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家庭は「活躍」に入りませんか

 中学のときの同級生に、児童養護施設で育っている女の子がいた。中3の頃、なんでそんな会話をしたんだったか覚えてないけど、その子は
 
「ウチ馬鹿だからさあ、高校行きたくないですって言ったんだけど、先生に『高校くらい行ったほうがいい』って言われてさあ」
 
 先生、とは教師ではなく、児童養護施設の職員を指す。施設が面倒を見てくれるのは18歳まで。そのあと独り立ちすることを考えたら、高校は出てないと後が厳しい。それで彼女も進学を勧められたらしい。
 
 勉強の好きそうな子じゃなかった。授業中によく寝ていて、休み時間にもよく寝ていて、体と声が大きいから存在感があった。存在感はあったけど、何かに秀でているわけでも、何かが特別好きとか得意とかでもなく、ちょっと勉強が嫌いな普通の女の子に見えた。
 
 正直、この人が高校に行ってどうするんだろう、と思った。どうせ授業中また寝るだけなのに。学校というのは「就職に向けた場所」という側面もあるにはあるけれど、まずは勉強をするところだから……。
 
 かく言う自分だって「勉強が大好きだから進学する」わけではなかった。周囲はあたりまえに進学しているし、なにより中卒での就職は厳しいし、父親はわたしが大学まで行くことを望んでいる。ただそれだけの理由で高校に入った。
 
 働きたくてたまらないわけでもないし、勉強もそこまでしたくない。ただ高校(あるいは大学)の学歴がないと就職に不利だから行く。そういう思考のもと進学した人たちは、実際のところ結構な数いると思う。
 
 でもってそこに費やした時間は、人間が本来、生殖に向いている期間を直撃している。勉強が嫌いなのに進学した同級生を思い浮かべながら、もし10代で結婚・出産して養われる道が普通だったら、彼女は選んだかなあ、と考える。
 
 高校を卒業する頃になると、これはまたぜんぜん違う人との会話だけど

「進学も就職も嫌だ。きれいで頼りがいがあるお姉さんが現れて『ぜんぶ面倒見てあげるわよ』って言われたら、迷わずその胸に飛び込んでしまう」

「いやもう、それみんなそうだと思う」

 なんて話を、女子寮でした。
 
 誰かが面倒を見てくれるなら、働かないし進学もしない。そういう人は、わりと普通にいると思う。誰もがエネルギッシュに学問に励み、優秀な働き手となるべくしのぎを削るわけではない。
 
 だったらそうできる世の中だといいよな……と思う。勉強する気のない女性を教育機関に送り込むよりは、誰かいい人と出会って家庭を築いてもらうほうが、なんだかよっぽどよくないだろうか。
 
 いまの日本の制度でも10代で結婚・出産自体はできる。でもメジャーじゃない。全然メジャーじゃない。これが昔みたいに「女学校を出て16、17で嫁ぐ。(結婚相手は家族を養える稼ぎのある人に限るので、年齢も離れている)」のが珍しくない世界だったら、そっちを選んだ女性も多いんじゃないか。
 
 なんなら自分もそうしたんじゃないか。そうして、ティーンエイジャーのありあまる体力で子育てができたら、それはそれでとてもよかったと思う。20代後半になって産んだ今よりも、若くて元気であったことは間違いない。
 
 自分の頭がもうちょっとぶっ飛んでいたら「政府が女性の活躍を推進し、会社で働くよう求めるせいで、自分は進学・就職させられた。結果としてその間、結婚と子育てを考えることができず、貴重な時間を逃してしまった」と人のせいにしていると思う。
 
 嫌々進学する女の子たちを見ると、こういう人たちが、望めば早く家庭に入れる世の中だといいなあ……と考えてしまう。バリバリ勉強・仕事したい人はして、家庭を築きたい人は築いて……。それこそが個々の「活躍」だと思うのだけど、どうだろう。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。