いつもの場所だったタリーズ
とあるショッピングモールの1Fにあるタリーズ。その、あまり大きくないお店は私のこの2年間を語る上では欠かせない大切な場所だ。
1年半前、恋人がいた頃、そこはいつもの待ち合わせ場所だった。私と彼では仕事のスタイルが異なり、多くの場合は私が先にあがることが多かった。そこで私は彼の職場に近くにあった、そのタリーズでいつも仕事終わりを待っていた。
座るのは、できるだけガラス張りの入り口の正面。時折、ガラス越しに見える従業員退勤口を見上げて、まだかなあと待っていたのが、懐かしい。
当時のお気に入りドリンクは「ハニーラテ」。タリーズ自慢の蜂蜜を存分に生かした甘いドリンクは、仕事終わりのリラックスタイムにはピッタリだった。
ぼうっとしていると、いつの間にやってきたのか、彼がぽんと肩を叩いて「お待たせ」と笑う。私は遅かったねとか言いながら、飲み残しを慌てて飲む。コートを着ている間に彼がゴミを捨ててくれる。そうして二人でお店を出る。そんな繰り返しの幸せを過ごしていた。
忙しさが続いて、なかなか会うことができない時には、彼には言わずにタリーズで退勤する姿だけを眺めたこともあった。見慣れたベージュのコートがひらり出てくるのが見えると、嬉しくておしゃべりをしなくとも、ほんの少し元気をもらえていたことを今でも鮮明に覚えている。
けれど、そんな恋人とも、1年ほど前、お別れをした。その頃くらいから私にとってそのタリーズは大切な友人との「仕事場」に変化していった。
彼女は中高時代からの友人。ちょうど、この1年ほど、私たちはふたりとも仕事でチャレンジしている時期だったので、よくタリーズに集まって一緒に残業をこなした。
それはまるで高校生の頃、教室に残って勉強していたあの頃のようで。
彼女が店内にいるイケメンを指差し「あの人、見て」と言えば「うわ、◯◯(友人の名前)、あの顔、ばめっちゃ好みでしょ」「そうなの。好みなの」なんて、しょうもない話ばかりしながら、タスクをこなしていた。
時にはちっとも集中できず、30分くらいやってだべるだけの日もあれば、散歩したいとさっさと切り上げる日もあった。
でもそれはそれでよかった。日々忙殺され、仕事にしてやられていた私たちにはそういう息抜きはとても大切だったから。
そうやって、私たちはタリーズで愛おしい時間を過ごしていた。
(ちなみにその頃は閉店ギリギリの23時までタスクをこなすことが多かったから、私はカロリーを気にして、低脂肪牛乳甘さ控えめのココアばかり飲んでいた。一方彼女はというと「疲れた時の糖分最高だよね」と言いながら大体スイーツもセットで楽しんでいた。時にはチョコを分けてくれることもあった。気前のいい大切な友人。それもまた思い出である。)
そんな毎日を支えてくれたタリーズだったが、また春がやってきて、私は通うことがなくなった。そう、理由は転職だ。
ふと思えば、元恋人は仕事を辞め、もうあのタリーズの近くにはいない。友人はあまりの忙殺ぶりにタリーズに来ることもなく、職場で残業することが増えていた。
たった2年足らずの中で、いつの間にか毎日が変化していたことに気が付く。きっと、私はもうあのタリーズに通う日は来ないんだろう。そう思うと、これまでの日々がなんだか一層愛おしいものに感じてくる。
彼や友人との距離や関係性は変わったけれど、今も変わらずにふたりとも私の大切な人だ。
そんな大切な人とのひと時を過ごさせてくれた、いつもの場所だった、あのタリーズには心から「ありがとう」を伝えたい。
ほんとにほんとにありがとうございます…!