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同世代が語るジョブズのこしらえ方 Brent Schlender, Rick Tetzeli "Becoming Steve Jobs"

19歳のスティーブが、NPOの企画ミーティングを追い出されて1人ウヘンウヘンと泣いている。
人の話も聞かず言いたいままを片っ端から言って煙たがられたのだ。

アイザックソン著「スティーブ・ジョブズ」でも、経営者になったスティーブがウォズの父親にやり込められて泣き出した、というエピソードが出てくる。

ええっ?!まさか...まさか泣いてるの?!

ドラマ「アリーmyラブ」で、オフィスでの取引中、子ども弁護士が「そんなのズルイよ~」と泣き出して、アリーがビックリ仰天、出てきた言葉は"what... what he's doing?"だったのを思い出す。

本書は冒頭からして、スティーブをインタビューし、連帯と嫉妬の入り混じった感情を抱いて追い続けてきた同年代ならではの熱い視線にあふれている。
60年代、70年代のバレーの空気感はもちろんのこと、たとえば、Apple黎明期に判断を誤って成功を享受し損ねた人物をピート・ベストを持ち出して皮肉るとか、この著者でないとできないだろう。
また、77年前後のコンピュータ業界の飛躍の鍵として、「コンピュータサイエンスという専攻がなかったため、様々なバックグラウンドのコンピュータ好きが集まっていた」ことを指摘しているのは面白い。まさにスティーブが目指した、やわらかいものとかたいものの交差点が生まれるのにピッタリの豊穣な環境だったのだ。

著者のジャーナリスティックな視点として非常に印象的だったのは、語りつくされてきた「Apple」という名称について。
ブランディングの観点から、その思いつきの素晴らしさはもちろんのこと、1ページにわたってリンゴの持つインプリケーションが並べられていたのには感動した。

また、ジョブズが、まだ誰も見たことのないパーソナルコンピュータなるものを、どのような言葉で世界に伝えていったか、当時のインタビューからの引用を元に詳細に分析しているのもジャーナリストらしい(公式評伝の著者もジャーナリストだが)。

本書のタイトル"becoming"にも、スティーブのスピリチュアルな悟りを含めた壮大な意味がある。

まだAppleが立ち上がる前、ガレージでの家内制手工業のスティーブ、ウォズ、そして巻き込まれた家族たちの楽しそうなこと。
一緒に泣いて笑って、同時代に生きられたことを喜ぼう。


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