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合意形成に役立つ課題評価の5ステップ

こんにちは。メルカリUX Designチーム、UXリサーチャーの井手 あぐり(@aggy)です。

みなさんはUXリサーチを起点に要件定義を進める際、関係者との合意形成や、議論の着地に悩むことはありませんか?
特に関係者が多い場合、課題を抽出したあとのソリューションアイデア出しや要件定義において、取捨選択が難しかったり、議論が長引いてしまったりしますよね。
この記事では、とあるプロジェクトで行った課題評価の進め方について紹介します。

この記事は「UXリサーチ/デザインリサーチ Advent Calendar 2022」に参加しています。

陥りやすい落とし穴って?

たとえばもし、わたしたちがコンビニを経営していて「来店者のリピート率を上げる」という目標を持っているとします。
調査の結果、このコンビニによく訪れる顧客はいくつかの困りごとを持っていることがわかりました。
そのなかで、次の二つの課題のうちどちらかを選ぶ必要があるとします。

「自分が来店する出勤前の時間に、好きなおにぎりがいつも売り切れていてしかたなく残ったおにぎりを買っている」
「会議前でゆっくりランチを食べる時間がないときに、毎回そばを選んでしまうが実は飽きている」

プロジェクトとして、どのように合意形成を進め、どちらの課題を選択すべきでしょうか?

これだけだと様々な観点があって、議論が発散しそうですよね。インタビューの中で直接お客さまがおっしゃった発言など「わかりやすく目立つ課題」が優先されたり、この人が言うならそうなのかもしれない、と「声が大きい人の意見」が優先されてしまうこともあるかもしれません。
今回紹介するプロジェクトでは、初めて協業する顔ぶれのメンバー、かつ複数の部署をまたいで関係者が多い中で合意形成を進める必要があったことから、できる限りシンプルに、誰にでも意図がわかりやすいことを目指して評価を行いました。

課題評価のために行った5ステップ

さっそく、行ったステップを順を追って紹介したいと思います。おおまかに分けると、このような5つのステップで進めていきました。

  1. 気づきの洗い出しワークショップ

  2. 気づきの「加工」による評価の下準備

  3. 評価軸の選定と一次評価

  4. 個別評価カリブレーション

  5. 課題優先度検討用スコアリスト

1. 気づきの洗い出しワークショップ

初めに、プロジェクトを担当していたUX Designチームのデザイナー2名、UXリサーチャー1名の計3名で分担してテーマに関する代表的なお客さまセグメント3パターンのAs-Isジャーニー(ここでは、現状におけるお客さまの一連の行動を可視化したものを指します)を事前に準備しました。

ワークショップ当日には、そのAs-Isジャーニーをプロジェクトメンバー全員で共有しながら、付箋を使って現状に対する気づきを書き出し、お互いの書き出した内容を読み合うところまでを行いました。ここではまずお互いの認識している課題を可視化し、共有することが目的です。

2. 気づきの「加工」による評価の下準備

このステップは、デザイナー・UXリサーチャーの3名のみで行いました。前ステップで集まった付箋は、粒度や切り口がそれぞれの状態になっていましたが、このままだと優先順位の検討には使いづらい状態です。
同じ書式で揃える(=加工する)ことによってあとのステップで扱いやすくなるよう、「課題」および「解決された状態」を1セットとして書き換えていく作業を分担して行い、一次評価として各人のドラフト評価を付けていきました。

前述したコンビニの例えに置き換えると、元の付箋には「本来欲しいおにぎりが買えていない」くらいの粒度で書かれている内容を、下記のように書くイメージです。

課題:
自分が来店する出勤前の時間に、好きなおにぎりがいつも売り切れていてしかたなく残ったおにぎりを買っている
 ↓
解決された状態:
出勤前の時間に、好きなおにぎりを選べる状態

3. 評価軸の選定と一次評価

引き続きデザイナー・UXリサーチャーの3名のみで、今回のプロジェクトに使う評価軸の選定について議論しました。ここでは複数の観点をバランス良く取り上げることがポイントですが、多くの場合3つ程度に絞れるのではないかと思います。

わたしたちの場合、「お客さまから見た不満度の大きさ」「技術的制約」「プロジェクトKPIへの影響度」という3軸を選びました。また、それぞれのスコア定義を言語化しています。
また、当日の議論材料になるよう、この3軸を使って全課題に対する一次評価を行っておきました。

実際はさらに各アイコンの数に応じた評価定義の文章がセットになっています

おにぎりの課題だと、このような評価をイメージいただけると思います。

課題:自分が来店する出勤前の時間に、好きなおにぎりがいつも売り切れていてしかたなく残ったおにぎりを買っている
 ↓
解決された状態:出勤前の時間に、好きなおにぎりを選べる状態
--------------------------------------------
お客さまから見た不満度の大きさ
 👎👎👎
技術的制約           ⭐
リピート率向上への影響度    👍👍
--------------------------------------------

