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プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

CEDEC2024に登壇しました

CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)、2024年はパシフィコ横浜ノースで8月21日から23日まで3日間開催され、エンジニアリング、プロダクション、ビジュアルアーツ、ビジネス&プロデュース、サウンド、ゲームデザイン、アカデミック・基盤技術という7分野で約200ものセッションがありました。ゲーム開発では日本最大級のカンファレンスです。

このCEDECに「プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート」というテーマで公募枠に応募し採択されました。


プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

共同発表者は、株式会社スナックレモネード代表取締役社長、岡山理科大学非常勤講師の谷口千鶴さん、エフェクチュエーション入門書の著者でもある神戸大学経営学研究科准教授の吉田満梨さん、私を含めて3名での登壇です。(吉田満梨さんは時間の都合で事前動画での登壇でした。)

なんでこの3人なの?というエフェクチュエーション的物語もあるのでそれは別の時に。

さて私たちの枠は8月23日の15-16時で、裏番組には任天堂のゼルダの話しとか、スクエニ・カプコン・タイトー・セガのパネルディスカッションとか、ほぼAIとか、インディーゲームとか、合計13セッションが並行してありました。裏番組、私が見たいものばかり。(タイムシフト配信動画を見ています)

なので始まるまでは、CEDECの中では割と異色なテーマに何人来てくれるのだろう、まぁ少なかったらそれはそれで良いかなと自分に言い聞かせつつ、でも20人位は来て欲しいとドキドキしておりました。谷口さんは3人だったらどうしようって言ってました。でも会場のドアが開くと想像よりも多くの人が入ってきました。ざっと数えると70〜80人位でしょうか。本当に嬉しかった。感動しましたよ。

この想いを忘れない様にメモしておこう!がこのnoteです。(公開まで数日かかったのは、登壇終了後はちょっとだけ灰になっていました。CEDECの週はめちゃ集中して登壇資料の調整をしていたので脳が疲れてた。)

登壇の構成と資料がダウンロードできる所

登壇は60分、リレー形式で行いました。

  1. はじめに(柏木+谷口さん)

  2. エフェクチュエーションの理論について(吉田満梨さん:事前動画)

  3. エフェクチュエーションの事例について(谷口千鶴さん)

  4. プロジェクトマネジメントのアップデート(柏木)

  5. まとめ+質疑応答(柏木+谷口さん)

その後、別会場に移ってAsk the Speaker

登壇資料は「CEDEC Digital Library」からダウンロードできます。会員登録が必要です。(2024.9.4記載)

エフェクチュエーション概要

エフェクチュエーション理論は、起業家が不確実な環境でどのように意思決定を行うかを説明する理論です。これまでの経営学が重視してきた、「目的に対して最適な手段(原因)を追求する=因果性を重視する」アプローチとは異なり、「所与の手段から、意味のある結果を生み出す=実効性を重視する」アプローチです。

エフェクチュエーションは5つの原則があります。

  • Bird-in-Hand Principle(手中の鳥の原則):
    目的ではなく、手持ちの手段 に基づいて着手する。
    私は誰か(Who I am)
    何を知っているか(What I know)
    誰を知っているか(Whom I know)
    +余剰資源

  • Affordable Loss Principle(許容可能な損失の原則):
    期待利益ではなく、損失の許容可能性 に基づいてコミットする。
    起きうる損失 (資金、時間、信頼、別の機会など)が許容できる範囲で行動する。

  • Crazy Quilt Principle(クレイジーキルトの原則):
    競合分析ではなく、自発的な参加者とパートナーシップを構築する
    あらゆる関与者に多様なコミットメントの提供を問いかけ(asking)、未来を共創する。

  • Lemonade Principle(レモネードの原則):
    予期せぬ事態を避けるのではなく、テコとして活用する。
    偶然(出会い、情報、出来事など)をポジティブに活用し、新たな行動を生み出す。

  • Pilot-in-the-Plane Principle(飛行機の中のパイロットの原則):
    予測ではなく、コントロールによって望ましい結果を帰結させる。
    コントロールできる要素から着手し、コントロール可能性を拡大し、自ら未来の環境を作り出す。

