年末年始なにしてた?
会社の人とは何を話すのが正解か、というのは長年問われてきたテーマだろうが、今の時期に選ぶテーマなら「年末年始なにしてました?」が鉄板だ。
この意見に真っ向から反対する人も少ないだろう、と思う。
しかし困ったことに、私にはどうにもこれができない。
どうしてか。
「年末年始なにしてました?」と訊いたと想定してみよう。
よほど険悪な関係にある相手でなければ、何かしら答えてくれるだろう。
そしてその後、こう訊ねてくるはずだ。
「で、お前はどう過ごしていたのか?」
まあ、至極当然の流れである。
話題を振ったからには、自分もそれについて何か話すのが道理だ。
しかし、私はそういうとき、何も話せることがないのだ。
こういったことは、なにも年末年始明けに限らない。
ある年の夏季休暇明けのことだ。
会社に向かう道すがら、同期の女性と偶然一緒になった。
「夏休みなにしてたの?」
私はなんの気なしに訊ねた。
彼女は「大阪行ったよ」と答えた。
「へえ。大阪のどこ行ったの?」
「USJとか」
「混んでた?」
「めっちゃ混んでた」
そんな具合に世間話をしていたところ、彼女はこう言った。
「夏休みなにしてたの?」
上記の通り、彼女からこの質問が出ることは道理である。
しかし当時の私は、まさか自分が訊かれる側になるとはつゆほども思っていなかった。
その場で慌ててエピソードを探したが、休暇中にしたことと言えば、お盆の墓参りをしたことぐらいだった。
墓参りの話をしたところで何も面白くないよなあ、と思い「いやあ、なにもしなかったなあ」と答えたところ、彼女はこう言った。
「いつもさ、なにもしないね」
この言葉には伏線がある。
その年のゴールデンウィーク明けにも同様に彼女と話す機会があり、そのときも私は「なにもしなかった」と答えていた。
実際には読書や映画鑑賞をしていたので本当に「なにもしなかった」わけではないのだが、遠出をするとか同期と遊ぶとか、そういう「話題にできそうなこと」は特にしていなかったからだ。
「いつもなにもしないね」
私は彼女のその端的な評が忘れられない。
今の私は話題を出すと、自分もその話題について話さなければならなくなることを経験則から知っている。
しかし、だからといって急に話のネタが降ってくることはないのだ。
そのため私は、いつも会話の端緒を切ることができない。
この問題で厄介なのは、黙っていたところで解決しないことだ。
私発信でなくとも誰かが鉄板ネタであるその話題を出すからだ。
「なにしてたの?」からは逃れられそうになく、またそのたびに「なにもしなかった」では、あまりにも芸がない。
だから年末年始は、夏季休暇は、ゴールデンウィークは、きっとなにかをしたほうが良い。
自戒を込めて、私はそう忠告したい。
全く楽しくなくはないだろうし、何よりその経験は話のネタになるから。
さあ、エピソードトークを作ろう。
会社の人との雑談という戦場を生き残るために。
【今回の一曲】
爆弾ジョニー/なあ~んにも(2014年)
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