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【感想】NHK-BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「マリアナ・マッツカート~国家は“最初の投資家”であれ」

世界の知性が語る「コロナ後の未来」第三回はマリアナ・マッツカート。「企業家としての国家」などの著作で脚光を浴びる経済学者だ。経済学には、疎い(興味がない)こともあり、なかなか理解を進めるのが難しい回だったが、今の世の中の流れを感じ取ることができた。

再び世界は、民営化から国有化に進んでいこうとしている。そして、それを肯定的に語る人を見たのは初めてだった。多様な意見があることを知るのは良いことだ。インタビュー最中に、鎌倉千秋氏が何度か良い質問(まさに、視聴者が聴きたいと思える質問)をしており、知性を感じた。

理解できたところだけ、簡潔にメモしておこう。

企業家としての国家

マッツカートの専門は「イノベーション」だ。社会に変化を与える力を生み出すのは、民間のベンチャーではなく、政府だ。これが彼女の主張の大筋だ。しかし、それが正当に評価されていない現状がある。

例として取り上げているのは、シリコンバレーだ。「シリコンバレー発で、様々なベンチャーが革新的な技術を作り出してきた」と多くの人は考えているという。アップルのジョブズなどの成功談は伝説として語られることが多い。
その一方で、シリコンバレーから多くのイノベーションが生まれたのは、政府が革新的な技術に投資し続けていたからだというのは知られていない。iphoneのGPSはアメリカ海軍、SIRIはDARPA(国防高等研究計画局 )、タッチスクリーンはCIAの技術だ。そもそも、インターネットの技術さえDARPAが開発したものだ。

アメリカが月に人類を降り立たせたアポロ計画。アポロ計画という方向性を定め、そこに莫大な公的資金を投入することで、周辺産業のベンチャーが一気に成長した。あくまでも、イノベーションの主導は国家だったのだ。

失敗ではなく成功を語れ

しかし、多くの人にとっては、イノベーションは民間が起こすものだと感じられるはずだ。政府は動きが遅く、官僚的で愚策ばかり、そう見えるのはなぜか。マッツカートはプラトンの言葉を引用し「ストーリーの語り手が世界を支配する」という。世では民間の経営者の成功ストーリーが語られるが、その一方で政府の成功ストーリーが語られることはない。

企業家はイノベーションを起こすために、様々な投資を行い続ける。その投資の中にはうまく行くものもあれば、うまく行かないものもある。まあ、それが投資というものだ。しかし、政府が行う投資に関して、失敗が見られると、群衆は寛容ではない。
マッツカートは失敗を責め立てるのではなく、成功した投資についてもっと語るべきだと主張する。失敗を責められ続ける政府は、いっそう保守的になり、積極的な投資を避けるようになり、結果としてイノベーションは起こらなくなるからだ。

もちろん、これはいたずらな国家擁護論ではない。現在の多くの政府は、本来の仕事(イノベーションを起こす投資)をしていないと批判もしている。

国家は企業に口出しすべき

政府はもっと民間企業に口出しすべきだという。コロナ危機の時代においては、企業の存続のために、多くの公的資金の投入・補助がなされている。この機会を活用して、政府と企業のパワーバランスを変えるようにとマッツカートは言う。例えばフランスのマクロン首相は航空機のエールフランス、自動車メーカーのルノーを公的資金で援助しているが、同時に「CO2削減」を条件として掲げている。

公的資金を投入する条件を政府がしっかり定めて方向性を見せることは大切なことだ。直近の問題で言えば、ワクチンだ。多くの製薬会社がワクチンを作るのに、政府から莫大な公的資金を受けている。しかし、一度ワクチンが開発されてしまうと、それを独占しようという動きがみられる。開発段階で公的援助を受けているのに、いざ出来上がると利益追求のスタイルが許されるのはなぜか。もっと、公共の利益を拡大させるために、国が口出しすべきなのだ。

国連が定めたSDGs(17項目)という目標に沿って、国家がイノベーションを主導すると良いという。

1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロに
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も
9.産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任、つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう

https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

理想論としては、言いたいことは、分かる。ただ・・・ちょっとモヤモヤしたものがあった。

インタビュアーの鎌倉千秋氏は「疑問として、もし国家がもっと口出しすればよいということであれば、絶対的な権威を持っている中国政府のようなスタイルが素晴らしいということにならないか」というような質問をしていた。視聴者がモヤモヤしていることに切り込んでくれる姿勢が素晴らしい。マッツカートの返答は「バランスが必要だ」というもので、あまり釈然とはしなかった。

中国のような国家が強権を持ち、企業を主導していく世界に未来はあるのか?その辺は釈然としない。(参考:【NHK】「巨龍・中国が変えゆく世界“ポストコロナ”を迎える市民は」

まとめ

経済学の何たるかを知らない私にとっては、語られる内容がどれも難しく、なかなか腹に落ちない面があった。しかし、こういう理論があるのだということを知る機会があったのは貴重だった。いたずらに政府の政策を批判するだけではなく、イノベーションの担い手として国家を信頼し応援する姿勢も求められているということなのだろう。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq