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イタリア語とスペイン語~六つの共通点と六つの違い~

イタリア語とスペイン語は「姉妹言語」と言われ、語彙は70~80%以上を共有し、文法はほとんど共通なので、実際は方言程度の差しかない
ではどこが似ていて、どこが違うのか、今回は共通点と相違点を六つずつ、計12項を纏めてみた。


共通点

1. 動詞の格変化

スペイン語も動詞の格変化は六つあり、be動詞に相当するser(essere)だと
soy, eres, es,
somos, sois, son,
という具合に主語によって動詞の最後を変える。

これもイタリア語と同じように形が決まっているので、次回の記事でその変換方法を紹介しよう。

2. 主語省略

これもイタリア語と同じ。英語のように主語を考えてから喋るのではなく、使う動詞を決めてから主語を考え、動詞の語尾を合わせれば良い。
e.g.
Lo (Io) compro=I buy it=(伊:それ買うよ)
Lo (Yo) compro=I buy it=(西:それ買うよ)

3. 名詞の性別

名詞の性別はイタリア語と共通
単数の場合どちらも、
男=o, 女=a, で終わる。
なのでイタリア語で覚えた名詞の性別を基にすれば、「言葉」をイタリア語のpaloraからスペイン語のpalabraという風に女性名詞としてすぐに置換できる。
複数形の時はスペイン語ならそのまま"palabras"という風に「後ろにsを付ける」だけなので、イタリア語よりも楽だろう。

4. hは発音しない

ロマンス諸語ではhは書いたとしても発音しない
イタリア語の場合は"storia"のように完全に落としている場合が多いが、
スペイン語では"Historia"というように発音しないHを未だ綴っている
ただ聞く分にはどちらも同じ音なので、スペインドラマを観ていると「字幕見るよりも聞き直した方が早い」みたいなことがよくある。

5. 副詞(〜mente)

英語でも”~lly”とつければ副詞になるように、イタリア語では”~mente”とすれば副詞になる。Studiamo inteligentemente
ありがたいことにスペイン語はイタリア語と全く同じ変化をするので、副詞になるとそのまま使えることが多い。
とはいえmaggiormente→majormenteという風に、アルファベットをスペイン語風に少し直さなくてはならないが、これも次回詳細を述べる。


6. 形容詞

ロマンス語(イタリア、スペイン、フランス語など)では基本的に、形容詞は名詞の最後に置く。
これは名詞の性別に形容詞を合わせる都合、名詞を先に確定させる必要があるからだ。
そして幸いなことに、形容詞の形はイタリア語とスペイン語でほとんど変わらない
alto=alto
facile→facil(easy)
"l"の後の"e"を落とすくらいで、スペイン語の語彙に変換できる。
"E’ facile" significa "Es facil" ugualmente o igualmente


相違点

1. スペイン語にはJ、X、Yがある(伊:×)

イタリア語が21文字と英語の26字より少ないのに対して、スペイン語は27文字無駄に多い
これはイタリア語が捨てた五つのアルファベット:J、K、W、X、Yを保持しているから。
けれどイタリア語と同じようにK、W、は外来語にしか使わないので無視しても良い
問題は残り三つ、J、X、Y、これはスペイン特有の表記と発音方法がある
以下に他のアルファベットも含めた、三つの例を出そう。

  1. "X"="X" or "J(H)"
    この"J"と"X"の二つは表記揺れが激しく、英語やイタリア語から変換すると、二つの表記と発音で迷うことになる。
    →西
    Examples→Ejemplos
    Explain→Exprimir
    →伊
    Examples→Esempi
    Explain→Esprimere
    スペイン語の方では英語のxがjに変わったり、xのまま残っていたりする。
    "X"は"X"として発音するが、
    "J"は"H"として発音するから、Ejemplosなどは「えへんぷろす」という風に読まねばならない。
    スペイン語の方言とされるカタルーニャ語ではExemplosと書いていたりするのでこっちの方がわかりやすいのだが。
    なのでスペイン語で笑う時はhahahahaではなくjajajajajaと書く。

  2. "G"="H" or "Y"
    そして"H"を表す発音にはもう一つ、"G"がある。
    Generaly→Generalmente
    これはイタリア語もスペイン語も形は変わらないが、スペイン語の場合
    ねらるめんて」みたいな発音をする。
    "F"の元ネタが"Γ(G)"で、ギリシア語でも似たような発音をすることを考えれば、わからなくはない。
    しかし"G"=”Y”に置き換えられなくもない
    というのもミラノでイタリア語を学んでいた時、メキシコ人はいつも元気よく「こんにちは」の"Buon giorno"を「ブオン・ルノ!」と言っていたからだ。
    なので後ろの音によって変化しやすい。
    ともかくGをすごく弱めて発音するのがスペイン語らしい。

  3. Ñ”=”gno
    さて最初の方でスペイン語のアルファベットは27文字と書いたが、これは英語の26文字よりも多い。
    ではこの余分な1文字というのは何か?それは”Ñ”で、イタリア語だとgno(ニョ)と表される音だ。
    Nの上に記号が付いたような文字だが、Nではない
    「にゃ、にゅ、にゅ、にょ」みたいな音になる。
    このÑをNとして発音してしまうと、「私は22です」と言いたいところが「私は22のを持っています」と聞こえて、大変危険である。

