納涼会で私を刺した、ヨシくんのこと

産前、私は子供嫌いである事を公言していたが、そのきっかけを作ってくれたのがヨシくんである。それまでも子供との接し方がよく分からず苦手だなと思っていたのだが、ヨシくんに嫌われた事で堂々と子供にも嫌われる子供嫌いを公言できるようになったのだった。

ヨシくんは、会社の先輩の息子さんだ。3回程会ったとおもう。

最初に会ったのは別の先輩のお宅にお邪魔した時のことだった。その時彼は2歳弱だったと思う。ヨシくんは走り回り、オムツを替えてもらい、遊んでいた。しかし途中で突然不機嫌になり、持っていたものを床に叩きつけた。

「この子は乱暴なの。」困ったように母親である先輩が話した。穏やかな両親とは真逆の振る舞いだった。

乱暴な面もあったけれど、遊んでいるときの彼はとても愛らしく、私に色々なものを持ってきては手渡してくれた。そう、最初は仲が良かったのだ。

しばらく経って、ヨシくんは職場の納涼会に連れてこられていた。大人たちに混じってあまり馴染めず、しゃがみ込んでいる彼の横に屈んで、大丈夫?と声をかけた。

すると、彼は無言で私を睨みつけ、持っていたフォークで私の頭を思い切り刺したのだった。

私は笑って、痛いからね、と穏やかに言ったが、内心は嫌悪感でいっぱいになった。やっぱり子供は私の事を嫌いだし、私は子供が嫌いだと確信した。先輩には刺された事は言わなかった。言ってどうにかなるものでもない。

思い返せばあの時は仕事が終わったばかりで、私は制服のままだった。ヨシくんは私に何らかの医療行為をされるのかと思ったかも知れない。

3回目に会ったのは、彼の両親とドライブに行った時だった。多分3歳くらいの時だったと思う。その時、もう1人別の先輩が同乗していたのだけど、彼女は子供が大好きだった。積極的にヨシくんに話しかけ、褒め、意気投合していた。一方で私からヨシくんに声をかけることはなく、彼から話しかけてきても一言くらいしか返さなかったと思う。

ドライブも終盤に差し掛かり、子供好きの先輩は先に降りた。後部座席は私とヨシくんの2人になった。

「降りて!ねえ降りてよ!」

ヨシくんは私に向かって叫び続けた。私は無視を決め込んだ。ヨシくんの母親には私が乗り物酔いしやすい事を伝えてあるので、体調が思わしくないと思っていたのだろう、車内に何とも言えない空気が漂った。

車を降りた後、ヨシくんに会うことはなかった。彼の母親は転職して、疎遠になった。

私も大人気ない事をしたと思ったけれど、嫌われているからには仕方ないと思っていた。将来もし結婚して子供が産まれて、男の子だったら、私はまた刺されるなと思った。

それが今、私は男の子を育てている。メロメロだ。ついでによその子にもメロメロだ。出産は何もかも変える。

ヨシくんは今年小学生になった頃だと思う。流石にコミュニケーションは取れるようになっただろう。

今、私はヨシくんに感謝している。ヨシくんに会わなかったら子供との関わりの難しさについて釘をさす人物は現れなかっただろうし、彼のおかげで大人本位の考え方では不愉快にさせてしまう事を学んだ。あの経験がなければ何も考えないままチビを育てる事になったかもしれない。

あの時は君の気持ちが分からなくて、怖い思いをさせてごめん。私を子供嫌いにしてくれてありがとうね、ヨシくん。おかげですっかり子供が好きになってしまったよ。

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