アスリートの歯の健康：パフォーマンス向上の鍵？

笠原彰　とちぎスポーツ医科学センター協力心理相談員　プロメンタルコーチ　作新学院大学教授

2023年9月8日 13:17

オリンピック選手たちも歯の健康に悩みを抱えることがあるという事実には驚かれるかもしれませんが、真実です。国際歯科連盟（FDI）は、2012年ロンドンオリンピックのアスリート399人を対象にした調査で、55%の選手が虫歯を持ち、76%が歯周病を抱えているとの結果を報告しています。さらに、その中の18%は歯の問題がトレーニングや競技パフォーマンスに影響を及ぼしていることが判明しました。

2018年の別の研究では、リオデジャネイロオリンピックのアスリートとプロアスリートを対象に、虫歯の保有率を調査。結果として、49.1%の選手が虫歯を持っており、特にチームスポーツの選手は、個人競技の選手よりも2.4倍の確率で虫歯を持っていました。集団での生活や合宿が原因で、定期的な歯科の診察や正しい歯磨きの習慣が取り入れにくく、これが虫歯率の差につながる可能性が指摘されています。

過酷な運動は、体の抵抗力を下げることが知られています。コペンハーゲンの研究では、マラソンランナーが風邪やインフルエンザなどの感染症に罹りやすくなることが報告されています。この事実は、歯周病のリスクも増大させる可能性があることを示唆しています。

実際、スポーツを行うことで歯にダメージが生じやすい状態が生まれます。運動時のスポーツドリンクの摂取、過度な糖分の摂取、交感神経の興奮による唾液の分泌の減少、口呼吸による口の乾燥、そして歯を強く噛むことによる歯の負担など、これらの要因が虫歯や歯周病のリスクを増大させます。

これらの問題が継続的に発生すると、歯の痛みや歯周病による不調が運動のパフォーマンスに影響を及ぼし、トップアスリートであっても最高の結果を出すことが難しくなる可能性があります。

人々は、トップアスリートとしての地位を確立するために、その他の健康上の問題を軽視しがちです。一方で、体のパフォーマンスと健康を最適に保つことは、競技の成功に不可欠です。アスリートが口腔の健康を軽視する背景には、即時の競技成果を優先するプレッシャーや、歯の問題が競技成果に与える影響の認識不足があるかもしれません。これは、予防と教育の重要性を強調することで改善可能です。スポーツ心理学の観点から見れば、全体的な健康状態が良好であることが、競技の成果を最大化するための鍵となります。

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