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補習終わりの2時過ぎ、半分のパピコと左隣りの君

相変わらずテンポが良い

事の発端は、幼なじみの彼が英検準1級に合格したことだった。
おめでとうLINEを送り、特に深い意味もなくアイスを奢ろう、と思い立った。

そして、今日の14時過ぎには肩を並べていつもの分岐点であるコンビニに向かっていた。


学校からコンビニに向かう途中、最近思っていることを抵抗なく彼に投げる。


 ねー、人生相談していい?

 うぇ重いの無理。
 …ん、まぁ「相談」じゃなくて「質問」やったら受けてあげましょう。そのかわり背景は全く話さんでよ

 質問ね、おっけーおっけー

自転車をつく片手を離して、何となくぶらぶらさせる。

 あのさ、男性が女性にcuteって言うのって、あれ何を考えながら言ってるん?

 …ん?その人って日本語話者?

 や、日本語でも英語話者でもなく、インドネシア人

 あーねなるほど。てか俺インドネシア人じゃないからよく分からんけど

お互いの母語じゃない言語で話すのって、ある程度概念がずれることがあって、今回はざっくり2パターン考えられるよね
ひとつは、普通に〇〇のことを可愛いと思っている。これは日本人でも「あなた可愛いね」って言ったりするやん
で、もうひとつは、英語話者の概念寄りでめっちゃフランクな褒め言葉か。特に恋愛感情に拘らず、息子がお母さんに対してI love youって言ったりするノリかな
あぁでも年齢も考慮して、同い年くらいやったら前者の説が濃厚やな。割と年下か年上やったら後者な気がする、感覚的に。


心理や言語についての考え方がめちゃくちゃ彼らしい回答に、どこか安心感をおぼえた。


 …前者やったら嫌やなぁ。めっちゃ最低やけど

 うん。…一応聞くけど、なんで?

大きくひとつ、深呼吸。
今まで言ってこなかったことを、あくまでライトに彼に伝える。

えっとね、なんかね、そういう感情を貰っても「ありがとう」とはなるけど、たとえ私がその人のことを好きでも、100%その気持ちは受け取れん。し、同じ温度で返せん。
真っ直ぐ来られたら、サラッと流してしまう。
「いつも自分ばっかり一方通行やん」って怒られたことも、傷付けたことも何回かある。
これめっちゃコンプレックスなんよねー

アイスこれでいい?と振り返って聞く。
「あ、ごちになりまーす」という言葉が返ってきたのでおそらく合ってる。

レジを通って店の前に出る。

 ねー、アイス今食べんと溶けるかな?

パピコの包みを開けながら彼が聞く。

 絶対溶けるやろ笑
 てかもう開けとるし笑

帰りながら食べなと言いかけると、はい、と何かを渡される。ん?何だ急に。見れば、半分こされたパピコ。

 どしたどした
 君の英検合格祝いやし、2つ食べたらいいよ

 や、LINE送ったあとさ、よくよく考えたらパピコって2つやし、半分しよと思って

彼のご厚意に甘えて半分貰う。が、不器用すぎて開かず、結局彼に「開けてくれ」と返す。ついでに私のリュックのポケットからティッシュも取って、とお願いする。
家族にしか許したことのない距離感を、パートナーでもなんでもない彼には平気で許せてしまう。


 ねー、パピコ初心者かよ笑笑

不器用すぎてアイスで手を汚してあたふたしている私を見て、彼は楽しそうに笑っている。

 …おま、どつくぞ

 ん?アイスがもっと溢れていいならどうぞ?

意味不明に楽しそうな彼は、ふと真面目な顔になった。

 あのさ、さっきの話ね。

〇〇の言いたいことめっちゃ分かるわ。俺もなんとなく向こうから「好き!!」って来られるのとかは苦手やし。俺も初めてこんな話するな。相手からの気持ちが完全に無理ってわけではないけど、追われるよりかは追いたい派やな

1番大事なのは自分が相手とどんな関係になりたいかやし、〇〇がその人とどうありたいかよね。友達でおりたいなら、その人がはっきり恋愛感情を向けてきたときに話をするべきで、恋愛的な関係を望むとしても、ちゃんと我慢せず〇〇の気持ちは伝えとき。


彼の言葉で視界が涙で歪みかけて、慌ててアイスの味に集中する。彼の言葉に、こくり、と頷くことしかできなかった。

一瞬彼に目を見られた気がして、ぶっきらぼうにありがとうと伝えた。ん、と短く答えると、「さて、もうちょっと先まで歩こっかな。あっちの角で曲がろ」という大きな独り言が聞こえてきた。


店先の影を出て、再び肩を並べて歩く。

 いやー、久しぶりにパピコ食べたけどめっちゃ美味かった
 俺、一時期パピコしか食ってない時期とかあってさ

 え、ご飯もパピコなん…?

 ん?あぁ笑笑 違う違う笑笑
 流石にね?笑笑

 …前言撤回!何も聞いてないよね?ね?

おい、爆笑してないでなんか言え。

他愛のない話をして、くるくる話題が変わって、ずっと笑いながら交差点まで歩いた。
左隣りには、パピコを食べてご機嫌な彼がけらけらと楽しそうに笑っている。


本当に、びっくりするくらいお互いの間に恋愛感情がなくて、彼と帰ることが純粋に楽しかった。
アイスを半分くれたり、リュックからティッシュを取ってくれたり、サラッと話を聞いてくれて気持ちを前に向かせてくれたり、すぐ隣を歩いてくれたり、他の人とだったら絶対恋愛に発展するだろっていうことも、不思議と彼とは成り立たない。

こんな話を友達にすると、「ねぇ、その人って本当に友達?」と何度も確認されるが、めっちゃ友達。それ以上でもそれ以下でもなく。

そこにあるのは寂しさでももどかしさでもなく、心地良さだ。それはきっと、彼が私と純粋にひとりの「人」として関わってくれているからだろう。だから、安心して彼の「好意」を受け取れる。苦手なものとは種類が違うから。


君は今日「ありがとう」と言ったけど、本当に感謝してるのは私の方です。
泣きそうな顔を見られるのがなんか嫌で逸らしてしまったけど、あの後、君の帰り道は反対なのに一緒に歩いてくれたから、きっと君にはバレてるね。

君の優しさには全く、敵いません。





ご清覧ありがとうございました。
自販機のコンポタでした🌽

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