以上のように、イタリア語からスペイン語への変換には表記上のコツがいる。けれど音としてはほぼ一緒なことが多いので、慣れれば簡単だ。

2. rrとrに区別がある。(伊:×)

スペインとイタリアではrを巻くというが、これは正確ではない

たしかにイタリア語のrは全て巻く

けれどもスペイン語のrは普通のrで、
巻き舌の”r”は”perro”(犬)のように”rr”と、二つのrを使う
なので"pero"(しかし)を巻きすぎると"perro"(犬)のように意味を違えてしまう。

3. 子音や母音が連続し得る。(伊:×)

スペイン語が書き辛い理由の一つ。
イタリア語では子音が二個連続する単語は小さい「ッ」と同じ扱いをするが、基本的に子音が連続するのは嫌い、常に母音で音を終わらせる
だがスペイン語では子音が連続し得る
「時間」という単語を例に見ると、
伊:tempo
西:tiempo
という風に、スペイン語だと”e”の前に”i” が入っていて、少し言いづらい。
まぁイタリア語から見たら微々たる違いだったりするので、最悪の場合は「活舌の悪い人」として通せる。


4. 最後が母音でなくても良い。(伊:×)

イタリア語は絶対に"o", "i", "a", "e", とすべて母音で終わる
だから動詞の不定形も"stare", "venire", "essere", という風に最後にeを入れる。

スペイン語ではそんな決まりがない。なので動詞の不定形も”estar", "venir","ser",という風に、同じ意味でも簡潔になっている。
単数形ならスペイン語も母音で終わる傾向にあるが
palabra→palabras
という風に複数形では常にs、つまり子音で終わる

5. いくつかの動詞の入れ替え(avere=tener, andare=ir,)

スペイン語とイタリア語では
「綴りは同じだが、意味がずれている言葉」と、
「同じ意味だが、近縁関係にある別の単語を使う」の二ケースがある。

  1. 意味がずれている言葉
    最初の例で典型的なのは"andar(e)"だ。
    これはイタリア語では「行く」という意味だが、
    これがスペイン語では「歩く」という意味になる。
    何故か?
    イタリア語では「歩く」という動詞Ambulareに、「行く」という別の動詞Vadereをくっつけてしまったからだ。
    たしかに意味は似てるけどね。
    andare動詞の不規則変化を例に取ってみよう。
    e.g.(Ita)
    単: vado, vai, va,(vadere)
    複: andiamo, andate, hanno, (ambulare)
    以上のようにイタリア語では単数形の方にvadere「行く」の変化が混入し、結果として単数形と複数形で二系統の格変化をするようになった。
    スペイン語は「行く」という動詞には"ir"を使う。
    e.g. (Spa)
    voy, vas, va,
    vamos, vais, van
    変化だけ見れば、スペイン語の方がラテン語vadere(行く)に近い変化をし、「歩く」の変化は含まれていない。

  2. 「同じ意味だが、近縁関係にある別の単語を使う
    顕著なのは”avere(伊)”と”tener(西)”だ。
    どちらも「持つ」(have)という意味であるが、形が違う。
    けれどこれは意味の似た別の単語をそれぞれ宛がっているに過ぎない。
    イタリア語の"tenere"にhaveの意味はない。だが「保つ」(keep)としては使う。
    伊→Lo tengo=I keep it
    西→Lo tengo=I have it
    スペイン語
    にも"haber"はある。昔はイタリア語と同じようにhaveの意味でも使ったが、現在は限られた文法用語としてしか使わない
    だがその名残は見られる。例えばスペイン語で「~が存在する」という時にはhaberを使って、「その空間が~を持っている」と三人称の形で表す。これはかつての「持つ」(have)という意味に由来する。
    Hay un libro=(It has a book)→There's a book

上に見たように、「初見だと違って見えても、注意深く元を辿ってみると「やっぱり姉妹なんだ」」と通じ合える瞬間があるので、仲良くしてあげてほしい。

6. 過去時制の入れ替え(意味に大した違いはない)

イタリア語のavere
スペイン語のhaber
上では少しずれた使い方をすると書いたが、どちらも過去の出来事を述べる時に使う
伊: Come ho scritto
西: Como he escritto
英: Like I have written
どれも構造的には全く同じで、英語のようにhave+過去分詞の形を取っている。このまま同じく「現在完了形」(~していた)を意味するのはスペイン語で、イタリア語の場合は「単純過去」(~した)と意味が変わる。
伊: Come ho scritto=I wrote
西: Como he escritto=I have written
逆にイタリア語で「現在完了」を書くと、スペイン語の「単純過去」と同じ形を取る。
伊: Studiai= I have studied
西: Estudié= I studied
ただ意味に大した違いはないらしいので、変化の単純なイタリア語の「単純過去」を基軸に、スペイン語でもそれを使いまわせば一応会話にはなる。

結論:伊Conclusione=Conclucion西

以上、イタリア語とスペイン語の六つの類似点と六つの相違点を見てきた。語彙も基礎文法もほとんど共通だが、綴りや発音に若干の違いがある。

この違いを見た時に、アルファベットが無駄に多いスペイン語よりもイタリア語の方が容易である、というのが本ブログでイタリア語学習を推奨している理由である。

とはいえ、スペイン語の方が話者人口は圧倒的に多く便利なので、次回以降はイタリア語からスペイン語に変換するテクニックを紹介していきたい。


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