イブ・サン=ローランってなんの人!?
「トリ肉って何の肉!?」というテレビ朝日系列で放送されているクイズバラエティ番組がある。
Wikipediaによればレギュラー放送開始後に一度リニューアルを挟み出題の傾向もやや変わっているらしいが、要するに「平成=ゆとり世代は常識がない」と嘲笑するのが趣旨の番組だ。
私がある日、家に帰ってテレビをつけるとちょうどこの番組をやっていた。
悪趣味だなあ、と思いながら、BGM代わりにチャンネルを変えず点けたままにしていた。
司会の浜田雅功が良く通る声で問題文を読んだ。
「クリスマス・イブのイブってどんな意味?」
この問題の正解は、「夜」とか「晩」だったと思う。
Good Eveningの「Eve」。まあそんなのは些末なことだ。
正解発表の後、こういう番組恒例の、珍回答をイジる時間が始まった。
その流れで、ある女性回答者――たしかダレノガレ明美かみちょぱだった――の回答が公開された。
そこには「イブ・サン=ローラン」と書いてあった。
回答の意図を訊ねられ、彼女は「欲しい物」と答えた。
ここでは無論、「クリスマス・イブ」というメジャーイベントと、「欲しい」という個人的感情が並べられてしまった可笑しさを笑いにしているのだが、私はこれを見て驚愕してしまった。
「え、イブ・サン=ローランって、人じゃなかったの?」
調べれば分かることだが、イブ・サン=ローランは伝説的なファッション・デザイナーである。つまり人だ。だが同時に、その名を冠したファッションブランドでもある。
彼女が言ったのは間違いなくそのブランドのことだった。そして私は、そのブランドの存在を知らなかった。
それに、そもそも私はイブ・サン=ローランを、エド・シーラン的な、私が聴いたことのない流行りの洋楽アーティストだと思っていた。
だから、結果的に人ではあったが、もう何も知らないも同然だった。
きっと彼女にとってイブ・サン=ローランは常識で、それを知らなかった私は「ありえない!」と呆れる対象になるのだろう。
スタジオでは、その女性回答者が笑われていた。
この笑いは、「クリスマス・イブ」という世界的なイベントの名前の由来として、「欲しい」という個人的な感情が挙げられたスケールのミスマッチに対する笑いだ。
だから、無知を笑う類のものとは異なっていた。
けれどそれを承知の上で、私は彼女のことを笑ってはいけないのだ、と強く思った。
私には、彼女を笑う資格などない。
彼女にとってのイブ・サン=ローラン。
私にとっての山崎ナオコーラ。
あるいは誰かにとってのとなりのトトロ。
誰もが、誰かにとってのトリ肉を知らないのだ。
知らないなら教えてあえばいい。
知識は水だ。独占してはいけない。
いやあ、M-1、面白かったですね。
そんな、サンローランとサンタクロースは似ているとか、マジでしょうもないことを考える、今日はクリスマス・イブ。
あなたは、誰と過ごすだろうか。
【今回の一曲】
Enjoy Music Club/クリスマスをしようよ(2015年)
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