エフェクチュエーション理論についてはこちらの本を是非(共同登壇者の吉田満梨さんの本です)

谷口千鶴さんはこちら

そして!登壇で話しきれなかった部分も含めて、私のパートをメモとして残しておきます。

プロジェクトマネジメントのアップデート

プロジェクトマネジメントへの疑問、自分への問い

プロジェクトマネジメントは現代のビジネスにおいて欠かせない要素ですが、その本質的な難しさを整理すると。不確実性、リソースの制約、革新の必要性、リスク管理、そしてチームの複雑さが挙げられます。その他にもステークホルダーマネジメントや品質管理など、多くの要素があります。

ここで重要な問いがあります。それは「プロジェクトマネジメントの目的は、管理そのものが目的となっていないか?」という点です。

なぜ管理を行うのでしょうか。それは失敗を避けたいからでしょうか?成功の再現性を高めたいからでしょうか?

実際のところ、プロジェクトというものは本来、再現性の低い活動ですよね。同じプロジェクトでも、状況や環境が異なると同じ手法が通用しないことが多いのです。同じ手法が通用するのは定常業務ですからね。

この管理の強化が逆効果を招き、さらなる問題を引き起こすスパイラルに陥る可能性があることに注目すべきではないか?

プロジェクト管理における進捗管理

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

プロジェクト管理における進捗管理は、理想的には予定通りにタスクが消化され、最終的に目標に到達することを目指します。しかし、実際のプロジェクトでは「様々な要因」によって、予定通りにタスクが進行しないことがほとんどです。たくさんの要因が積み重なることで、タスクの進捗に差分が生まれ、プロジェクトの完了が遅れることがしばしばあります。

このような状況下で、プロジェクトチームはできる限り何とかしようと努力しますが、「できない理由」を探し続けると、行き詰まりを感じることが多くなります。それでも何とかしよう頑張ることも多いです。

できない理由に対する見方を変える(リフレーミング)

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

重要なのが「できない理由に対する見方を変える」というリフレーミングの考え方です。「コップの水が半分しかない」と見るか、「コップの水が半分も入っている」と見るか、視点を変えることで意味が変わってきます。

「コップの水が半分も入っている」、状況をポジティブに捉え、「○○があるからできる」という思考に切り替えることで、新たな解決策が見えてくることがあります。

ここでエフェクチュエーションの思考法が有効です。この思考法では、手元にあるリソースを最大限に活用し、次に何をすべきかを柔軟に決定していきます。未来を予測して計画を立てるのではなく、今できることに焦点を当て、コントロールすることで、プロジェクトを進めていくのです。

さてエフェクチュエーション的なゲーム開発プロセスについての考察をしていきましょう。

手持ちの手段と許容可能な損失の範囲の中でアイデアを構想

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

限られたリソースや許容できるリスクの範囲内で、どのようにクリエイティブなアイデアを実現していく。ここにエフェクチュエーション思考が重要な役割を果たします。

エフェクチュエーション思考では、「手持ちの手段」と「許容可能な損失」という2つの要素を組み合わせて、現実的かつ革新的なアイデアを構築します。このアプローチでは、既存のリソースを最大限に活用し、失敗のリスクを許容範囲内に抑えることで、プロジェクトを前進させます。

「手持ちの手段」も「許容可能な損失」も制約条件です。制約条件があるからこそプロジェクトがコントロールできます。

大事な点は損失にフォーカスするということです。損失はその期間「何もやらなかった」と言うことも含みます。

面白いはレモネード

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

面白いプロトタイプは「レモネード」です。そもそも面白いゲームをクリエイティブできた時点でレモネードです。ここからパートナーや資源を拡大するチャンスが生まれ、新たなサイクルが形成されます。

面白いプロトタイプを用いて、共創的な「問いかけ」を行う。クレイジーキルトの原則です。面白いプロトタイプで、社内のスタッフや他社を巻き込んだり、有名IPを巻き込んだりと、つまりパートナーが拡大します。

