で「わっっっ!!」って大きな声を出すと、言葉が木霊しながらすんごく響きますよね。でもその中に、なんとなく高い音がふぉんふぉんふぉんって聞こえませんか?あれも実は倍音です。

ちなみに、一番大きく聞こえる音のことは「基音」というのですが、倍音って恥ずかしがり屋なので、普段は基音の陰に隠れていて、よーく眺めないと見つけられないんです。
でもこの倍音さん、実はとても大事な役割を持っていて、恥ずかしがりながらも縁の下で基音を支えてくれている人達なんです。


倍音の持つ役割、それは響きの構成です。


トンネルでの例えを参考に、ちょっと物理的な話をしましょう。
トンネルの木霊は、音がトンネルの中でいっぱいいっぱいに反射することでみられる現象です。その時、基音の成分だけではなく倍音の成分もたくさん反射します。「音」とは「波」であり、重なれば重なるだけその力を強くさせます。
音における力とは音量。そのため、普段は基音の音量で隠れている倍音の音量も増幅し、いつも以上に良く聞こえるようになるというわけです(良く聞こえるようになる理由は他にもありますが、ここでは割愛)。

びゃっとまとめると、トンネルにおける響きとは、基音や倍音たちのたくさんの反射によるものとも言えます。反射する倍音が多ければ多いほど、響きが増強する。普段は恥ずかしがり屋な倍音も、トンネルの中でなら出てきてくれるんですね。

これって楽器でも声楽でも同じことが言えると思うんですよ。楽器の中や体の中にある”トンネル”をうまく隠れている倍音たちに見せてあげて、倍音たちが安心して出てきてくれるような環境を作ってあげる。ついでに言うと、低い音の方が倍音がたくさん含まれていて、イケボと呼ばれる人に低い声の人が多いことも納得です。実際、「良い音=倍音が多い」というめちゃざっくりした方程式もあるとかないとか。

基音1人で演奏するより、倍音たちも含めてみんなで演奏した方が楽しい。少なくとも私はそう思います。


チェロのトンネルってどこですかね?



P.S.最初の許容範囲の話、し損ねました。

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