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夫が亡くなった結果のドイツ出張

ドイツまで海外出張に行った。
今の会社は海外出張の前後に休暇を追加してもOKという素晴らしい会社なので、前後の週末の移動を避けて合計で12日間程出張していた。

世界各国の人事を中心に、組織の風土作りに興味がある人を集めて開催された会議と、本社で打ち合わせをしたりが目的だったが、交渉事がある訳でもなく、割と気軽な出張だった。

ちょっと期間が長いので、数日前から冷蔵庫の中身を食べ、
なんとか盛りだくさんだった仕事も片づけ、
ひとりでモゾモゾ準備し、
台風の大雨の中、バス移動を断念し、タクシーを手配し、
ゴソゴソひとりで旅立った。

昨年脳腫瘍で亡くなった夫はタクシーも頻繁に利用していた。
家の電話機の近くには彼の関係者連絡先一式が置いてある。
ケアマネさん、ヘルパーさん、訪問看護さん、訪問医さん、病院、タクシー、リハビリさん、相談員さん等

彼がタクシーを使うのは私が仕事で同行出来ない時。
殆どが障がい者支援センターでの活動に参加する時だった。
彼は歩行器があり、乗り降りも大変だったので JAPAN TAXIタイプでなければならなかった。障がい者手帳や行き先の細かな説明も必要で、TAXI GOなどのアプリは使えず、必ず電話で細かな連絡をしていた。

久々にその彼の関係者連絡先リストを見ながらタクシー会社に電話をした。
そして、台風の中タクシーに私ひとり乗り、色々なことを思い出していた。

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出張は、フライト遅延により乗り継ぎ先で1泊が必要になったり、荷物が紛失し、8日間も戻ってこない等のトラブルもあったが(笑)、楽しかった。
家族で電車や飛行機に乗る時、必ず窓側が息子、真ん中が私、通路側が夫の順番で座っていた。
今回は私ひとりなので、窓際を占拠し、雲の上の様子もじっくり見られた。

荷物紛失騒ぎはあるが、私ひとりなので、どうにでもなる。
ホテルの部屋でどんな姿でいても困ることはない(笑)
好きな時間に気が向いたものを食べ、好きに仕事をし、観光もした。

若い頃も国際系の仕事をしていたので海外出張には行っていた。
個人事業主になり、海外とオンラインで仕事をするようになったものの、もう海外出張に行くことはないだろうな、とそこだけは寂しく思っていた。

まさか、そこからアッと言う間に没イチになり、また会社員になり、50歳を超えて再度海外出張に行く仕事に就くと誰が想像していただろうか。

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私は仕事が好きだ。
彼が旅立ったおかげで(?)、会社員になり、好きなだけ気軽に海外出張にも行けるようになったんだよな、と思うとちょっと複雑な気分でもあった。
独り身になり、一番気軽に気楽に海外で仕事に没頭できる。
なんというか、これってどうなんだろう。。。

海外の人はファミリー愛が強く、平気でダンナさんや子どもの話をする。
「そろそろ家族が恋しいわ」なんてことも言う。

それ、私にはいないんだよね。
息子も遠方でひとり暮らしてるし。
「家族が恋しい」ってどんな感じ?
そんなラブラブな時代、私にはなかったよ。

でもさ、夫が病気で昨年亡くなって、なんて正直に言ったら
「Oh! Noooo! I'm so sorry」
(残念な、という意味だけれど、聞いてごめんなさいにも聞こえる)
と言われるだけ。

息子の話はするけど、夫のことは黙っていた。
きっと、離婚してシンママと思われてるかな、とか思いながら。

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最近夫さんを亡くしたママ友の辛いよ~LINEを受け止めながら、
ひとりでドイツをさまよった。

私には大した趣味がない。
グルメじゃないし(ケチャップとポテチを野菜と分類する国育ち)、
高級ショッピングもしない。
観光地巡りも興味がない。

海外のレストランは夫婦やファミリーが多く、日本のように一人で入れるところは少ない。
小食なので、どうせそんなに食べられないし。
地元スーパーで食材とドイツビールの瓶を買って飲みながら済ます。

バカみたいにひたすら街を歩き回る。
スマホのGPSとも仲良くないので、自分の位置が分からなくなりながら。

そんなある日、近くの湖がとてもキレイで、ベンチでちょっと寝た。
空を見ながら寝るのが、猛烈に気持ち良かった。

その時、「あー、私って疲れてたんだな」と思った。

そりゃそうよね。

ダンナが亡くなって1年ちょっと。
お見送りして、色々手続きして、面接して、就職して、初めての会社、初めての業種、初めてのポジション、久々の会社員生活、海外出張。
何も考えず、駆け抜けてきたんだなと思い返した。

よく頑張ったなー。

確かに、彼が行ってみたかったドイツでお気楽極楽に出張を兼ねてゆっくりしているのは複雑だ。
でも、「生きている人が優先」が私のポリシー。

きっと、私がまた仕事に戻って海外に飛べるだけの時間を残して旅立ってくれた、彼の優しさ・・・だと思うことにしよう。




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ドイツ、キレイなところだったよ。
ソーセージも美味しかったよ。
海外旅行先で、ちょっと目を離すとすぐに行方不明になってしまうあなたを探していた日々を懐かしく思い出していたよ。

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