さらにパートナーの手中の鳥も加わります。そして資源の拡大が進みます。

面白くないもレモネード

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

面白いプロトタイプはプロジェクトを終了させましょう。でもそのまま捨てるのではなく、他のプロジェクトに活かせるように因数分解しましょう。

そして資源の拡大に貢献しましょう。

「面白いプロトタイプ」「面白くないプロトタイプ」どちらも個人や組織に必要な資源が拡大します。

偶発性を引き寄せる・気が付く視点でプロジェクトをコントロールしていきます。

エフェクチュエーション思考のプロセス

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

エフェクチュエーション思考は、手持ちのリソースを活用しながら、不確実性に柔軟に適応していくアプローチです。プロジェクトの初期段階で明確な目標を設定せず、現状のリソースを元にアイデアを発展させ、次第に具体的な形にしていきます。

コーゼーション思考のプロセス

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

コーゼーション思考は、明確な目標を設定し、それに向けて計画を立て、順序立てて進めることを基本としています。プロジェクトの初期段階では、市場分析やゲームメカニクスの設計、主要画面イメージ、世界観、ビジネスモデル、IPの検討などを行い、具体的なプランを立案します。この段階では、承認を得るために、詳細な計画やリソースの確保が重要視されます。

承認を得るために、企画書の類いは冗長になりがちです。

企画が承認されればプロトタイプの作成です。あらかじめ用意した計画通りに進めることにプロジェクトマネジメントは注力します。計画通りに進めるためにリソースを多く求めがちという話しも多く聞きます。

プロトタイプが完成し承認されれば、次のフェーズへ進むことになります。フェーズが進むにつれて、計画の精度が高まり、より多くのプロジェクトマネジメントが必要となります。

潤沢なリソース、経験値、そして分析力があればコーゼーション思考のプロセスの方が有効だとは常々思うところです。エフェクチュエーション思考をやる必要はありません。

コーゼーションとエフェクチュエーション両者の比較

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

スライドに示されている通り、コーゼーション思考は事前の計画や目標達成に重きを置きますが、エフェクチュエーション思考は現在の状況に柔軟に対応し、プロセスの中で目標を形成していきます。この違いは、特にリソースが限られた状況や不確実性が高い状況において、エフェクチュエーション思考がより適していることを示しています。

プロジェクトの状況や制約に応じて、どちらのアプローチを採用するかを判断することが重要です。例えば、リソースが限られており、不確実性が高いゲーム開発の初期段階では、エフェクチュエーション思考が効果的かもしれません。しかし、プロジェクトが進行し、リソースが増え、計画の精度が高まる段階では、コーゼーション思考が有効となる場合があります。

プロジェクトマネジメントは、多くの人にとって難解でストレスの多い作業と感じられるかもしれません。しかし、エフェクチュエーション思考を取り入れることで、プロジェクトはゲームのように楽しく、そしてクリエイティブな挑戦として捉えられるようになります。

ここで1つの仮説があります。ここゲーム業界の方とじっくり話したいです。

ゲームの黎明期は制約条件も多く、リソースも少なく、不確実性も高い、エフェクチュエーション思想でのプロジェクトが多かったのでは?

伝えていくためのエピソードを集めてきたい。

プロジェクトをゲームのように楽しむ

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

本セッションのテーマの1つである「プロジェクトをゲームのように楽しむ」についてお話しします。

プロジェクトを進める過程をカードゲームに見立ててみましょう。

手元にある様々なカード(リソースやアイデア)を使い、目の前の何かしらのチャレンジに立ち向かいます。このカードを今使うべきか、それとも後に取っておくべきか。どこまでリスクを取るのか、どのカードと組み合わせるべきか。さらには、誰と協力するべきかを考えながら、プロジェクトを進めます。

カードゲームのように、戦略を練り、状況に応じて戦略を変更しながら、プロジェクトの勝利に向かって進んでいきます。時には、レアカードを使って状況を大きく変える必要があるかもしれません。

勝つためにはカードゲームのようにターン毎に考え戦略を再構成しなければなりません。

ゲームのように楽しむためのエフェクチュエーション思考

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

エフェクチュエーションの5つの原理と比較してみましょう。

  • 手中の鳥の原則:今持っているリソースを最大限に活用する。

  • 許容可能な損失の原則:リスクを許容範囲内に抑える。

  • クレイジーキルトの原則:予想外の協力関係を築き、資源を拡大する。

  • レモネードの原則:予期せぬ出来事をチャンスとして捉える。

  • 飛行機の中のパイロットの原則:状況に応じて柔軟に行動し、方向を修正する。

どちらのゲームが好きか?

