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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ④



「The Truth Is No Words」










「てめえ!!!」







「なんでお客さんを
大切にできねえんだ!!」






7坪の小さな店に響き渡る大きな怒号。




怒鳴っているのは、僕だ。



想いが伝わらないもどかしさの中でもがき、今にも暗闇の底へ沈んでいくところだった。



怒鳴ったところで、相手はより強固に心を閉ざすこともわかっていた。




それでも、もう飲み込めないほどのやり場のない感情はコントロールを失っていた。





ただ暗く、冷たい



何もない闇に



僕は飲み込まれようとしていた…









2005年


6月



鎌倉麺や ひなどり


ランチ営業





「ありがとうございましたー!」




Kの明るく元気な、乾いた挨拶が響く。



あの「違和感」の正体と対峙して数日が経った。




あれからKには改めて想いを伝える努力をしたが、やはり糠に釘の様だった。



相変わらずKの表情、言葉に「心」は乗らず、
一見すると爽やかで柔らかい物腰に不気味さすら感じるようになってしまった。



そうなると、Kの「良いところ」全てが虚飾的に見えてしまい嫌悪の念すら抱いてしまう。



僕は想いを伝える手段を見つけられないまま、日々を悶々と過ごしていた。




そんなある日…









某日


鎌倉麺や ひなどり



ランチ営業終了間際…




カチリ




客席の時計はそろそろランチ終了時間の15時を刺そうとしていた。




今日も沢山のお客さんで賑わったが、この時間になるとほとんどのお客さんは引いてしまっていた。





「さて、もう15時か。K!《むらさき》頼む!」




僕はホールにいたKにクローズの指示をした。




《むらさき》というのは僕とTっさんで考えたクローズの隠語だ。




滞店しているお客さんに気を遣わせたくなくて考えた隠語だが、何がどうなって《むらさき》になったのかは忘れてしまった。



覚えてるのは《クローズ》からいくつかの連想を経て、最後に《江戸紫》になって、最終的に《むらさき》になったのだ。




さて、僕の指示に従いKは《むらさき》の準備にかかろうとした。





その時…




ガラスドアの向こうに、一人のお客さんが来たのが見えた。





Kも気づいた様で、外に出て対応した。





しばらく見守っていると、お客さんは踵を返して帰っていってしまった。




「あれ?」



そのまま看板を【仕込み中】に替えて戻ってきたKに僕は



「え?今のお客さんどうしたの?」






何で帰ってしまったのかを尋ねた。





するとKはいつもの厚みのない笑顔で




「ランチ営業は15時までですと伝えてお断りました♪」




しれっと僕に向かって言った。




「いやいや、確かに時間もギリギリだけど、せっかく来てくれたんだよ?」




僕は食い下がった。



「でも時間ですから♪」




Kは相変わらずニコニコしながら言った。





「いやいや、待て待て、わざわざうちを目指して来てくれたお客さんを、わざわざ追い返したのかよ?」



僕は苛立ちを抑えられず、語気を強めて聞いた。



「でも、時間ですから」




Kの顔から不気味な笑顔が消えた。



「時間、時間って、俺にどうするか聞くこともできたろう?何でお前の独断でお客さんを断ってんだよ」



ダメだ。もう止まらない。




「《むらさき》って言ったのは店長じゃないですか」



Kは不満を顔一面に染めて反論してきた。





「だから!時間ギリギリにお客さんが来てくれたんだろう?いつも言ってるだろ!お客さんは1日3食の食事のうち、一食のためにうちの店を選んで来てくれてるんだ!それが理解できていれば、そんな判断にならないだろう!」




今まで抑えていたものが、言葉の濁流となって唇から溢れ出てくる。




Kは益々不満の色を深めて僕に言い放った。





「だから!あいつらはまた来ますって!たった一人の客に何ムキになってるんですか!」







ブチブチブチ!





この言葉を聞いて、とうとう僕の堪忍袋の緒が弾けた。








「てめえ!!!」





「もう一度言ってみろ!!!!」




「なんでお客さんを
大切にできねえんだ!!」







激昂する僕を、Kは能面のような表情のまま黙って見ていた。





僕は間違ったことは言っていない。




そう固く信じた。




Tっさんと共に、一人一人のお客さんと向き合って来たからこその「今」なのだ。




それだけは絶対に譲れなかった。




Kが何を考えいるかは、もはや理解不能だった。








「もう一緒にやるのは無理かもな…」







得体の知れない相手と対峙しながら、そんな考えが頭をよぎった。







僕の心に再び重い雲が広がり始めていた。







…to be continued➡︎

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