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Distinctionを取る!イギリスの大学院で評価される学術的文章の書き方

はじめに

今回の投稿ではイギリスの大学院の人文社会系のコースでDistinction(最優秀評価)ないしはBrilliant Distinction (ジャーナル掲載可能レベルの最優秀評価) を取る方法について書きました。海外修士の学術的文章の書き方について日本語で解説している情報源がそもそも少なく、あったとしても有料のものや誰が書いたか出典が怪しいもの、「アカデミックライティングを習得しろ」と具体的に何をすればいいのか教えてくれない不親切なものが多かったためです。殺伐とした感情を抱きながら課題に取り組んでいた際、あれこれ工夫して結果に結びついたことを段階ごとに分けて書き分けてみました。何か参考になりましたら幸いです。また、下記の内容を踏まえて、質問やご相談などございましたら X (旧Twitter)ないしはInstagramまでご連絡ください。私自身の研究内容や業績に関してはLinkedinこちらをご参照ください。


1. 授業課題用の文献レビューのやり方

授業課題+α

・毎回の授業では課題文献に加えて、参考文献のリストが毎回の授業で配布されます。わたしは課題文献に加えて、課された文献と同じ数だけ追加で選んで参考文献を読むことをマイルールにしていました。
(例)課題文献が5つなら参考文献からも5つ読む

・日頃からコツコツ読書量を増やすことによって得られる効用は段違いです。締め切り前に一気に読書量を増やすのではなく、日常的に理論と実証に実直に向き合い、より多角的な視点を比較検討する習慣をつけることで思考のネットワークが広がり、「面白い」アイディアが生まれやすくなります。多分、筋トレとか運動とかと一緒の原理。多分。

・さらに、読んだ内容が定着するようにインデックスカードを使って内容を要約するようにしていました。【速読→精読→要約】の過程を踏むことによって効率的に読書の量と質を上げることを意識しました。今後引用で使えそうだなと思った箇所は色分けして目立つように書くなどの工夫もしました。

要約カードはこんな感じ

・基本的には、大好きな記号論学者 Umberto Eco の "How to Write a Thesis"のやり方に倣っています。LSEでもオススメの図書として紹介されていました。より詳しく知りたい方は是非お手にお取りください

・また、ここで紹介しているのはコースワークの定着を測る授業課題用の文献レビュー方法なので、修士論文など自分のリサーチクエスチョンに取り組むために行う文献レビューのやり方とは異なります。ご注意ください。

2. 課題論文の構成を考える (基礎)

基本構成

大抵の場合、学術的文章は【序論+本論(テーマごとに分ける)+結論】という構成で書きます。それぞれどのような内容が求められるか細かく見ていきましょう。

序論 (全体の文字数の10%まで)

問題提起と全体の論文の構成を紹介することが序論の主な役割です。

・問題提起は、文献レビュー中に明らかになった調査研究の穴や生じた疑問について書けると良いです。何よりも肝心なことは読み手(先生)をワクワクさせることです。読んでいる相手の興味をフックできるような問題の提示ができるといいでしょう。また、先生のオフィスアワーに足繁く通い、書きたいと考えている問題関心について日頃から議論することで自ら抱いている問題意識が既存の学術的文脈に即したものか、既に解消されているものなのかヒントが得られます。

・論文全体の構成を示すことで、問題提起をどのような過程を経て解消しようとしているか、端的に読者に伝えられます。「一貫性を持って筋道立てて論述できているか」も審査の評価基準に入るので、冒頭から論述の過程を明示することが重要です。

・ちなみに、序論は本論と結論が終わった最後に書くことをオススメします。本論で書いた内容が整理された段階ではじめて、より研ぎ澄まされた問題提起と明確な論点の紹介ができるようになります。

本論(テーマごと)

・本論の主な役割は理論に基づいた議論や実証的な分析とその検討です。

・期末レポートが 3,000 words 以上ともなると本論の段落数も多くなります。テーマごとに節を分けることで、論文が格段に読みやすくなります。さらに、導入部分で示した論述過程に呼応した題名を各節ごとにつけることで何がどこに書かれているか、読み手に丁寧に教えることができます。これも「一貫した議論を行なっている」ことの評価に繋がります。

本論も道筋を立てて構成することで、より説得力のあるものにすることができます。例えば理論的実証を行うのであれば、【①実証が必要な対象の紹介→②実証を行う重要性の証明→③分析に用いる理論的枠組み・方法論の紹介→④理論・方法論の実証における適切性の証明→⑤個別具体的な分析→⑥各々の分析と理論を照らし合わせた議論】といった流れでテーマを分けることができるでしょう。

結論 (全体の文字数の10%まで)

・結論部分では、本論の要約と限界、そして今後の研究の展望について簡潔に書き上げます。MeritとDistinction のボーダーに乗った論文があった際、「今後の研究の展望」が書かれているか否かで評価を最終決定すると話していた先生もいらっしゃいました。ひとつの論文で完結する研究など存在しないので、論文が論じられることの限界性と、その限界を乗り越えるための方策が自省的に書かれている論文が評価されるとのことです。

3. 評価される本文の書き方 (基礎と応用)

評価基準に基づいて書く (基礎)

・多くの授業では授業の最初に評価基準が提示されます。課題論文に取り込む前に評価基準を読み込み、それに応じた内容で書くことが重要です。

問いがある場合は問いに忠実に (基礎)

・授業によっては課題の問いが設定されている場合があります。書いた論文が問いに対して端的な答えを示せているかその都度確認することが評価に繋がります。いろいろ考えているうちに話が脱線することもあるので慎重に確認すると安心です。

ワクワクする文章を書く (応用)

・自分がワクワクしながら書いた内容は相手にもその気持ちが伝わります。社会に新しい問題や世の中の切り取り方を提起する人文社会系だからこそ、「この考え方、面白い!魅力的!」と思ってもらえることが重要で、そういった文章は評価されます。Foucault の書く文章は、研究に没入しているからか、所々過去形で書くべきところを現在形で書いているほど情熱的で、読んでる方まで心が熱くなる。AnzalduaやHaraway、Lordeなどのフェミニスト研究者の書く文章は詩的で魂を揺さぶられる。そもそも関心のある内容の論文書いている時、自ずと文献調査にも表現にも熱が入るので、自分の心の機微を大事に、執筆過程を楽しむことが評価に繋がります。

「独自性」という名の構築物 (応用)

・序論で問題提起をする際、その考えの新規性を示すと「論文の独自性」が評価されやすくなります。「修士のペーペーに独自性なんてあるものか」と文句を垂れながら当初課題をこなしておりました。しかし、最終的に気づいたことは「独自性」は降って湧いてくるものではなく、自分で構築するものだということです。文献を比較検討し、これまで論じられてこなかったが重要な視点を炙り出し、名前を付け、論じることで自分の書いた文章のオリジナリティを作り上げることができます。

クリティカルな分析、ってなに? (応用)

・「クリティカルな論文を書くことが高評価のコツ」と耳にタコができるほど言われましたが、その度、「クリティカルに書くって結局どういうことなの?説明してよ!」なんてずっと内心モヤモヤしていました。

・1年経ってみて、私の暫定的な答えは「自分で定義した独自の視点を起点に、多様な文献やデータを網羅的に比較検討し、時にはこれまでの研究に対して挑戦的な批判も厭わず、首尾一貫とした主張をすること」です。換言するならば、オリジナルな視点から論理的な主張を積み重ね、研究の最先端を自分で切り開くような文章こそが「クリティカルな論文」に値すると考えております。

・まとめると、「独自性」x「論理性」x「批判性」のかけ算を意識して書くことで「クリティカルな論文」という評価項目も満たせるはずです。

4. 校正作業 (応用)

論文は校正作業が命です。ざっと書き上げて、そこからロジックを補足するために文献を読み込み、また本文を編集することで主張の一貫性がより洗練されていきます。私は修士論文に関しては、第1稿を1週間弱で書き上げ、その後、1ヶ月半かけて計85回書き直しました。その他の課題論文も2-3日でドラフトを仕上げ、10日ほどかけて校正作業に取り組みました。以下は校正の際に気をつけるポイントです。

文章や段落同士の論理的なつながりを意識

・主張の一貫性を担保するために文章や段落同士の論理的な繋がりが明確であることが重要です。

・そして、ロジックの確認はひとりではなく、指導教員や同期と行うとより効果的です。自分の主張が説得力を持つものかどうか、ずっと同じテーマに取り組んでいるうちにどんどん分からなくなってくるためです。自分が当然視している前提知識が、実はニッチな知識だったなんてことが往々にあります。そのため、さまざまな場面で自分のアイディアを議論し、他者の目に自分の主張がどう映るか事前に知っておくことで、その後どのように構成や説明を改善できるかヒントを得ることができます。私は修論執筆当時、先生のオフィスアワーを活用したり、友達とお互いのアイディアを壁打ちしたり、マッチングアプリで全く知らない人と会って自分の研究について説明してみたり、学内学会(LSE)に参加したり、手探りで「自分の主張をどのように説明するのが最も効果的か」検討しました。

文法や言葉遣い

・言葉遣いや文法を丁寧に見直すことで、より正確に真意が伝わりやすい文章になると思います。最近は学習補助ツールも多く、ほとんどの学校が使用を許可しているので、認められている場合は積極的に活用してみてください。

引用と参考文献リスト

・引用や参考文献リストに誤りがあると減点対象になります。確認作業を怠らずに!ちなみに、EndNoteMendeleyZoteroなどの引用補助ツールも充実しています。LSEの図書館ではこれらのツールの実践的なワークショップも開催しているので、是非ご活用ください。

おわりに

LSEで課題に取り組んでいた際に気を付けていたこと、考えていたことをまとめてみました。また新しいポイントを思いついたり、今は記憶の外縁にある考えを思い出したりしたらまた適宜、編集しに戻ってきます。

コメントや質問などありましたら適宜、お気軽にお問い合わせください。

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