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

コーゼーション的なゲームとエフェクチュエーション的なゲームの違いを比較すると、それぞれのアプローチが持つ魅力が見えてきます。コーゼーション的なゲームは、明確な目標と計画に基づいて進行し、予測可能なリスクやリソース管理が重視されます。一方、エフェクチュエーション的なゲームは、プレイヤーが自分で目的を設定し、手に入れたリソースを自由に活用しながら、創造的で自由度の高いプレイが楽しめます。

どちらのアプローチが適しているかは、プロジェクトの性質や状況によりますが、エフェクチュエーション思考は特に不確実性が高く、リソースが限られた状況で有効です。

私はどちらのゲームも好きです。

エフェクチュエーション思考のプロセスにおいて、さらに3つの大事な捕捉があります。

捕捉1:プロダクトライフサイクルとアプローチの選択

プロジェクトマネジメントにおいては、プロダクトライフサイクルの各段階で適切なアプローチを選択することが重要です。

例えば、プロジェクトの開始時は不確実性が高いため、エフェクチュエーション思考が効果的でしょう。一方で、アイテムやキャラクターの量産やQAなどの工程では、過去の経験も活かしやすいのでコーゼーション思考が適しています。最終調整やマーケティングフェーズにおいては、両者を組み合わせたハイブリッドアプローチが良いかも知れません。運用フェーズはコーゼーションが良いでしょう。そしてライフサイクルが終焉に近づくと、エフェクチュエーションで新たな打ち手をつくるか、コーゼーションで最小リソースで運用、またはクローズに向かいます。

このように、プロダクトライフサイクルに応じてアプローチを柔軟に切り替えることが、重要な鍵となります。

捕捉2:メタ認知の重要性

メタは直訳すると「高次の」という意味。メタ認知とは自分自身の思考プロセスを意識・監視し調整する能力です。エフェクチュエーションの5つの原則を理解し、それを意識的に活用することで、エフェクチュエーションのメタ認知が進みます。

エフェクチュエーションのメタ認知を活用することで、不確実性の高い場面でも状況の理解が容易になり自分でコントロールできる状況をつくりだせるようになります。

捕捉3:エフェクチュエーションとアジャイル開発の比較

CEDEC2024:プロジェクトをゲームのように楽しむ - エフェクチュエーション理論によるプロジェクトマネジメントのアップデート

エフェクチュエーション思考とアジャイル開発を比較することで、それぞれの特徴を明確にします。エフェクチュエーションは、リソースを最大限に活用しながら、不確実性に適応して進むアプローチです。一方で、アジャイル開発は、計画と柔軟性をバランスさせながら、顧客中心で開発を進める手法です。両者の違いを理解することで、プロジェクトの性質に最適なアプローチを選択することができます。

「アジャイル開発とエフェクチュエーション」の整理は始めたばかりなので、これからの大きなディスカッションテーマにしていく予定です。

エフェクチュエーションをプロジェクトに取り入れる

不確実性を恐れるのではなく、機会として捉える思考
プロジェクトの進行中には不確実な状況が多く発生しますが、それを恐れるのではなく、新たなチャンスとして捉えることが重要です。予期せぬ出来事をポジティブに受け入れ、柔軟に対応することで、新たな可能性を見出すことができます。

プロジェクトを(難しいけど)コントロールできるという思考
プロジェクトの複雑さに圧倒されず、自分たちがコントロールできる要素をしっかりと把握し、プロジェクトを前進させるための意思決定を行います。難しさを克服するために、エフェクチュエーションのメタ認知を活用して、現状をしっかりと理解し、コントロールによって具体的な行動に落とし込みます。

制約条件を味方にする、制約条件こそコントロールするために必要
プロジェクトには必ず制約が伴いますが、それを阻害要因として捉えるのではなく、コントロールするために存在するととらえます。制約条件があるからこそ、それらが飛行機の中の計器のように、計器を用いてコントロールするというイメージです。

資産を蓄積していく、余剰価値も希少価値に変えていく
個人や組織の経験やスキル、作ってきた素材、知財など蓄積していきます。ボツになったアイデアも資産として蓄積していきます。余剰価値も見方を変えれば希少価値に変わるかもしれません。また余剰リソース(組織の中で今は余っている、またはスキルが低いなども)は活用することで失敗を招くかもしれないというリスクより、何もしなかったら何も起こらない。という視点が考えることが大事ととらえます。ただしチームでの心理的安全性がとても大事になります。

過去の成功体験(既存思考、コーゼーション的な進め方)から脱却
過去の成功体験に囚われず、新しいアプローチや思考法を取り入れることが、変化の激しい環境下では重要です。ゲーム業界も変化が激しいと認識しています。過去の成功体験からの脱却を意識して欲しいです。

コーゼーションとエフェクチュエーション、どちらも大事
コーゼーションとエフェクチュエーションのバランスが重要です。計画的な進行が求められる場面ではコーゼーションを、不確実性が高い場面ではエフェクチュエーションを活用し、それぞれの利点を最大限に引き出すことが成功の鍵となります。

プロジェクトをゲームのように楽しむ
最後にエフェクチュエーション思考を仕事に取り入れて、プロジェクトをゲームのように楽しんでもらいたい。

最後のメッセージ

エフェクチュエーション思考とプロジェクトマネジメントとの融合が新たな可能性を切り開くのではないか。

従来のコーゼーション的なアプローチだけでは限界があることを感じている方も多いでしょうし、意識せずにエフェクチュエーション的なアプローチでチャレンジしている人も多いという認識です。

エフェクチュエーション理論という言葉と方法論を知っている組織内で共通の言葉になっている、まずはここから始めたい。

ゲーム業界にも、エフェクチュエーション理論を浸透していきたい。

質疑応答

(問)リスクを飲み込める範囲を見誤ると致命的な失敗に繋がる危険がありますが、どのようにして許容可能な範囲を設定すべきか、また気をつけるべき点はありますか?

(柏木)リスクの許容範囲を設定する際には、まず自分で決めることが大事です。しかし、個人だけでなく、他の関係者を巻き込んでいくことで、より現実的な範囲を決められるようになります。例えば、ゲーム開発においては、どれくらいの予算を使ってよいか、どれだけのリソースを投入できるかなどを具体的に決めていく必要があります。

(谷口)許容可能な損失というのは、個人や組織によって異なります。大規模な組織であれば大きなリスクを取れる場合がありますが、個人の場合は少額のリスクや時間、世間体や信用などを考慮する必要があります。これらをすべて書き出して、何が許容可能であるかを明確にすることが重要です。

(問)リターンについてどう思いですか?例えばCEDEC登壇を選んだ理由は?

(柏木)エフェクチュエーションという新しい考え方を広めたいという目標がありました。プロジェクトマネジメントにおいては、ゲーム制作は時には非常に厳しいプロセスになることが多いです。コーゼーション的なアプローチが主流です。しかし、エフェクチュエーションの考え方を取り入れることで、もっと楽しさを追求できると考えています。

(谷口)考える時に手中の鳥を見る。今自分が持っているものとか、人脈だとか知識だとかをかき集める。そしてエフェクチュエーションは利益にはフォーカスしない考え方なんですね。
ただ、損失にフォーカスします。例えばCEDECに登壇した場合に失うものをまず見ます。それは私の多分時間です。関西からわざわざここに来てるわけですから、この時間を失いますね。資料作る時間とか、交通費ありますよね。飛行機に乗ってきました。今日でそれが失うものです。
それともう一つ失うものを考えるんです。それはCEDECに登壇しなかった場合に失うもの。それはこの皆さん方にエフェクチュエーション伝えるという、この大きなチャンスを失いますね。もしかしたら何か新しい可能性も失うかもしれない。この両方の損失を掛け合わせるのです。利益ではなくて損失。
ここに来なかった場合に失う損失、機会損失と言いますけど、その時考えたら、どう考えても時間とか交通費よりもこの機会を失う方が私は惜しいと思ったので来たということです。

