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戦後の日本復興を創った男の外交力【NHK】負けて、勝つ、吉田茂

お恥ずかしながら、戦後の日本史は全く無知だった。元はと言えば、ふとしたことから知った「白洲次郎」がきっかけだったのだけど。(参考:プリシンプルを追い求めた男の群像【NHK】ドラマスペシャル「白洲次郎」

吉田茂といえば「バカヤロー」解散しか知らなかった。戦後の日本が、マッカサー、吉田茂、白洲次郎などの関わりにより作られていく様は実にリアルなドラマだ。彼らの決断や行動は、今の日本に直接つながっている。

戦後復興をテーマにしたドラマを何作か見て一気に近代史に興味を持った。現代政治家も、この時期の二代目、三代目ばかりだ。麻生太郎氏って、吉田茂の孫なんだもんな~。それも知らなかった。今の政治を知るうえでも、戦後の政治史は知っておくべきだと感じた。

私の中では、渡辺謙演じる吉田茂は「ごつすぎる」けれど、まさに名演だった。だんだん、引き込まれていき、講和条約に至る交渉に至っては興奮するほどだった。作り話ではないから、一方的なヒーローもいないし、スカッとするような解決策もないけれど、外交ってのはどういうものかをよく知ることができた。

戦争には負けても、外交で勝つ

吉田茂は「戦争には負けても外交で勝った国はいくらでもある」と言った言葉は有名だ。ぼんやりと、この言葉は知っていたので、おそらくGHQとの交渉でゴリゴリと外交を成功させた人なのかなと想像していた。でも、実際には、日本は敗戦国、マッカサーの言うところの「四等国」なのだ。全く対等な交渉などできるものではない。

日本国憲法の草案さえ、GHQに押し付けられたもので、ほとんど日本側の思惑が入る余地はなかった。GHQとの交渉の始まりにおいては、完全に言うなりに見えたかもしれない。しかし、この時、吉田茂は「天皇の命を守ること」(戦犯として追及されないこと)だけを徹底して守り抜いていたのだ。

そんな中、吉田茂は、変化する局面ごとに、押されながらも「絶対守りたいものを守り抜く」交渉に入っていく。交渉というのは「9とらせて、1を守る」というものなのだ。

講和条約に至る外交

やがて講和条約が結ばれるときになると、吉田茂は、またも厳しい外交に臨むことになる。米国は日本をアジアに台頭してきた共産主義国からの防波堤として使いたいと思っていた。折悪く朝鮮戦争がはじまり、再軍備の要求には、日本軍をコマとして使おうというアメリカ側の思惑も見え隠れする。

この時、アメリカの特使ダレスは30万の軍隊を創設することを考えていたという。再軍備を求めるアメリカと、再軍備だけはしないと決めている日本(吉田茂)の間での、緊張した外交が続く。すわ、交渉決裂かと見えた最後の一手で、吉田茂は5万人規模の警察予備隊(自衛隊の原型)を作ること、アメリカ軍の日本への駐留を提案して、それをきっかけに、講和条約がまとまることになる。

この展開だけを見ていると、結局、アメリカの言うなりに、何でも飲まされただけに思えたけれど、下記のドキュメンタリーを見て、歴史学者たちの意見を知って、この吉田茂の決断の意味が分かった。

もし、仮にアメリカの言いなりになり、1950年前後の時点(朝鮮戦争の最中)に30万人規模の軍隊を作っていたら、どうなっただろうか。間違いなくアメリカは日本軍を使って朝鮮戦争を戦っただろう。あっという間に、日本が戦争に引き込まれていく結果になったはずだ。

当時の日本では再軍備の機運も高まっており、アメリカの提案通りに再軍備したとしても、国民の支持は受けられたようだ。しかし、頑として吉田茂は動かなかったのだ。この決断により、日本は朝鮮戦争での出兵を免れることができ、また経済復興への打撃を受けることなく、順調に戦後の復興を成し遂げていく。

吉田茂が、どれほど日本の未来を見通していたかは分からないけれども、再軍備に関してアメリカの言いなりにならず、ギリギリの線で落とし込んだ外交手腕は見事であった。
この吉田茂の考えは当時の人には理解できなかったかもしれない。劇中で吉田茂は、息子の健一に「売国奴!」と罵られる。家族のように近しい人にとっても、吉田茂の判断の意味するところは分からなかったのだ。

プライドよりも大切なもの

吉田茂は、GHQとの交渉が始まった早い段階から、「日本人の誇りを捨てるのか!」という内輪からの攻撃に合う。まさに、外からも内からも圧迫され続けるのだ。全編を通して、日本人ってのはプライドが高いんだなぁと感じた。侍の子孫だ。辱められるよりは死を選ぶ、そういう国民性だ。しかし、そのような気持ちが、大勢の若者たちを無駄死にさせたことを忘れるわけにはいかない。

感動的だったのは、吉田栄作演じる服部卓四郎(元軍人)が、吉田茂に「売国奴!」とつめよるシーンだ。吉田茂は、一歩も引かず、貴重な命を無駄にさせた旧軍部がよほど売国奴だ!と一喝する。服部は、ガダルカナル島で2万人以上を戦死させた責任を負う人物なのだ。顔を紅潮させながら涙を浮かべて、怒鳴り散らす吉田茂の迫力に、服部も言葉を返せず退散することになる。

飄々とユーモアを交えつつ、とらえどころがない雰囲気で、外にも内にも外交手腕を発揮した吉田茂。内面には、これほど熱きものがあったのかと感じられる一幕であった。本当に得たいもの、譲れないものがある人は、自分のプライドをあっさり捨てることができる。人にどう見られるかなんて、大きなことではないのだ。

テレビ東京が作った、まさかの鶴瓶を吉田茂に据えた意欲作。実は、こちらも、良い評判だ。最後の講和条約のシーンでは、鶴瓶も号泣したとのこと。白洲次郎役の生田斗真も涙としたという。講和条約にたどり着くまでの、出来事は、戦後日本史の中でも極めてダイナミックな時代だった。

これも見てみたいね。

(追記)もともとは、白洲次郎に関心が合ってみたドラマだった。白洲次郎を主役にした近年のドラマでは、伊勢谷友介の男気ある演技が光っていた。まさに「プリンシプル」「カントリー・ジェントルマン」という言葉を彷彿とさせる白洲次郎像だった。

それと比べると、谷原章介演じる白洲次郎は、少し線が弱いなと思ってみていたんだけど、清濁併せ呑む雰囲気や、ダーティーな感じは、こちらのほうがよほどよく出ていた感がある。最後は権力にしがみつきがちになる吉田茂と対照的に、白洲次郎は、あっさり表舞台から姿を消すが、なかなか、これも格好いい。白洲次郎は生前に、書類をすべて燃やしてしまったので、彼に残る歴史資料から、この時代に迫るアプローチは不可能だ。それもまた、潔い。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq