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連帯。Chanel Miller "Know My Name: A Memoir"

公判が報じられた当時は加害者の父親が書いた「息子のおやつの思い出」「たった20分の過ちのために」ステートメントに腹が立ちすぎて、判事への怒りはあまり記憶にないのだが、しっかりリコールされてて地域の連帯に感謝。
実際に著者がストアの店先で出会ったリコール署名活動者のエピソードも感動的。

それと並んで、solidarityの記述として一番共感したところ。

There were many subtle moments like this where I paused to look the person in the eye in an attempt to say, If only you knew how much this meant to me.

Chanel Miller, Know My Name: A Memoir

ちなみにこれは著者がフィラデルフィアで学生生活を送っていたパートナーのもとに身を寄せていたときの記述で、夜に家まで送ってくれる友人やココアを切らさないようにしてくれるアパートのスタッフや、食品店の女性らが挙げられるのだが、誰も彼女がエミリー・ドーだとは知らない。

3つ、本筋と関係ないところで驚いたことがあった。
(2は、男尊女卑は地続きという意味では関係ある)

1. 著者の卒業高校の自殺者が多すぎる。
彼女が書いてるだけでも6人、皆同じ場所で同じ手段をとるので現場に監視員が配備されたほどという。
いかに連鎖に注意しなくてはいけないかが、よくわかる。
うちの近所の黒人教会も数年のうちに若者の自殺者が10人単位で出たことがあった。

2. ロードアイランド州プロビデンスのキャットコールがえげつない。
気分を変えようと、仕事をやめてRISDのコースに通い始めた著者。
通学路で彼女を傷つける男おおすぎ !!!
以前、女性が路上を歩くだけでどれだけセクハラにあうかを女性自ら歩きながら撮った動画がバズっていたが、あんな感じ。しかも車でわざわざ引き返してくるとかこわい。
名門大学が集まる街ですよ。やばいよ。

3. ダイビング怖い。
著者はインドネシアでダイビングに挑戦する。

Before resurfacing, a diver must stop twenty feet below the surface for three minutes, in what's called safety stop, to let your body decompress. Ascending too rapidly could cause bubbles to form in your blood, and I imagine a sort of painful champagne running through your veins, making you sick. After surfacing, you must wait forty-eight hours before flying, as the drop in air pressure could make your blood frothy enough to be fatal.

Chanel Miller, Know My Name: A Memoir

ええぇ。恐ろしい。
でも、この記述のおかげで想像以上に危険なアクティビティなのだということがよく分かった。穏やかな海中で撮ったニコニコ顔の写真ともに「これが事故前の最後の写真になりました」とか追悼ポストされているのを見ては信じられなかったので。

ヒラリー・クリントンが著者のあのステートメントにインスパイアされて敗北演説を準備したという事実は初めて知った。
2016年の選挙戦の衝撃以外にも、インセルの襲撃事件やMeTooなど同時代の感情が綴られていて同じカリフォルニアのアジア人として思い出すことがいろいろあった。

ステートメントは年のわりに名文すぎる、熟練のadvocateが代筆したんだろう、とテレビのコメンテイターに揶揄されたほどのタフなライティング。個人的に感謝の1冊。
もちろん、buzzfeedに掲載されたオリジナルのステートメントも巻末に収録されている。

7/2021追記
『ブラックボックス』の英訳版発売記念で、伊藤詩織さんとシャネルさんのオンライン対談イベントを聞いた。
それでKnow My Nameの装丁が金継ぎをモチーフにしていることを知った。なるほど。


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