今夜パパに内緒で#8 お笑いの話をしろよ(ユニコーン/ヒゲとボイン)
お世話になっております。日比野めんちと申します。
数日前、喫茶店に行ったとき、近くの劇場から出てきたであろうお笑いファンの女性が二人、歓談されていました。
その話が、聞くでもなく耳に入ってきたのですが、どうにも違和感がある。
そのうち分かったのですが、彼女らは一つもネタの話をしていなかったのです。
目当ての芸人が、どの劇場で、どのライブに出て、誰と共演していたか。みたいな。
あるいは、彼はおそらくステディがいるとかどうとか。
しかしこれも、創作物に重きを置き過ぎる私の"受け止め"なのかな、と思いいました。
私が、実は重心がずれているだけで、違和感を覚えるほどのことでもなかったのではないか、なんて。
こんなことをなんで話しているのかというと、自身がおかしかったのかもしれない、と反省するそぶりを見せつつ、やっぱりこれはおかしくない? と言いたいがためです。
お笑い好きな女性を批判すると、女性お笑いファンを貶めているみたいに言われるかもしれないな、なんて思うわけです。
でも、芸人がカラオケするだけのライブをありがたがっているのは、なんかおかしくね? と。
まあ、「ハマダ歌謡祭」なんて番組が成立している時点で、やはりずれているのは私なのかもな、なんて。
改めて、自分を下げてみますけれども。
どうなんでしょうね。
ユニコーン/ヒゲとボイン
第8回で紹介するのは、ユニコーン「ヒゲとボイン」です。
ユニコーンは、奥田民生らによって1986年に結成されたバンドです。
1993年に解散ののち、2009年に再結成され、現在も活動中です。
本楽曲は、アルバム「ヒゲとボイン」に収録され、またリカットされシングルとしてもリリースされています。
楽曲自体は4分後半あるので決して短くないですが、それに比すると歌詞は非常に短く感じます。
「大迷惑」などと同様に、サラリーマンの悲哀がメインテーマです。
ヒゲ=仕事人間として出世する、ボイン=女性に手を出す。
この二つが「永遠の深いテーマ」である二項対立として描かれます。
これを、オイルショック後〜バブル期の、男性中心社会の贅沢な悩みだと断罪することは容易いでしょう。
私たちの世代は、別に仕事人間になろうと出世できるとは限らないし、そもそもハードワーク自体が禁じられ、金も出ないなか、サービス残業をしないといけないし、サービスであるからこそ評価にもつながらない世を生きています。
また、仕事は半端に、恋に邁進というわけにもいかないのは、多くの読者諸賢の認識にもある通りです。
しかし、彼らは真剣にこれを悩んでいたのです。
24時間働けますか、と言われる時代に、仕事をとるか。女を取るか。
「女を取る」というと嫌な悩みに聞こえますが、「あなたはどうせ仕事でしょ」という「ボイン」の言葉からは、家庭を顧みないニュアンスも感じられます。
つまりこれは、「仕事」と「家庭」の歌にもとれるわけです。
一方で、うまい具合にやる連中もいるわけです。
それが「アメリカ帰り」のやつです。
彼は「ヒゲ」も蓄え、「ボイン」に「目の前」で手を出すのです。
この歌の良いポイントは、別にそのどちらも、歌の主人公は選び取れていないことです。
この時代にあって、どちらかを選び取ることが、叶いうる選択肢でないことを予期するかのようにも見えます。
主人公は「永遠に僕を迷わすヒゲとボイン」に頭を占領されています。
そして、それらは「夜空に浮かぶ」のです。
それは虚空に浮かぶように、主人公の手には入らない。
その悲哀や不能性を、このメロディに乗せ歌い切るポップセンスを、賞賛したいと思います。
これを、1991年にやっていることを思えば、ちょっとした偉業に思えませんか?
Spotifyにて、このシリーズ「今夜パパに内緒で」にて紹介した曲を入れたプレイリストを公開しております。
では、来週(?)もまたお会いしましょう。
See you soon…
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