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母乳は楽しい

 母乳育児は楽しい。清少納言あたりがきっと書いてると思う。稚児の吸いつきて、口をはぐはぐさせるは、いとをかし。
 
 赤ちゃんを育てるにあたって、母乳かミルクか?というのは一大トピックだ。こだわる人は「完全に母乳で育てる」、いわゆる完母に情熱を傾けている。自分はそこまでではない。できたら母乳かな~消化によくてメリット多いらしいし~くらいのノリ。
 
 やってみると意外と楽しい。おっぱいをあげるという行為は、赤ちゃんとのコミュニケーションの一環なわけで、ここまで濃密な接触をすることは他ではまずない。いまこの時期しかできないレアで濃い時間。
 
 母乳を飲むべく胸に吸いついた赤ちゃんは、一生懸命飲んでいるときもあれば、疲れてきてウトウトしながら飲んだりもする。お腹がいっぱいになると、目をつむって満足そうにしたまま、ふいっと背を反らせる。満腹、もうおっぱい拒否。そんな感じ。
 
 赤ちゃんがこっちを見上げているときに目の中をのぞき込むと、当然ながら自分の上半身を下から見た様子が映る。ああ、この人はこういう風景を見ているのかあ……と思いつつ、口をはぐはぐと動かす赤ちゃんを見る。いつも懸命に飲んでいる。
 
 母にその話をすると「そりゃあ懸命でしょう。それで生きていかなぁならんのだから」と言う。母はわたしのことを完母で育てたのであり、その最初の感想は「この子の食糧はおっぱいしかないんだ……」という実感だったらしい。おかげさまで元気に育ちました。
 
 ミルクよりも飲むのに時間がかかるのと、抱っこしながら飲ませるので、肌と肌がふれあう時間が長い。肌接触タイムが長いのは赤ちゃんにとってよいことらしい。でもこれ、母乳をあげているほうにとっても温かい、いい時間なんだよな。柔らかい湯たんぽみたい。
 
 「濃密なコミュニケーションが取れる」ほかにも母乳のメリットは多い。病気にかかりにくくなり、母体にとっては産後の体の回復に有効であり、ミルクと違って味が一定ではないため、赤ちゃんはいろんな味が楽しめる、とかなんとか。あとはミルク代が浮くこと。
 
 デメリットは、お母さん以外はあげられない、母乳をしばらくあげないでいると胸にたまってしまい乳腺炎になってしまう……など。また母乳は消化にいい反面、腹持ちが悪い。だから赤ちゃんに長く寝てほしいなら、ミルクのほうが持ちがよかったりする。
 
 ということで、自分は母乳とミルクの混合でここまで来ている。飲んでいるときの表情を比べるなら、やっぱり母乳あげてるときのほうが楽しいですね。
 
 吸いついたときの、「ガッ」という効果音が似合いそうな顔から、一生懸命飲んでいるときのひたむきな目、そうして終わりに近づいたときのウトウトした表情。上から眺めていると「おっ最近、まつげが長くなってきた」なんて変化もわかる。
 
 子育て本なんかでは「日本の母乳信仰は異常!海外では母乳育児をするお母さんは『ちょっとこだわりの強い人』くらいの扱いです。ガンガンミルクを飲ませて、ママは楽しよう!」みたいに書いているものもあった。
 
 気持ちはわからなくもないです。軌道に乗るまではいろいろあるしね。ただ個人的には「こんな楽しいのに」という思い。できるものならやったほうがいいと思う。赤ちゃんとここまで密着して、その表情の変化を見ていられるの今だけだよ。
 
 「海外ではうんぬん」と書かれた本はたいてい「よその国のほうが日本より進んでいる」という前提で書かれているのだけど、よそから翻訳されてきた子育て本では「日本ではこうなんだぞ」と日本の子育てがお手本的に出てきたり、みんな隣の芝生は青い。
 
 やっている側として思うのは、母乳をあげるのは楽しいということ。それだけ。

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本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。