4. 個別評価カリブレーション

ワークショップの2回目としてCS担当者やPMなどのプロジェクトメンバーを全員集め、この時間では一次評価のカリブレーションを行いました。前ステップで定義した3つの軸を見ながら、「課題」および「解決された状態」について異なる観点や追加の意見を出してもらい、言葉づかいや評価を調整しました。
初回のワークショップで洗い出した課題が、どんな状態になっていると良いと言えるのか、共通の評価基準を通して、プロフェッショナル領域の異なる様々なバックグラウンドを持つメンバー間で合意することができました。

おにぎり課題でいえば、コンビニ利用者の不満度とわたしたちの目標であるリピート率向上に親和性が高く、かつ技術的にも実現可能性が高い、という評価を全員で確認できた状態ですね。

5. 課題優先度検討用スコアリスト

個別の課題に対する評価は合意できたため、あらためてそれらをリストの状態に整理したものを準備し、3つの軸それぞれの評価点を足し上げたスコアを併記しました。
スコアが高いものを判断の基本にしつつも、プロジェクト全体のマイルストンを加味した取捨選択と対応順序の議論を行うことが出来ました。

おにぎり以外に、そばの課題もありましたね。
複数の課題を同じ書式で並べることで、どれを優先するか切り口や立場を明確にした状態で議論しやすくなっているのではないでしょうか。

以上の5ステップを、ワークショップは1時間ずつを計2回・準備時間は途中のすり合わせも含めて合計5時間程度で行いました。すべてオンラインで進めましたが、何をチャットなどの非同期コミュニケーションで行い、何をMTGで顔を合わせて行うかメリハリをつけたコラボレーションができました。

意外な効果

大人数プロジェクトでいかに課題評価と取捨選択を進めるか、という観点の取り組みでしたが、後日行ったチーム内の振り返りで出てきた意外な効果についても触れたいと思います。

カスタマージャーニーマップというツールで出来ることの幅がひろがった

「『具体的(かつ明確)な要件定義』に使えるんだ!ということが良い発見でした。」

たしかに...!
カスタマージャーニーマップというツール自体は市民権を得て長いと思いますが、それだけに、具体的にどのように活用するかはプロジェクト内に閉じてしまったり、あまりに事例が多すぎてこれという共通理解が意外とつくられていないのかもしれません。
一連の流れでお客さまの体験を可視化するだけではなく、そこから具体的な施策や要件定義につないでいくところにカスタマージャーニーマップの真の価値発揮がある、と言っても良いと思います。

課題抽出からソリューションアイデアの「間」が可視化された

「私はデザイナーなので、手を動かしながら課題の整理とアイディエーション・検証を一緒に進めることが多いのですが、今回のプロセスでは『課題の言語化』『ステークホルダー間の合意形成』に特化していたので、途中はじりじり焦らされている感じがしましたw」

これも深いリフレクションです。
個人的に、脳内で言語化されない領域を敢えて頭の外に出して他者と共有することの重要さをとても感じています。UXリサーチャーがレポーティング時点で言及する結論がどこからやってきたのか、同様にデザイナーが魔法のようにデザインを完成させてくるその手前では何が起こっているのか、と感じたことはないでしょうか?

少し横道に逸れますが、わたしたちの細胞はレセプターという相手の情報を受け取る手のような器官を持っていて、実は相手につたえるために発している情報を同時に自分も自分の手を延ばして受け取っているのだそうです。
頭の外に出す、つまり言語化してみる、というのもこれと同じだと思います。
何より自分自身で、思いついた解決策がどのように課題と結びついているか整理しながら考えを進めることができますし、意義が大きいのはそのプロセスを他者と共有できることです。

一足飛びに具体的なソリューションアイデアに進まず、「解決された状態」に一度翻訳することで、このあとにHow Might Weなどを使ってその実現可能性の方向や切り口を検討するステップ、そこから具体仕様に落とし込んでいくステップ、と続けるうちに、仮に「あれっ、何かちがうかもしれない!」となっても前のステップに戻りやすいことも大きなポイントだと思います。
外化された同じものを見て、互いの解釈を重ね合わせながらプロセスを進めていくことによって組織の意思決定がつよくなっていくのではないでしょうか。

ツールの可能性の拡がり、プロセスの可視化という観点で、自分たち自身の学びも多い機会になりました。

まとめ

メルカリのUX Designチームで最近取り組んだ課題評価の事例をご紹介しました。
各ステップのポイントはご覧のとおりです。

  1. 気づきの洗い出しワークショップ
    粒度や精度を気にしすぎず、まずは気づきを出し切ること

  2. 気づきの「加工」による評価の下準備
    書式を揃えることで気づきを課題の状態にすること

  3. 評価軸の選定と一次評価
    評価の観点を明確に定義すること

  4. 個別評価カリブレーション
    一連のつながりを全員が確認すること

  5. 課題優先度検討用スコアリスト
    あとから見てもわかる一覧性を確保すること

チームコラボレーションにおいてできる工夫は様々あると思いますので、今後も情報収集したり意見交換しながら模索していきたいと思っています。
よいアイデアやサンプルケースがあれば、ぜひ教えてください!