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どついたるねん。

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きっと仕事のためにはならないでしょうが、暇つぶしにはなるかと思います。そんな、エッセイです。(2019/10/1〜2021/5/23)
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2020年7月の記事一覧

あの花で泣けないなんてありえない

その日、私は同期入社の三宅と一緒に帰っていた。 遠くの会社への訪問を終えた私たちは、互いに黙ったままなのも気まずく、盛り上がりこそしないものの、ぽつりぽつりと会話をしていた。 不意に三宅が「好きなアニメなんなの?」と訊ねてきた。 記憶が正しければ、「お前、なんか感動して泣くとかあるの?」みたいな話の流れだったと思う。 まあ、これまたムカつく話だった。 「感動」というと、やはり風景や音より物語らしい。 そして、小説とか映画よりもアニメらしい。 なるほどもはや私たち

「幸せになりたいと思いませんか?」

見知らぬ誰かに話しかけなければならないとき、どんな人に話しかけるだろうか? たとえば道を訊ねたいとき、アンケート調査に協力してほしいとき、サークルの新歓チラシを配りたいとき――。 思い浮かべる人物は、各シチュエーションでそれぞれ異なるだろうが、総じて言えばそれは「断らなそうな人」になるのではないだろうか。 話しかけるのは目的――道案内してもらうとか――を達成するためだ。 だから、依頼を断りそうな人にはわざわざ話しかけない。 裏を返せば、街中などで見知らぬ人に話しかけ

「なめてんだろ!」

「なめてんだろ!」「やる気ないんだろ!」 これらは説教のときの常套句だが、この言葉ほど、どう対処したらいいか分からない言葉はない。 それらは所詮、主観の域を出ないからだ。 「なめてんだろ、お前」というのは、「俺は、お前が、なめていると思った」「兎角、俺はお前に腹が立った」という言明である。それ以上でもそれ以下でもない。 だから「なめてんだろ」と言葉にされた時点で、相手が「なめている」事実はほぼ確定なのだ。 以降はなんと言葉を返そうと、「いや、俺にはお前がなめているよ

私には歯が8本ない

私の歯は8本欠けている。 4番。犬歯の隣の第一小臼歯が4本。親知らずが4本。 それらは、望んでいなかった歯列矯正を途中で断念した跡である。 大学2年生の夏休みのことだ。 帰省するなり、私は母によって叔父の中学時代からの友人がやっている歯科医院に連れて行かれた。 言われるがまま診察用の椅子に腰掛けると、口の中を一通り診られた。 自身の口腔環境が誰かに自慢できるほど良好ではないとは思っていたが、母に連れて来られてまで診られる理由は一切思いつかなかった。 その歯科医は

キャラを「やりにいっていた」先生たちの思い出

学校を舞台にしたフィクション作品には、様々な先生が登場してきた。 その代表格と言えば、武田鉄矢演じる「金八先生」こと坂本金八だろう。 彼の言動は、多くの人にマネをされてきた。長い髪をかき上げながら名言を言うあのモノマネだ。「人という字は――」だったり「腐ったみかんです」だったり。 私たちがTVショーで見る、いわゆる「モノマネ」は、真似る対象のクセなどを誇張したものだ。 以前テレビ番組で、先生のモノマネをプロが本気でやったらどのぐらい生徒にウケるのかを検証する企画をやっ

俺、澪ちゃん派。君は? 唯ちゃん?

普段、人との交流が苦手そうなことばかり書いている私でも、大学一年生の時分には、サークルの新歓に顔を出していた。 あまり断らなさそう、という気の弱さが出ていたのだろう。 登校初日から、あらゆるサークルからチラシを押し付けられていた。 どのサークルの新歓に行けば、タダ飯にありつけるのかは把握していた。 その中でも、とある運動系サークルのそれを選んだのは、そのサークルが扱うスポーツを小学生の頃にやっていたことによる懐かしさが理由だった。 食事会も終盤に差し掛かった頃、掛け