(問)プロジェクトマネジメントがコーゼーション的になりがちな要因として、スタッフの健康管理やその他の制約条件があると思いますが、それに対する解決策やアイデアがあれば教えてください。

(柏木)コーゼーション的なアプローチを取らざるを得ない状況は確かに存在します。しかし、エフェクチュエーションという考え方を知ることで、異なる視点で問題を捉えることができます。例えば、スタッフの健康管理といった制約条件の中でも、エフェクチュエーションのマインドセットを持つことで、少しずつ新しいアプローチやイノベーションが生まれる可能性があります。
また、過去の経験や他の人々と共有することで、問題の捉え方が変わり、コーゼーション的なアプローチに縛られずに解決策を見つけやすくなるかもしれません。
例えば、ガラケーの小さな画面でゲームを作るときに感じた制約も、エフェクチュエーション的に考えると、制約の中で新しい発見やイノベーションを生むきっかけになることがあるかもしれません。

(谷口)エフェクチュエーションを発見したサラス・サラスバシー先生はエフェクチュエーションが一番いいとは言ってないです。コーゼーションで解決できる問題ならコーゼーションの方がむしろ有効だろうということは言ってます。
とはいえコーゼーションの世界では偶然が想定されてないんですよね。でも偶然はあるし、失敗はあるし、その時にエフェクチュエーション的なマインドセットを導入されると非常にいいんじゃないかという話ですね。

(問)エフェクチュエーションをチームで実践する際に、どのように進めればよいか、注意点を教えてください。

(谷口)チームでエフェクチュエーションを導入する際には、まずメンバー全員がこの考え方を理解し、共有することが重要です。具体的には、「手中の鳥」(現在持っているリソース)をチームで出し合い、ディスカッションを行うことが効果的です。このディスカッションを通じて、各メンバーの許容可能な損失を明確にすることができます。
ただし、このプロセスが成功するためには、チーム内での心理的安全性が確保されていることが前提です。心理的安全性がないと、メンバーが率直に意見を出し合えず、エフェクチュエーションが浸透しにくくなります。逆に、安全性が確保されていれば、一度のディスカッションでチームビルディングが大いに進むということが実践で明らかになっています。

Ask the Speaker、そして

Ask the Speakerでは様々なゲーム会社や学校の先生など、延べ20人弱の人が60分を越えてディスカッションしました。時間が全然足らないので続きをやりましょう!コミュニティ化していきましょう!となりました。クレイジーキルトの原則が発動です。早速その場でメッセンジャーグループも作りました。

まだアイデアの段階ですが、

  • エフェクチュエーションの認知を広げる活動(会社のメンバーにどうやって伝えたか?の伝え方の方法や、本当に伝わったのか?の共有)

  • プロジェクトマネジメントにどう適応させていくか、どう実践していくか、コーゼーションとの棲み分けなどのディスカッション

  • 各社の実践事例共有会

ディスカッションテーマのアイデアとして

  • 手中の鳥「資源の拡大サイクル」をどうやってやるべきか?

  • コーゼーションの思考に縛られている組織をどう変えていくか

  • アジャイル開発との比較

  • プロジェクトをコントロールするには

まだまだ増えそうです。

野望は来年のCEDEC2025に「エフェクチュエーション×プロジェクトマネジメントの実践事例、2024年のask the Speakerから各社を巻き込んで推進した話」です。

興味を持ってくれたゲーム会社の皆さま、引き続きよろしくお願いします!


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アレとソレを組合せてみたらコノ課題を解決できるソリューションができるよね?と言うパズルをやるような思考回路です。サポートして頂いた費用は、プロジェクト関連の書籍購入やセミナー参加の資金にします。