リョウタのこと

リョウタの事を考えると若さゆえとはいえ、己の恥ずかしい振る舞いに耐えきれなくなるのだけれど、この記録はあくまで正直に書く。

リョウタと知り合ったのは、社会人になって初めての七夕だった。先輩のつてでホームパーティーのようなものに招待されたのだった。リョウタは私と同い年で、背も同じか少し高く見えるくらいの小柄で、頬の肌が弱いのかニキビで荒れていて、眼鏡をかけていて、少し小さな声で話す青年だった。若かった私は、ちぇっ、と思った。こんな地味な青年と話す為にホームパーティーに来たわけじゃないのに。今日はシケてるな。と思ったのだった(やっぱり恥ずかしくて耐えられない)。

それでも隣同士に座って、七夕の夜の夜景を見ながら会話を楽しんだのだった。パーティーのお開きにはメールアドレスを交換して、2人きりで会うことになった。私は全く関係を進展させる気が無かったので、買い物にだけ行って友達として終わろうと思った。

当日、私は不機嫌だった。学生時代に憧れていた社会人デートにしてはあまりにも地味だし、リョウタの段取りも悪くて昼食の店も決まらなかったのだった。やっと見つけた店で、向かい合って座った。何を食べたかは覚えていない。私が食べきれなくて半分近くリョウタに食べてもらった記憶しかない。話は前後するが、料理を待っている間、リョウタと仕事の話をした。リョウタは国立大を出て、しかも飛び級のような特殊な学歴を持っていた。そして卒業後、研究職をしていた。「それでね、この前僕の職場がニュースに載ったんだよ」と私にニュースサイトを見せてくれたのだった。その瞬間私はリョウタに恋をしてしまった。年収がどうだとか、学歴が良いからとかではなく、自分の仕事に誇りを持って目を輝かせている彼が好きになったのだった。

その後リョウタとは無印良品でアロマディフューザーを買うのに付き合ってもらって、別れた。駅へ向かう道で、私は自分のバッグに手を掛けるふりをして、そっと彼の手に触れた。彼は何も言わず、でも拒絶もせず、なんとも言えない空気が流れる。私は、今日はここまで、と決めていた。でも、次に会うときには想いを伝えようと思ったのだった。

それが最後になった。

私は友人だと思っていた別の男性からアプローチを受け、あっけなくそちらに流された。彼は元モデルで、私は突然映画のようなキスをされたのだった(もう本当に見るに堪えないが、もう少しの辛抱だ)。ドラマの恋愛に憧れていた若かりし頃の私は、求めていた物はこれだと思ってしまった。

その後、リョウタからメールが来たが、仕事が忙しいと言ってしまったのだった。そして再び連絡が来る事は無かった。私は流された後に夢のような2ヶ月を味わい、私に飽きた彼は豹変し、泥沼のような酷い4年半を味わった。これが末路である。

リョウタに謝りたいがもう不可能なので、今は彼の幸せをただ願っている。
リョウタが研究職として勤めていた会社は偶然にも夫の会社と深く関わっていて、夫がリョウタの会社の名前を出すたびにチクリとする。深く関わりすぎている故に愚痴も出てくるようだけど、そっと私はその会社を庇い宥めるのだった。

眠気に任せて一気に書いてしまった。読み返すのが恐ろしい、若気の至りの恋物語の出来上がり。

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