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【感想】ETV特集「パンデミックが変える世界~ブラック・ライブズ・マターの衝撃~」

コロナ問題は、社会の様々な問題を明らかにした。その一つが、黒人差別だ。日本に住む私には、コロナによるパンデミックのさなか、死者がどんどん増える中でデモに繰り出すアメリカ人の神経が信じられなかった。しかし、この番組を見て、パンデミック下だからこそ、行われていたものだったことを知った。これまでにない、うねりが世界に生じている。

ブラック・ライブズ・マター(アフリカ系アメリカ人に対する警察の暴力に抵抗する市民運動)の指導者の一人であるオパール・トメティ氏のインタビューだ。とてもキラキラした人だった。

未だに残る黒人差別の構造

トメティさんが、ブラック・ライブズ・マターの運動を始めたのは、7年前だった。無抵抗の黒人少年が白人警察官に射殺された。しかし、警察官は正当防衛と判断され無罪になったのだ。

2013年~2019年までの間に、警察に殺害された黒人は1945人。しかし、警察官が無罪になる確率は99%だという。
この出来事を機に、黒人の権利を擁護するための組織的な活動が始まる。もっとも、最初はSNSにハッシュタグをつけて投稿しただけだったようだが、いつの間にかオンラインがオフラインとつながった。

アメリカにおける黒人は人口の13%だ。しかし、コロナでの感染者・死亡者の20~25%は黒人なのだ。つまり、それは黒人が貧困層であり、十分な医療を受けられず、コロナを避けることができない劣悪な環境で働いていることを意味する。コロナは根深いアメリカの黒人差別の構造を露呈させたのだ。

このような状況の中で、2020年5月に黒人のジョージ・フロイド氏が警察官に圧迫死させられる映像が世界中をかけめぐった。アメリカ全土で、人々は「ブラック・ライブズ・マター」と叫びながら通りを練り歩いた。今回の場合、黒人だけではなく、白人の参加者も多かったこと。人類史上最大の運動であると言われている。

利他主義による連携

フランスの経済学者であるジャック・アタリ氏は、これを「利他主義」による連携が起きつつある世界的な動きだと分析する。
利他主義というのは、他の人の幸せが、結局は自分の幸せにもつながることを理解した人たちによる行動だ。例えば、マスク着用もそうだ。人にうつさなければ、自分も感染リスクが減る。アメリカの人々はレイシズム(差別)を超えて、利他主義のメリットに気づきはじめたのではないか。

先日、視聴したナオミ・クラインのインタビューの中でも、同様のことが指摘されていた。(参考:【感想】NHK-BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「ナオミ・クライン~新たな“ショックドクトリン”を警戒せよ」)。人々は「つながり」に目を向け始めている。

結局、今、自分が吸っている空気は「共有」されているものなのだ。一人の行動は、他の人に影響を与える。今、届いた商品にはウイルスが付着しているかもしれない。つまりそれは、無数の人の手を介して、今ここにあるということなのだ。私たちは、一人で生きているわけではない。世界は、勝者と敗者のゼロサムゲームでは成立しえない。

黒人差別に反対する人々は、コロナ禍の中で外に集まって・繰り出し、自分の命を危険にさらしながらも、ブラック・ライブズ・マターと叫び続けた。本当に、ブラック・ライブズ・マターが利他主義による連携なのであれば、コロナ危機を乗り越えた時に、人類は新たな関係性を構築できる未来を手に入れるだろうか。

まとめ

率直な感想。利他主義による連携であれば、それは素晴らしいことだが、レイシズム(差別)は簡単にはなくならないだろう。ナチスはかつて「人は違いを認められない生き物だ」と看破し、その知識を使って、普通の人々を狂信的なレイシストへと導いていった。真のダイバーシティ(多様性の尊重)には、一人一人の心の中からの変化が必要だからだ。

自分に直接影響を及ぼさない問題に対して「かわいそう」と声をあげる人は多いけれど、いざ自分の利益が損なわれるような場面でも、自分の財産・命と引き換えにでも、違いを持つ人の利益を優先するのか。そこまでの利他主義が世界を席巻したとは思えない。

まあ、それは、これからの時代が教えてくれることだろう。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq