Youtubeで聴く"南"のオーケストラ(再構成) 0. はじめに

はじめに

 最近注目される「グローバル・サウス」の国々。西洋クラシック音楽の楽器編成を使いながら、多様な音楽を演奏するオーケストラが、それらの国々でも活躍しています。
 伝統的な西洋クラシック音楽、たとえばベートーヴェンやチャイコフスキーはもちろん、それぞれの国の作曲家の作品を演奏する芸術音楽中心のオーケストラもありますが、ポップスがメインだけどクラシックも演奏するオーケストラ、さらに民族楽器を交えて地元の民謡などを中心に演奏するオーケストラもあり、それぞれに魅力があります。
 私がこうしたオーケストラを聴き始めた動機は不純で、ウクライナ紛争開始後の、ゲルギエフなど一部ロシア音楽家に対する排除的な扱いに反発して、それまで聴いていた欧米のストリーミングをやめて、代わりに何かないかと聴き始めたのです。が、聴いてみると予想以上におもしろく、政治的な動機は脇において、いろいろな国のオーケストラを聴くのが純粋に楽しくなりました。

 先月、自分の覚書を兼ねて一度この連載を始めたのですが、あまり考えずに始めたため、こうした多様なオーケストラが整理できていなかったことと、演奏への感想が「上から目線」ではないのかという指摘をうけたこともあって、方針を見直し、白紙から書き直しました。
 なるべく演奏へのコメントなどはしないで、カタログ的にまとめていくことにします。
 なお、リンクを貼る動画は、原則としてオーケストラの公式チャンネルか、または指揮者や楽団員、コンサートホール、上部団体、放送局などのチャンネルにある、要は著作権上の問題がなさそうなものです。それがないオーケストラについては、掲載を見合わせる場合があります。また、現存のものを優先するためYoutubeに10年以内に投稿された動画のあるものに限り、その中でも消滅がわかっているものは取り上げません。

オーケストラの分類

 いろいろなオーケストラがありますが、編成と演奏する音楽の種類から、みて、下記のような種類があるように思います。これらのなかで①②⑤を中心に、目についた楽団を取り上げていきます。

①西洋クラシック音楽や各国の芸術的な音楽作品を多く演奏する楽団。国立交響楽団から、地域のアマオケまで。ただし、②を兼ねている楽団も多数です。
②ポップス・オーケストラ。映画音楽やポップス、また歌謡曲の伴奏を中心に演奏する楽団。アニメやゲーム音楽も。一部は西洋クラシックの作品も取り上げることがあります。
③宗教音楽の楽団。キリスト教会で讃美歌などの伴奏を主に演奏するものが多いですが、それ以外の宗教もあります。編成や規模はいろいろです。
④民族音楽の管弦楽アレンジを中心に演奏する楽団。なお中華圏には民族楽器を西洋オーケストラのように配置した楽団(Chinese Orchestra)が多数あり、他でも民族楽器による大規模な楽団を「オーケストラ」と呼ぶ事がありますが、これらは省略します。
⑤ユースオーケストラ。ナショナルチームレベルのものは芸術音楽中心ですが、地方の楽団ではいろいろな曲を取り上げています。規模も大小あります。
⑥大学などのオーケストラ。音楽学校のものと、一般の大学などの学生によるものがあり、演奏する曲の種類もいろいろです。音楽学校の場合、先生たちもしばしば加わります。
⑦軍や警察のオーケストラ。一部の国には吹奏楽による軍楽隊ではなく、芸術音楽やポップスを演奏するフル編成の楽団があります。
⑧イベント用オーケストラ。東南アジアなどでは結婚式にオーケストラを呼ぶのがごく普通のようで、そういう楽団の動画もたくさんあります。十数名程度のアンサンブルが多いですが、中には数十名規模の楽団もあり、ホールで演奏会を開いているときもあります。そう、「セロ弾きのゴーシュ」のオーケストラが、ふだんは映画館で無声映画に音楽をつけているけれど、「今度の町の音楽会」で「第六交響曲」を演奏するという、ああいう感じです。

 といっても、①と②、②と⑤を兼ねているものなど、実際は多様です。また、お金のあるセレブは①②の楽団を結婚式に呼ぶこともあるようです。
 さらに、それぞれに室内管弦楽団、弦楽合奏団の形をとるものがあります。なお、吹奏楽団やブラスバンドは、共通する音楽ジャンルも演奏しますが、相対的に独自の存在だと思うので、ここでは取り上げません。

地域ごとの特徴

東南アジア

 オーケストラがエンタテインメントとして定着している国が多く、昔から有名なオーケストラを擁するシンガポールはもちろん、インドネシア、ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシアには大都市部に①②⑤⑥のオーケストラがあり、多くはYoutubeへの発信も熱心です。特にインドネシアには地方でも②⑦のオーケストラが多数あるようです。

南アジア

 「ボリウッド」音楽を演奏する②のオーケストラはいくつもあるようですが、①のオーケストラはインドとスリランカにあわせて2、3しかYoutubeへの発信が見当たりません。③も少しあるようです。

中央アジア・コーカサス

 旧ソ連圏は、ソ連時代の音楽家養成システムが残っているほか、ロシアとの音楽家の行き来も多く、各国の主要都市に①のオーケストラがありYoutubeへの発信もさかんです。映画製作所や放送局、劇場専属のオーケストラもソ連時代からあったので、それらの一部が②になっているようですが、①②兼ねているところもあります。

中東・北アフリカ

 トルコには、主要都市に①のオーケストラがあり活発に活動していて、Youtubeへの発信も熱心です。イランも発信しているオーケストラが首都以外にもあり、自国作品が主ですが西洋クラシック音楽も演奏されています。ほかの各国も、パレスチナを含め多くの首都には①のオーケストラがありますが、②④も兼ねていることが多く、また公式チャンネルはあまりなく個人の発信が多いようです。北アフリカはおおむねアラブ文化圏なので、中東と共通しています。

サハラ以南アフリカ

 植民地時代と現在との複雑な関係を反映してか、国によって状況が大きく異なります。Youtubeに発信しているオーケストラがいくつもあるのは南アフリカだけです。ほかの国では、そもそもYoutubeに発信があるオーケストラがないところもありますが、ナイジェリア、タンザニア、ケニアなどでは①のオーケストラ、アンゴラやモザンビークなどでは②のオーケストラから発信があります。

中南米

 昔から世界的に知られたオーケストラのあるメキシコ、ブラジルは地方都市にも①のオーケストラが多数あります。ほかでも、スペイン語圏ではほとんどの国に活発な①のオーケストラが複数あり、⑤⑥も多くの国にあります。Youtubeへの発信も積極的なところが多く、西洋クラシックの古典はもとより、ラテンアメリカの現代作品も多く取り上げられます。他方、それ以外の国ではあまり発信を見ることができません。

 今後は、とりあえず東南アジアから各国別に紹介していきます。隔週くらいでアップロードしていきたいのですが、どうなりますやら。


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